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 平成17年版 犯罪白書 第4編/第6章/第1節/2 

2 少年司法制度

 少年刑事司法の基本法として,刑法及び刑事訴訟法の特別法である犯罪少年に関する1945年2月2日付けオルドナンス(Ordonnance)がある。同オルドナンスは,2002年及び2004年に大きく改正された。
 犯罪は,法定刑により,重罪(crime),軽罪(delit)及び違警罪(contravention)に分けられている。重罪は,無期又は10年以上30年以下の有期の懲役又は禁錮等が科せられる犯罪であり,軽罪は,10年以下の拘禁刑,罰金,公民研修(stage de citoyennete),公益奉仕労働等が科せられる犯罪であり,違警罪は,罰金等が科せられる犯罪である(なお,違警罪は,罰金の額により,更に第1級から第5級までに分けられる。)。成人の場合,この犯罪の3区分に応じて刑事手続が異なり,判決手続を担当する裁判所も異なる。
 検察官は,受理した事件について,公訴権発動(poursite penale),公訴権発動代替措置(alternative aux poursuites)(法的義務の警告,公衆衛生等の機関の実施する研修等への参加,刑事和解,賠償措置等),不起訴(classement sans suite)の三つの選択肢を有する。
 検察官が公訴権を発動する場合,少年の事件については,原則として予審請求する。予審は,犯罪事実を明らかにするとともに,少年の人格とその再教育のため適切な手段を知るために実施される。重罪の事件の場合には,予審は必ず実施しなければならず,少年事件担当予審判事(juge d’instruction charge des affaires de mineurs)に予審請求する。軽罪の事件及び違警罪の事件の場合には,少年事件担当予審判事又は少年裁判官(juge des enfants)に予審請求するが,通常,軽罪の事件のうち複雑な事件又は成人の共犯者のいる事件については少年事件担当予審判事に,それ以外の事件については少年裁判官に,それぞれ予審請求する。検察官は,軽微・簡易な事件については,例外的に予審請求せずに,直接判決手続に事件を係属させることを求める場合がある。
 予審終結後,予審免訴(non-lieu)の場合以外は,判決手続に移行する。
 犯行時16歳以上の少年が犯した重罪の事件の判決手続は,少年重罪院(Cour d'assises desmineurs)が管轄する(この場合には,成人の共犯者も共に審理可能。)。少年重罪院は,いわゆる参審制度がとられ,3人の職業裁判官(裁判長は控訴院の裁判官,陪席裁判官2人は少年裁判官である。)と9人の参審員で構成され,職業裁判官と参審員が共に評議し,有罪性及び量刑を評決する。
 重罪の事件(犯行時16歳未満の少年が犯したものに限る。),軽罪の事件及び第5級違警罪の事件の判決手続は,少年裁判所(tribunal pour enfants)が管轄する。少年裁判所は,裁判長の少年裁判官と,非職業裁判官(再任可能な4年間の任期で少年問題に関心を有し能力もある者から任命される。)である陪席裁判官2人で構成される。
 軽罪の事件(法定刑の上限が7年以上の拘禁刑で少年が16歳以上の場合を除く。)及び第5級違警罪の事件の判決手続は,更に少年裁判官も管轄する。少年裁判官は,有罪の場合,刑の免除又は教育的措置の宣告をする。
 第4級以下の違警罪の事件の判決手続は,近隣判事(juge de proximite)又は違警罪裁判所(tribunal de police)が管轄し,有罪の場合,戒告又は罰金の宣告をする。
 少年の事件の審理手続は,一般には公開されず,被害者,証人,少年の保護者等の関係者だけが出席できる。判決裁判所での判決宣告は,公開法廷で行われる。
 刑事上の責任に関しては,年齢的な下限は存せず,善悪識別能力(discernement)を有する少年には刑事責任があるとされる。教育的措置(戒告,保護者への引渡し,5年を超えない期間の司法保護,資格のある公立・私立の教育又は職業教育の機関又は施設への収容,資格のある医療又は治療教育施設への収容,公立の教護又は矯正教育機関への収容等)については,いかなる年齢の少年も対象になる。
 しかし,刑罰(peine)や教育的制裁措置(sanction educative)(没収,犯行場所等への立入禁止,被害者との接触禁止,共犯者との接触禁止,賠償措置,公民教育研修への参加)については,犯行時の年齢に応じて,次のような制限がある。
 犯行時10歳未満の少年は,刑罰及び教育的制裁措置の対象にはならない。
 犯行時10歳以上13歳未満の少年は,刑罰の対象にはならないが,教育的制裁措置の対象になる。
 犯行時13歳以上16歳未満の少年は,教育的制裁措置及び刑罰の対象になる。ただし,法定刑の半分を超える刑期の自由刑を宣告することはできない。また,法定刑が無期懲役の重罪の場合には,20年を超える刑期の懲役を宣告することはできない。罰金については,法定刑の半分又は7,500ユーロを超える金額を宣告することはできない。
 犯行時16歳以上18歳未満の少年は,教育的制裁措置及び刑罰の対象になり,特別な理由がある場合には,前記減軽措置を適用せず,また,公益奉仕労働の宣告をすることもできる。
 少年の父母の責任が問われることもある。正当な理由がないのに親としての法律上の義務を免れ,少年の素行等を著しく危うくしたとき等は,軽罪を構成する。検察官は,この犯罪についての公訴権発動代替措置として,少年の父母に養育研修(stage parental)への参加を命ずることができる。また,裁判官・裁判所の召喚に応じなかった少年の父母は,民事罰金(amende civile)の対象となる。