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 平成18年版 犯罪白書 第6編/第1章/4 

4 本特集のねらい

 前記のとおり,我が国の犯罪情勢は,予断を許さない状況のまま推移しており,国民の治安に対する不安には,根強いものがある。しかし,一般刑法犯の認知件数という数値のみを見れば,平成14年のピークを過ぎた後,現在は減少傾向を示しつつあり,このような時期に,改めて近時の犯罪情勢を客観的に分析した上,治安回復に関連する様々な取組の一端を紹介し,考察することには,刑事政策上相応の意義があると考える。
 本特集においては,このような観点から,近時における犯罪情勢について,客観的な統計数値等に基づき分析し,その背景にあるものを探ることを試みた上,犯罪者処遇上の施策を含め,治安回復や国民の不安の解消に関連する諸施策を取り上げ,刑事政策に関連する新たな動きとして紹介する。
 次に,国民が身近に不安を感じ,社会的関心の高い犯罪の一例として,性犯罪を取り上げ,刑事政策に関連する新たな動きの一つとして,性犯罪者の再犯防止のための処遇上の取組について紹介する。
 性犯罪は,被害者の心身に深刻な被害を与えることが少なくない犯罪であり,特に,被害者の人格の尊厳を傷つけ,長い年月にわたって,その精神面に悪影響を及ぼす場合が多いといわれる。性犯罪は,近年における認知件数の増加傾向が最近落ち着きを見せ始めているとはいえ,もともと被害者が被害を届け出ることをためらうことが多いと指摘される犯罪類型であり,その暗数も無視できない。また,年少者に対する凶悪事犯等も発生し,社会に強い不安感を与えている。
 本特集においては,このような現状を踏まえ,性犯罪の動向や性犯罪者の実態及び再犯状況等を分析した上,矯正,更生保護の分野を通じて,最近,取組が開始された性犯罪者処遇プログラム等について紹介する。
 最後に,刑事政策に関わる刑事司法の分野における当面の最重要課題として,裁判員制度の導入をはじめとする司法制度改革を取り上げ,改革の進捗状況やこれを定着させるための取組について紹介する。さらに,裁判員制度定着に向けた検討のための基礎資料とするため,裁判員裁判対象犯罪の動向について概観し,併せて裁判員裁判実施に向けての問題点等についても言及したい。
 裁判員裁判の導入をはじめとする司法制度改革や性犯罪者処遇プログラムは,いずれも,刑事政策に関連する新たな動きの典型である。本白書は,「刑事政策の新たな潮流」を副題(特集標題)とした上,これを紹介する本特集を通じ,刑事政策が今後進むべき方向に関する議論のための基礎資料を提供することを目指すものである。