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 平成17年版 犯罪白書 第4編/第5章/第1節/3 

3 非行類型による分析

 これまで,重大事犯の非行名を中心とした分析を行ってきたが,以下,重大事犯の実態により深く迫るため,非行類型を用いた分析を行うことによって,類型ごとにどのような特徴が見られるかを検討する。
 非行類型の設定においては,まず重大事犯を一般事犯と交通事犯とに分け,交通事犯を「交通型」とした。次に,一般事犯のうち,被害者と加害者が親族関係にある事件(交際相手の実子を死亡させた事件を含む。)を「家族型」とし,それ以外の一般事犯を共犯の有無によって「単独型」及び「集団型」とした。

(1) 各非行類型ごとの特徴

ア 集団型

 重大事犯の中で最も多くを占める非行類型が集団型である。

集団型の具体例(男子)−暴走族集団のリンチによる傷害致死事件

 暴走族の悪口を言ったという理由で被害者を深夜に呼び出し,集団で暴行を加えた末に死亡させた事件。
 被害者が悪口を言っていないと頑強に否定したことから,嘘をついているに違いないと思い込み,制裁として集団で暴力を加え始めた。終始,無抵抗の被害者に多人数で殴る,けるなどの暴行を長時間にわたって加え続けたものである。
 集団型の非行名は,傷害致死が多く,保護処分歴のある者及び不良集団に所属している者の比率が高い。学校に通学していても勉学への意欲が低く,地域の不良仲間と交友したり,仕事への意欲が低いまま徒遊生活を送る中で不良集団に所属したりし,結局,不良交友関係の延長として集団の雰囲気に乗って重大事犯に至っている者が多く含まれる。
 集団型の共犯種類別構成比は,4-5-1-6図のとおりである。
 事件数は,遊び仲間の比率が34.3%と最も高く,次いで,暴走族が25.7%,成人共犯(暴走族,暴力団,遊び仲間及び親族以外の成人共犯をいう。以下同じ。)が24.3%であった。人員は,事件当たりの共犯数の多い暴走族の比率が40.3%と最も高く,次いで,遊び仲間(33.6%),成人共犯(18.5%)の順であった。なお,集団型は,ほとんどが男子であるが,211人中9人が女子であった。集団型の女子の共犯種類は,成人共犯7人,親族1人,遊び仲間1人であり,恋人関係等にある年長の異性に追従する形で事件を起こす事例が多い。

4-5-1-6図 集団型の共犯種類別構成比

 集団型の共犯種類別に事件内容を見ると,暴走族による事件では,集団による制裁が最も多く,その主なものは,暴走族からの離脱を表明したメンバーに対する集団リンチであった。遊び仲間による事件でも,嘘をついた,悪口を言ったなどを理由にして仲間内で弱い立場にある者に対して集団によるリンチを加えた事件が見られた。他方,暴力団がらみの事件では,日ごろからの威嚇的な言動及び飲酒による高揚した気分を背景に,飲食店及び路上でのささいなトラブルからけんかに発展し,被害者を死亡させた事例等が見られた。
 当初は被害者を多少痛い目に遭わせる程度の認識であったものが,集団的雰囲気によって暴力がエスカレートした結果,重大事犯へと至った事例も見られた。特に,主導者が明確でない集団リンチにおいて,事件がエスカレートしやすいことがうかがわれる。

イ 単独型

 他の非行類型と比較して,単独型に含まれる少年は,16人と最も少なかった。ほとんどが男子で,女子は1人のみであった。

単独型の具体例(男子)−将来を悲観した少年による強盗殺人事件

 被害者を鉄パイプで滅多打ちにして殺害し,現金を強取した事件。
 就職に失敗し,親にしっ責されたことから家出した少年が,寝場所の提供を受けるなどして世話になっていた被害者を殺害して所持金を奪うことを決意し,被害者の背後から鉄パイプを振り下ろし,頭部を滅多打ちにして殺害した上,現金等を強取したものである。
 単独型の事件内容を見ると,けんかが8人(50.0%)と最も多く,次いで,異性トラブル4人(25.0%),その他4人(25.0%)の順であり,それぞれの事件内容ごとに,様々な特徴の者が含まれている。
 けんかの8人は,単発タイプと粗暴タイプに区分けすることができる。単発タイプの4人は,いずれも非行歴はなく,生活の崩れや粗暴傾向も目立っていなかった。これに対して,粗暴タイプの4人は,家庭が崩壊していたり,争いの多い家庭であったり,母親から虐待を受けるなど,養育環境の不安定さが目立ち,資質的にも多動傾向が見られたり,小学校時からけんかを繰り返していたりと粗暴傾向も目立つタイプである。
 異性トラブルの4人は,恋人等との関係のもつれから異性の被害者を殺害するに至っている。これらの少年は,非行歴はほとんどないが,異性との感情的なもつれをうまく解決できずに短絡的に交際相手の殺害に及んでいる。それまで我慢し,本音を出さない生き方を選択してきた少年が異性との感情のもつれに直面したものの,適切な対応を取れず,激情に任せた行動に出て被害者を死亡させた事例等が見られた。
 その他の4人は,強盗殺人,放火殺人等の凶悪事件を単独で引き起こしているが,動機とその結果の重大性が余りに不釣り合いな事例,動機そのものが不可解で精神面での障害が疑われる事例等が含まれている。前者では,一応社会人となったものの,将来への確かな手ごたえを感じることができないまま,生きることの価値を見失い,通常の規範意識や相手への配慮等が著しく低下した状態で重大事犯に至った少年が見られた。後者では,自らの不幸の原因を周囲の人たちに一方的に求め,病的な妄想状態の中で重大事犯に至った少年が見られた。これらの事例では,挫折感や焦燥感等を自分の中だけで膨らませ,主観的に追い詰められた状態の中で,暴発的な攻撃行動に至っていることがうかがわれる。

ウ 家族型

 重大事犯の中で集団型の次に多い非行類型が家族型である。

家族型の具体例(男子)−父親への恨みを爆発させた傷害致死事件

 泥酔していた父親に暴行を加え,殺害した事件。
 酒に酔って,家族に殴る,けるの暴力を振るうことから,母親が家を出ていき,それ以来,少年は,兄弟の食事の用意など母親代わりに家事をしていたが,仕事もせず,毎日,酒を飲んでいる父親を見て恨みを募らせていた。本件時も,父親が仕事に行かず,泥酔して眠ってしまったことから,このような状況に追い込んだ父親への恨みをいっきに暴力によって爆発させたものである。
 家族型の少年は,他の非行類型の少年と比較して,犯行時の年齢が低く,学生・生徒の比率が高い。重大事犯を犯した女子の半数以上が家族型に属する。ほとんどの少年には,保護処分歴がないが,家族間の対立等,家庭内には様々な問題を抱えている。表面的には,目立った非行がなく,不良交友も見られないが,家族間の不和等の悩みを抱え,適当な相談相手がなく,ストレス発散が図れないまま,男子の場合はささいなきっかけで暴発的な攻撃行動に走り,女子の場合は多くがその子供を被害者とする事件に至っている。
 家族型の被害者数を種類別に見ると,子供が12人(42.9%)と最も多く,次いで,父親が8人(28.6%),母親,兄がそれぞれ3人(10.7%),祖父,祖母がそれぞれ1人(3.6%)の順であった。家族型には,12人の女子が含まれるが,このうち,10人はその子供を被害者とする事件にかかわっていた。
 家族型の被害者種類別の非行名別構成比は,4-5-1-7図のとおりである。非行名としては,殺人の比率が最も高いが,被害者が父親の場合のみ傷害致死の比率が87.5%と最も高かった。

4-5-1-7図 家族型の被害者種類別の非行名別構成比

 子供が被害者である事件の内容を見ると,女子による嬰児を死亡させた事件が9件とほとんどを占め,せっかん死が2件,ネグレクトが1件であった。さらに,非行名で見ると,嬰児を死亡させた事件のほとんどは殺人であり,せっかん死は傷害致死,ネグレクトは保護責任者遺棄致死であった。嬰児を死亡させた女子は,すべて未婚であり,妊娠を家族に知らせていなかった。
 父親が被害者である事件は,すべて男子によって行われていた。少年の側に家庭内暴力歴が多くの事例で見られ,被害者である父親の側にも,飲酒,暴力等の問題があった形跡がうかがわれる事例も多い。
 他方,母親が被害者である事件は,被害者である母親の側に目立った問題が認められない事例がほとんどであり,少年の側に精神面での障害がうかがわれる事例,自殺企図を抱いた少年が母親の殺害に至った事例等が見られた。

エ 交通型

 交通型の少年は,すべて男子で,危険運転致死である。

交通型の具体例−同乗者を事故死させた危険運転致死事件

 無免許で乗用車を運転し,スピードの出し過ぎでカーブを曲がり切れず,道路から飛び出し,同乗者を死亡させた事件。
 職場仲間らと酒を飲み,その後,誘われるままに少年の運転でドライブに出かけ,同乗の仲間らとの話が盛り上がり,調子に乗ってスピードを上げていたところ,高速度でカーブに差し掛かり,事故を引き起こした。
 交通型は,他の非行類型の少年と比較して犯行時の年齢が高い。有職者の比率が高く,暴走族への所属歴はほとんどなく,無免許運転歴も集団型の少年と比較すると半分程度の比率である。家庭的には保護者が実父母である比率が高く,家庭内の問題もほとんど見られない。親和的な家庭環境の下で,目立った非行もなく,一応,職業に就き,社会人としての生活を送っていたが,交通規範面での問題から車両運転の際に重大な結果を引き起こした者が多く含まれる。
 交通型の事故の原因を見ると,高速度を原因とするものが13人(65.0%)と最も多く,次いで,赤信号無視5人(25.0%),飲酒運転2人(10.0%)の順であった。事故の形態は,単独事故9件,対自動車事故5件,対歩行者事故4件,対原付バイク事故1件,対自転車事故1件であった。無免許運転は20人中2人で,事故後に逃走した者は3人であった。

(2) 各非行類型の相互比較による分析

 非行類型別構成比は,4-5-1-8図のとおりである。
 事件数で見ると,集団型の比率が52.2%と最も高く,次いで,家族型(20.9%),交通型(14.9%),単独型(11.9%)の順であった。人員で見ると,集団型が4分の3以上を占める。犯行時の年齢を各非行類型の平均年齢で見ると,家族型が16.8歳と最も低く,次いで,集団型が17.0歳,単独型が17.1歳であり,交通型が18.4歳と最も高かった。男女別で見ると,交通型はすべて男子であり,集団型は95.7%,単独型は93.8%が男子であった。他方,家族型は,女子が38.7%と他の非行類型と比較して高くなっているが,これは嬰児殺の女子を含むためである。

4-5-1-8図 非行類型別構成比

 非行類型別の非行名別構成比は,4-5-1-9図のとおりである。
 集団型は,傷害致死の比率が75.8%と最も高く,単独型は,殺人と傷害致死がそれぞれ43.8%と同数である。家族型は,殺人の比率が51.6%と最も高く,交通型は,すべて危険運転致死であった。

4-5-1-9図 非行類型別の非行名別構成比

 非行類型別保護処分歴は,4-5-1-10図のとおりである。
 平成15年の少年鑑別所新入所者全体と比較すると,重大事犯少年では,少年院送致歴及び保護観察歴のある者の比率が低かった。特に,家族型は,少年院送致歴及び保護観察歴のある者がおらず,交通型も少年院送致歴のある者はいなかった。

4-5-1-10図 非行類型別保護処分歴

 非行類型別問題行動歴(非行関連)は,4-5-1-11図のとおりである。
 他の非行類型と比較して,集団型は,暴走族所属歴及び無免許運転歴のある者の比率が比較的高かった。他方,家族型は,自殺未遂歴のある者の比率が25.8%と他の非行類型と比較して若干高かった。

4-5-1-11図 非行類型別問題行動歴(非行関連)

 非行類型別の保護者別構成比は,4-5-1-12図のとおりである。
 交通型は,保護者が実父母である者の比率が80.0%で,平成15年の少年鑑別所新入所者全体の比率(52.9%)よりもかなり高かった。他方,家族型は,保護者が実父母である者の比率が48.4%で,他の非行類型と比較して若干低かった。

4-5-1-12図 非行類型別の保護者別構成比

 非行類型別家庭内問題は,4-5-1-13図のとおりである。
 家族型は,家族葛藤を抱える者の比率が61.3%と半数を超えており,家庭内に酒乱者がいたり,虐待被害を受けたことがある者の比率も他の非行類型と比較して高かった。他方,交通型は,家庭内の問題はほとんど目立たなかった。

4-5-1-13図 非行類型別家庭内問題

 非行類型別家庭内問題行動歴は,4-5-1-14図のとおりである。
 家出歴は,集団型及び単独型の比率が他の非行類型と比較して高く,この非行類型の者には,保護領域から離脱していこうとする傾向の強さがうかがわれる。他方,家族型は,家庭内暴力歴のある者の比率が他の非行類型と比較して高いにもかかわらず,家出歴のある者の比率は低かった。先に示した家庭内問題の有無に関する調査結果(4-5-1-13図参照)をも勘案すると,家族型は,家庭内に多くの問題が存在しながら,そこから離脱していくことができず,不満を内にため込みやすいことがうかがわれる。

4-5-1-14図 非行類型別家庭内問題行動歴

 非行類型別の就学・就労状況別構成比は,4-5-1-15図のとおりである。
 交通型は,有職者の比率が65.0%と高く,単独型は,無職者の比率が50.0%であった。家族型は,有職者がほとんどおらず,学生・生徒の比率が61.3%と高かった。集団型は,平成15年の少年鑑別所新入所者に近い構成比であった。

4-5-1-15図 非行類型別の就学・就労状況別構成比

 非行類型別問題行動歴等(学校関連)は,4-5-1-16図のとおりである。
 校内暴力歴は,非行類型の中で最も比率が高い集団型でも15.2%であった。いじめ被害歴は,家族型が45.2%と最も高く,次いで,集団型(23.7%),単独型(12.5%)の順であった。不登校歴は,単独型が75.0%と最も高く,次いで,集団型(61.1%),家族型(48.4%)の順であった。交通型は,学校関連の問題行動歴等の比率がいずれも低かった。

4-5-1-16図 非行類型別問題行動歴等(学校関連)

 非行類型別処分歴等構成比は,4-5-1-17図のとおりである。
 ここでは,非行類型別に[1]いずれかの保護処分歴のある者,[2]保護処分歴はないが,審判不開始歴又は不処分歴のある者,[3]保護処分歴及び審判不開始・不処分歴はないが,暴走族所属,無免許,自傷行為,家出,不登校,家庭内暴力,校内暴力,自殺未遂及び万引きのうち,いずれかの問題行動歴がある者,[4]いずれもない者の構成比を示している。重大事犯少年は,4-5-1-10図で見たように,少年鑑別所新入所者全体と比較して保護処分歴を有する者がやや少なく,一見,「いきなり」重大事犯を起こす者が多いと受け取られがちであるが,全く問題のない者が多いわけではない。重大事犯を起こす前に審判不開始・不処分を受けていたり,暴走族所属等の問題行動が見られたりする者が多い。特に,集団型は,前歴,問題行動歴等が見られない者は,10%にも満たず,不良交友関係を通じて不良文化の学習が進んでいた者が多く含まれていることがうかがわれる。家族型は,保護処分歴のある者の比率は3.2%と低いが,家庭内暴力等,家庭内での問題行動や家庭内葛藤を抱えている者の比率が高い。交通型のみが,他の非行類型と比較すると,前歴,問題行動等が見られない者の比率が45.0%と高く,重大事犯以前に大きな生活の崩れが見られなかった者が比較的多いことがうかがわれる。

4-5-1-17図 非行類型別処分歴等構成比