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 平成17年版 犯罪白書 第4編/第5章/第4節/2 

2 刑務所における処遇

(1) 刑務所調査対象者の属性

 調査対象者278人のうち,平成16年3月31日以前に刑が確定した51人の少年受刑者(以下「刑務所調査対象者」という。)を対象に,17年2月1日までの時点で,刑務所においてどのような処遇の計画を立て,どのような処遇を行っているかを法務省矯正局の資料に基づいて分析を行った結果は,以下のとおりである。なお,刑務所調査対象者は,すべて男子で,少年刑務所に収容されていた。
 刑務所調査対象者を罪名別・裁判結果別に見ると,4-5-4-10表のとおりである。
 罪名では,傷害致死が41人(80.4%)と大半を占めており,裁判結果では,「3年を超え5年以下」の不定期刑が25人(49.0%)と最も多かった。

4-5-4-10表 罪名別・裁判結果別刑務所調査対象者

 刑務所調査対象者を罪名別・非行類型別に見ると,4-5-4-11表のとおりである。
 家族型はおらず,集団型の傷害致死が40人(78.4%)と大半を占めていた。

4-5-4-11表 罪名別・非行類型別刑務所調査対象者

(2) 個別的処遇計画の内容

 少年受刑者に対する個別的処遇計画に基づく処遇実施期間は,収容後,満20歳に達するまでの期間が3年に満たない者は,収容後3年間を目安とし,その余の者は,満20歳に達するまでの期間とされている。ただし,前記期間内に釈放される者は,釈放までの期間とされている。個別的処遇計画で設定した処遇実施期間は,4-5-4-12図のとおりである。
 3年の処遇実施期間を設定された者は,48人(94.1%)であった。

4-5-4-12図 個別的処遇計画で設定した処遇実施期間

 個別的処遇計画で設定した個人別処遇目標の内容は,4-5-4-13図のとおりである。
 贖罪・生命尊重に関連する分野では慰謝の責任の自覚に関する目標,自己改善に関連する分野では自己統制力のかん養に関する目標,対人関係に関連する分野では対人関係構築力向上に関する目標,社会復帰に関連する分野では勤勉性・職業技能向上に関する目標が,それぞれ多く設定されていた。

4-5-4-13図 個別的処遇計画で設定した個人別処遇目標の内容

(3) 処遇の実施状況

 刑務所調査対象者51人のうち,平成17年2月1日までに出所した者は,仮出獄の3人だけであり,その余の48人は刑務所在所中である。したがって,以下の処遇の実施状況は,多くの者が途中経過の実施状況であることに留意が必要である。
 少年受刑者に対する処遇は,重大事犯の少年受刑者の場合,事件の重大性の認識,慰謝の責任の自覚等の個人別教育目標の達成が特に重要であるとされている。
 被害者の視点を取り入れた教育等の実施状況は,4-5-4-14図のとおりである。
 篤志面接委員等との面接,ゲストスピーカーの指導,作文指導(事件及び被害者関係)等が多く実施されており,刑務所調査対象者51人のうち28人(54.9%)に対して犯罪被害者・遺族による講演が実施されていた。また,個別担任の教官による個別面接及び日記指導等が実施されていた。

4-5-4-14図 被害者の視点を取り入れた教育等の実施状況

 保護者に対する働き掛けの実施状況は,4-5-4-15図のとおりである。
 保護者会による働き掛けは,21人(41.2%)に対して実施されていた。さらに,個別的な保護者への働き掛けとして,保護者面談が22人(43.1%)に対して行われていた。

4-5-4-15図 保護者に対する働き掛けの実施状況

 全般的な処遇経過を見ると,入所当初から良好な状態が持続している者が多い。ただし,職業訓練には意欲を示しているが,職員に対してなかなか心を開こうとせず,内心何を考えているのか計りかねる者,可もなく不可もなく生活しているが,職員からの指導をどの程度真剣に受け止めているか分からない者等も見られた。その中で,生活面での問題性が目立った主な事例は,次のとおりである。

[1]仲間との関係維持にばかり目を奪われがちな事例(集団型の男子)

 日ごろから気に入らないと思っていた被害者に集団で暴行を加えて死亡させた傷害致死の事例。
 入所後も落ち着きが見られず,物品の不正授受行為や自傷行為によって懲罰を受けるなど,自分の問題に向き合うことができない状態が続いた。親への恨みと甘えの両方を強く残しており,親以外の対人関係においても相手との関係維持にばかり目を奪われやすいという問題性が顕著である。
 こうした少年に対し,教官による作文指導や篤志面接委員による面接指導を継続的に実施するとともに,外部講師による音楽や書道の情操教育を行っている。また,自動車整備の職業訓練に編入させ,将来の職業生活の自信となる資格取得に向けて,精一杯努力していくように働き掛けを行っている。

[2]反社会的な価値態度が顕著な事例(集団型の男子)

 暴走中のトラブルから金属バットで被害者の頭部を殴り,死亡させた傷害致死の事例。
 入所後も周囲の雰囲気に振り回されて気の緩んだ行動が見られたり,軽はずみな言動で周囲とトラブルになって取調べを受けるなど,低調な生活が続いていた。もともと気弱であるにもかかわらず,周囲の評価を気にして虚勢を張って自分の強さを示そうとする傾向が顕著である。
 こうした少年に対し,心理技官による定期的なカウンセリングを実施したり,生命犯を対象としたグループワークに参加させた結果,周囲に流されずに規則を守って生活しようとする姿勢が出てきている。

[3]自分に都合のよい現実認識をしがちで失敗を繰り返しやすい事例(集団型の男子)

 暴走族への参加を断ってきた被害者に対する制裁として集団で暴行を加えて死亡させた傷害致死の事例。
 入所後から意欲にむらがあり,課題への取組が持続しなかった。周囲に対する配慮が乏しく,言葉遣いも荒いことから周囲からも浮き上がった状態が続いた。自己評価は肯定的であるが,自分に都合のよい現実認識をしがちで,感情のままに動いたりして軽率な失敗をしがちであった。
 こうした少年に対し,心理技官による定期的なカウンセリングを実施中であり,その中で現実を客観的にとらえていく構えが徐々に見え始めている。
 以上のように,事件の悪質性の度合いと刑務所内での処遇経過が単純に比例するわけではなく,資質面での様々な問題によって不良な生活態度が現れてきていることがうかがわれる。なお,これら生活面での問題が目立った者は,いずれも在所中であり,問題の解決に向けて刑務所内で様々な働き掛けが行われている。