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 平成17年版 犯罪白書 第4編/第5章/第4節/1 

第4節 重大事犯少年の矯正施設における処遇

1 少年院における処遇

(1) 少年院調査対象者の属性

 調査対象者278人のうち,少年院送致とされた者は,123人(44.2%)であり,このうち,原則逆送少年で少年院送致とされた者は90人(起訴後,地方裁判所の審理の結果,家庭裁判所に移送され,少年院送致とされた10人を含む。)であった。少年院送致決定の種別は,中等少年院送致が76人(84.4%),特別少年院送致が9人(10.0%),医療少年院送致が5人(5.6%)であった。中等少年院送致の76人のうち,一般短期処遇は11人(14.5%),長期処遇は65人(85.5%)であった。また,原則逆送少年で少年院送致とされた90人のうち,平成17年3月末日までに少年院を出院した者は,52人(57.8%)であった。
 ここでは,この52人の少年院出院者(以下「少年院調査対象者」という。)に対して,少年院において,どのような処遇の計画を立て,どのような処遇を行ったかについて,法務省矯正局の資料に基づいて分析を行った。
 少年院調査対象者を男女別に見ると,男子43人(82.7%),女子9人(17.3%)であった。非行名別・非行類型別に見ると,4-5-4-1表のとおりである。
 非行名では,傷害致死が35人(67.3%)と最も多く,次いで,殺人が12人(23.1%)であった。非行類型別では,集団型が34人(65.4%)と最も多く,次いで,家族型が14人(26.9%)であった。

4-5-4-1表 非行名別・非行類型別少年院調査対象者

 少年院調査対象者を入院少年院種類別・非行類型別に見ると,4-5-4-2表のとおりである。
 入院した少年院の種別は,中等少年院が48人と92.3%を占めていた。家族型で医療少年院に入院した2人は,人格障害の疑い及び非定型精神病の疑いがあった。なお,中等少年院へ入院したものの,在院中に心因反応と診断され,医療少年院に移送され,医療少年院から出院した者1人が含まれていた。

4-5-4-2表 入院少年院種類別・非行類型別少年院調査対象者

(2) 個別的処遇計画の内容

 個別的処遇計画は,家庭裁判所が一般短期処遇勧告を行った場合にはそれに従い,その他の処遇勧告を行った場合にはその勧告の趣旨を十分に尊重して立案されている。個別的処遇計画で設定した教育期間は,4-5-4-3図のとおりである。
 家庭裁判所から一般短期処遇の処遇勧告があった9人は,教育期間を半年未満に設定していた。他方,収容期間について2年から3年程度の家庭裁判所の処遇勧告があった者が多く,設定された教育期間の幅は,最大3年まで広がっていた。

4-5-4-3図 個別的処遇計画で設定した教育期間

 個別的処遇計画で設定した個人別教育目標の内容は,4-5-4-4図のとおりである。
 贖罪・生命尊重に関連する分野では事件の重大性の認識に関する目標,自己改善に関連する分野では主体性・自立性の向上に関する目標,対人関係に関連する分野では対人関係構築力向上に関する目標,社会復帰に関連する分野では将来の生活設計に関する目標が,それぞれ多く設定されていた。
 なお,入院当初に設定された個別的処遇計画の教育期間及び個人別教育目標等は,目標達成が容易でないと見込まれるとき,保護環境上の変動があったとき等,随時,その内容が検討され,修正又は変更される。少年院調査対象者中,心因反応により精神面での不調を来たし,一般少年院から医療少年院に移送された少年等の場合には,個別的処遇計画の内容の修正・変更が行われていた。

4-5-4-4図 個別的処遇計画で設定した個人別教育目標の内容

(3) 教育の実施状況

 少年院では,重大事犯少年の場合,事件の重大性の認識,慰謝の責任の自覚等の個人別教育目標の達成が特に重要であるとされている。
 被害者の視点を取り入れた教育及び治療的教育の実施状況は,4-5-4-5図のとおりである。
 作文指導(事件・被害者関係),篤志面接委員等との面接,月命日内省(毎月の被害者が亡くなった日に当たる日に事件や被害者について内省を深めさせること),ロールレタリング(対被害者)等が多くの少年に実施されており,少年院調査対象者52人のうち10人(19.2%)に対して犯罪被害者・遺族による講演が実施されていた。また,個別担任の教官による個別面接及び日記指導等の様々な教育方法が実施されていた。

4-5-4-5図 被害者の視点を取り入れた教育・治療的教育の実施状況

 保護者に対する働き掛けの実施状況は,4-5-4-6図のとおりである。
 保護者会において保護者に対する働き掛けを行った者の比率が84.6%と最も高かった。さらに,個別的な働き掛けとして,保護者面談並びに少年,保護者及び少年院教官による三者面談が実施されており,保護者会に出席しなかった保護者に対しても,面会等の機会を利用して,積極的に働き掛けを実施していることがうかがわれた。また,実母が心情的に不安定で,親子関係に大きな問題のあった兄殺しの少年及びその家族に対してファミリーカウンセリングを定期的に実施した事例もあった。

4-5-4-6図 保護者に対する働き掛けの実施状況

 全般的な処遇経過としては,少年院における様々な働き掛けを通して,自らの問題を見つめ直し,改善し,出院に至っている。ただ,出院時の処遇成績が良好であった者も入院当初から良好な状態であったわけではない。入院時には,事件の原因を共犯者に押し付けようとする意識が強かったり,周囲に同調しやすいという自分の問題を意識するあまり,何事にも消極的であったり,収容期間の長さに不満を抱いたりするなどの問題が見られた。しかし,教官による指導,保護者との交流等を通じて行動面,意識面に大きな改善が見られている。
 一方,問題性が大きく,処遇に困難を来した主な事例は,次のとおりである。

[1]暴力によるストレス発散傾向が強かった傷害致死の事例(集団型の男子)

 主犯が成人の集団傷害致死事件に同調的に関与し,特別少年院送致とされた事例。
 入院後も周囲の状況に影響されやすく,教官に対して暴力を振るう規律違反を引き起こした。家庭的には,幼少期から酒癖が悪く暴力的な父親にほんろうされ続け,い縮しがちな性格傾向が形成されてきていたが,そうした弱さを見せまいと虚勢を張り,暴力によってストレスの発散を図ろうとする姿勢が身に付いていた。
 こうした少年に対し,部外者による継続的なカウンセリングを実施し,心情の安定を図るとともに,暴力という手段を用いることの問題性に目を向けさせた結果,徐々に落ち着いて生活に取り組むようになった。また,弁護士の指導によって具体的慰謝計画を被害者の遺族に提示し,受けいれられたことによって,真しな姿勢で和解金を支払っていく決意を固めるようになった。

[2]付和雷同性が強く,内省が深まらなかった傷害致死の事例(集団型の男子)

 仲間の悪口を言ったとして,被害者に集団で暴行を加えた傷害致死事件に関与し,中等少年院送致とされた事例。
 寮集団の中で生活が不良な者に付和雷同しようとする傾向が強く,規律違反を繰り返した。両親が共働きで,甘えられずに寂しい思いをしてきたというひがみが強く,大人に甘えたい気持ちを残しているが,意地を張って素直に甘えることができず,仲間集団に迎合しやすかった。
 こうした少年に対し,犯罪被害者について考えさせるグループワークに参加させたり,担任教官による個別面接を繰り返し実施した。その最中に,父親の死に直面し,これまでの親子関係を見直していこうとする姿勢も強まり,責任感やリーダーシップも徐々に発揮できるようになった。

[3]困難場面で不安を強めやすかった事例(集団型の女子)

 年長の成人共犯に追従して強盗殺人に加担し,中等少年院送致とされた事例。
 当初は少年院生活に前向きに取り組んでいたが,次第に心情不安定となり,悲観的な気分に支配され,極端な食欲不振状態に陥った。もともと動作が遅く,不器用な少年であったが,神経質な父親,気持ちにゆとりの乏しい母親によって,干渉的な養育が行われ,現実対処力の乏しさや不安になりやすい傾向が顕著に認められた。
 こうした少年に対し,精神医療面での配慮を優先して,いったん医療少年院に移送し,精神科医による精神療法を集中的に行い,症状の回復を見たことから,再び元の少年院へ戻した。その後も,しばらくは身体面での不調をたびたび訴え,個室で休養をとる状態が続いたが,少年及び保護者に対する面談指導等を継続的に行った結果,家族関係に改善が見られ,両親と共に贖罪を続けていこうとする気持ちが強まり,供養のために写経を行ったりするようになった。

[4]自分の中だけでマイナスの感情を増幅させがちだった事例(家族型の男子)

 家族に暴力を振るっていた実父を殺害し,中等少年院送致とされた事例。
 少年院入院後,シーツやタオルをつなぎ合わせて「嫌なことがあったら,いつでも死ねる準備をしている」と言ったり,自傷行為や異物えん下等の問題行動が続いた。被害感や自己嫌悪感が顕著で,それを適切に解消できないまま,自分の中だけでマイナスの感情を増幅させやすかった。
 こうした少年に対し,精神医療面での配慮を優先して医療少年院へ移送し,処遇を実施することにした。医療少年院では,精神科医による精神療法を集中的に行ったり,サイコドラマ,担任教官による保護者を含めた三者面談等を実施した。その結果,次第に心情が落ち着き,職員に対しても本心を語ったり,日記等にも不満を表現することができるようになった。ただ,出院後も適切な形でストレス発散ができるかどうかには若干の不安が残った。
 以上のように,事件の悪質性の度合いと少年院内での処遇の困難さが単純に比例するわけではない。むしろ,少年院内での処遇に困難を来す背景には,資質面での問題の根深さ,家族の支えの乏しさ等があることがうかがわれた。特に,集団非行に走りやすい他者依存性の強さ,混乱した家庭環境の中で放置されてきた情緒面での未成熟さ等によって,少年院の集団処遇にうまく乗れず,規律違反や自殺未遂等の問題行動を繰り返す者が見られた。これら処遇に困難を来した少年に対しては,前述のように,数人の教官チームによる集中的な個別処遇の実施,教育期間の延長,他少年院への移送等の様々な働き掛けを行い,問題の改善を確認できた状態で出院させている。

(4) 出院状況

 52人の出院事由は,すべて仮退院であった。入院から出院までの在院期間は,4-5-4-7図のとおりである。
 一般短期処遇の9人は,いずれも半年内で出院していた。長期処遇の43人は,平成16年の少年院出院者全体の在院期間と比較すると,在院期間がかなり長くなっている者が多かった。

4-5-4-7図 在院期間(日数)

 出院時の引受人別構成比は,4-5-4-8図のとおりである。
 実父の比率が67.3%と最も高く,次いで,実母(23.1%),その他の親族(5.8%),更生保護施設(1.9%)の順であった。地元の暴力団との関係を絶つために,地元から離れた祖母のもとに帰住した者等,積極的な帰住調整が行われた者も含まれていた。
 出院時の進路は,4-5-4-9図のとおりである。
 就職希望の者が多いが,就職先が決定していた者の比率は,25.0%にとどまっていた。復学・進学希望者も学校が決定していた者の比率は,3.8%にとどまっていた。

4-5-4-8図 出院時の引受人別構成比

4-5-4-9図 出院時の進路別構成比