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2 少年に対する保護観察 (一) 保護観察処分少年 非行少年やぐ犯少年に対する家庭裁判所の処分のなかに,いわゆる保護観察処分として,保護観察所の保護観察に対して適当な保護者のもとにおいたまま,指導監督,補導援護をほどこし,更生をはかる方法がある(少年法第二四条第一項第一号,犯罪者予防更生法第三三条第一項第一号)。
この処分をうけた少年は原則として二〇才に達するまで,また二〇才に達するまで二年に満たない場合は二年間,保護観察を受けることになる。 保護観察はすでに前にのべたとおり,全国地方裁判所の所在地四九か所に設置されている保護観察所が行なうのであるが,最近五年間に保護観察所が受理した保護観察処分少年の数をみると,IV-77表のとおり,昭和三五年まで増加しているが,以後減少し,昭和三七年には二一,六〇七人となっている。 IV-77表 保護観察処分少年の出頭状況(昭和33〜37年) (1) 保護観察の状況 保護観察の開始にあたって,保護観察所長は保護観察処分少年に対して,心身の状況,経歴,環境等を家庭裁判所の記録や,みずからの調査でくわしくは握した上で,具体的に保護観察の方針をたて,法定の一般遵守事項のほかに,言渡裁判所の意見をきいて,特別遵守事項を定め,本人にこれを指示して理解させ,遵守することを誓約させる。この手続は保護観察官が担当しているが,仮釈放におけるように,事前に本人の身上を知り,環境調査調整を行なうなどの段階がないだけに,言渡機関である家庭裁判所から執行機関である保護観察所への,円滑な,しかも有機的なバトンタッチが特に必要である。
保護観察当初における前記一連の調査手続は,保護観察を円滑に軌道にのせる上からできるだけ,早く行なう必要があり,そのためには,処分言渡し直後本人の保護観察所への出頭を確保しなければならない。 いまその出頭状況をみると,さきに掲げたIV-77表の示すとおり,累年約九〇%の出頭率を確保しているとはいえ,昭和三七年の不出頭率七%中,正当な理由のない不出頭者の率が四%を占めている。これらの不出頭者の中には,当初から保護観察を受けて更生しようとする意欲に欠けている者のあることも考えられるが,そのほかに処分の言渡機関と保護観察の実施機関との連けいの問題や,家庭裁判所支部において処分を受ける者がIV-78表のとおり,言渡人員の三分の一以上もあることに関連があると思われる。すなわち,すでにのべたように,保護観察所は全国地方裁判所の所在地四九か所にあるだけで,家庭裁判所の支部に対応する支部がない。そのために,家庭裁判所支部で言い渡された少年は,保護観察所に出頭するためには,かなり長い距離を旅行しなければならない場合のあることなどが不出頭をきたしている原因となっていることが想像される。 IV-78表 保護観察処分の家庭裁判所本庁,支部別言渡人員(昭和33〜37年) この不出頭を防ぐための対策としては,今後,いっそう保護観察所と家庭裁判所とが密接な連絡を保って,出頭確保に努力する必要のあることはもちろんであるが,さらに,出頭のために少年に課されている地理的,時間的,経済的負担を緩和し,保護観察の実施を,より円滑ならしめるよう,保護観察所支部,またはこれに類似の出頭場所の設置などの措置が必要である。これについて,昭和二九年一一月二〇日,鹿児島の名瀬に,ついで,昭和三八年七月一日から全国にわずか八か所ではあるが,保護観察所の駐在事務所があらたに設けられ,保護観察所から遠く隔った不便な,しかも保護観察事件数の多い特定の地域を中心に,保護観察官が常駐して執務することとなった。この制度は,今後,出頭の確保をも含めて家庭裁判所からのバトンタッチの円滑化,保護観察処遇の迅速適正化に寄与するものと思われ,その活動が期待されるところである。保護観察所への出頭を確保し,保護観察への導入をうまく行なっても,その後所在不明となり,保護観察から離脱したのでは,せっかくの保護観察も,その効果をあげることができない。保護観察処分少年が保護観察から離脱して,所在不明となっている状況をみると,IV-79表のとおりで,所在不明率は累年増加し,昭和三七年末には,現在人員の七・五%にも達している。この原因については,たとえば,さきにのべたように,正当な理由のない不出頭者にもみられる更生意欲欠如の問題や,経済事情,雇用関係などによって生ずる移動の活発化から,容易に,しかもひんぱんに住所を変えるうち,保護観察から離脱していくことなど,いろいろ考えられるが,いずれにしても,所在不明者は法定遵守事項によって,一定の住居に居住すべきことが義務づけられており,転居または長期の旅行をするときは,あらかじめ許可を求めることになっているにもかかわらず,その履行を怠り,はなはだしいものは,保護観察所へ出頭しないまま所在不明となっている。これら所在不明者は,転転と住居を変えたり,身分を秘したりしている場合が多いので,その発見はきわめて困難であり,しかも再犯につながるきわめて危険な状態におかれている。したがって,すでに,第三編第四章更生保護の中でのべたように,保護観察所としても,今後いっそう平素の保護観察や,移住の際の諸手続に綿密な配慮をなすとともに,継続して所在発見に努める必要に迫られているのであるが,さらに,保護観察担当者のみならず,検察庁その他の関係機関にも協力を求めて,多方面から所在の手がかりを探知できる方法を考慮する必要があろう。 IV-79表 保護観察処分少年の所在不明人員とその率(昭和33〜37年) 保護観察処分少年の保護観察終了の状況は,IV-80表のとおりである。すなわち,満齢または期間満了による保護観察の終了は,昭和三七年では六六%,成績良好による保護観察の解除は,昭和三五年までは着実に増加し,昭和三六年にはやや減少し,昭和三七年は横ばい状態で,一八・六%となっている。一方,成績が悪く,家庭裁判所への通告や再犯等で,家庭裁判所による保護観察処分の取消しを受けたものは,一四%前後で,昭和三七年には一四・八%と,かなり高率である。IV-80表 保護観察処分少年の保護観察終了事由別人員の率(昭和33〜37年) このような保護観察と成績と関連して考えなければならないことは,これら少年の非行前歴であるが,最近数年間の少年の非行前歴をみると,新しく受理した少年の八%ないし一〇%が以前に非行歴をもつものであり,また六%ないし九%が保護観察処分を受けた経歴をもっているということである。(2) 暴力犯罪少年の保護観察 全国の保護観察所において,あらたに受理された保護観察処分少年のうち暴力犯罪(暴力に関する犯罪も含む)少年の占める割合は,IV-82表のとおり,刑法犯,特別法犯を合せて,三二%ないし三五%である。しかも,わずかであるが,昭和三三年に比べると増加の傾向にあり,昭和三三年の三二・七%に対し,昭和三七年には三五・五%に達している。特に,恐かつ,わいせつ,暴力行為等処罰ニ関スル法律違反に該当する少年は,累年増加している。
IV-82表 保護観察処分少年の罪名別受理人員(昭和33〜37年) 次に,保護観察終了状況についてみると,IV-83表のとおりで,暴力犯罪少年がその他の犯罪少年に比べ,特に成績不良の徴表はみられない。刑法犯ではむしろ暴力犯罪少年の方が良好な成績を示している。しかし,恐かつ,傷害および特別法犯の暴力犯罪少年は,一般に保護観察の成績は芳しくない。また,数においては少ないが,麻薬取締法違反や売春防止法の第五条以外の違反など,背後に暴力組織とのつながりをもつと思われるものの成績が特に悪いのが目だっている。IV-83表 保護観察処分少年の罪名(行為名)別終了事由別状況(昭和37年) (3) 道交違反少年の保護観察 道交違反によって保護観察処分を受けた少年についてみると,IV-81表に示すとおりである。過去五年間,道交違反保護観察処分少年の保護観察言渡総人員中に占める割合は,一〇%ないし一五%を前後しており,昭和三七年は一二・八%で前年よりかなり増加している。全国の保護観察所が,昭和三七年に受理した道交違反保護観察処分少年の総数は二,七九四人であるが,これを保護観察所別にみると,名古屋が最高で三三・九%,ついで金沢の一〇・九%,大阪九・八%,福岡六・五%,長崎四・〇%,横浜三・〇%の順で,東京はわずか一 ・二%にすぎない。このように,その占める率が,必ずしも自動車数や交通事犯の多い地域と比例していないのは,道交違反少年で保護観察になじむかどうかについての家庭裁判所の考え方が区区であり,また保護観察所においても,職員の不足などのため,これら少年を受け入れるに十分な準備が整っていないことなどによるものと思われ,今後検討を要するところである。
IV-81表 家庭裁判所の保護観察処分言渡し中道交違反事件関係人員(昭和33〜37年) 交通違反少年の保護観察終了時の成績は非常に良好で,半数以上が良好解除で終了しており,取消しはわずか三・四%にすぎない。道交違反少年に関しては,法務省と最高裁判所事務総局の合同研究による「交通違反少年に関する特別調査」があるので,その中の関係分についてふれてみよう。この調査は昭和三七年九月から同年一二月までの間(保護観察の決定をうけた者については,言渡しの日から六か月間),千葉,名古屋,広島の三地方検察庁の本庁管内において,道交違反,物件事故,人身事故を犯した者五七二人を調査の対象としたものであるが,このうち保護観察処分に付された者は,道交違反一八人,物件事故二人,人身事故七二人,計九二人である。 保護観察に付された者の保護観察所への出頭状況は,それがおもに家庭裁判所本庁において言い渡されたことにもよるが,きわめて良好で,三日以内の出頭は九五・七%(うち当日出頭九〇・二%)であり,保護観察開始当初における本人の態度は,少くとも担当者の判断したかぎりにおいては,その七割近くが一応保護観察になじもうとする心構えであった。調査対象期間の六か月間における担当保護司との接触状況や保護観察の総合成績は,良好との結果が出ており,再犯行者は九人で,全体の九・八%であり,いずれも最高速度違反を主とする道路交通法違反である。 このように道交違反少年の保護観察は,一応きわめて良好な成績をおさめているといえよう。しかし,今日の増大する道交違反事件に処するに,はたして,現在の保護観察の程度そのままでよいかは,検討を要すべきことであり,今後,さらにくふうをこらし,これに対処する方策が樹立されなければならないであろう。 (二) 少年院仮退院者 地方委員会で仮退院の許可があった少年院仮退院者は,原則として二〇才に達するまで保護観察を受けることとなる。しかし,特別の事情がある者については二六才まで保護観察期間の延長ができることになっている。
(1) 保護観察状況 保護観察開始時における少年院仮退院者の出頭状況は,IV-84表のとおりで,昭和三七年における出頭率は,保護観察所出頭が九五%で,指定の場所出頭も含めると九八・二%になり,正当な理由のない不出頭者の割合は一%にも満たない。しかも出頭率は過去五年間着実に増加している。これは少年院,地方委員会,保護観察所間で緊密な連けいがとられ,帰住の際における保護者の同伴や関係職員の同行等の配慮をも含め,出頭の確保に各種の努力が重ねられてきた成果であろう。
IV-84表 少年院仮退院者の出頭状況(昭和33〜37年) しかし,所在不明者が総数に占める率をみると,IV-85表に示すように,保護観察処分少年よりも高く,しかも逐年増加し,昭和三七年末には一一・三%にも達している。IV-85表 少年院仮退院中の所在不明人員(昭和3〜37年) また,保護観察終了状況なIV-86表によってみると,再犯等による取消しおよびもどし収容の割合が累年増加し,昭和三七年には前者が二一・二%,後者が一・二%である。したがって,無事保護観察を終了した者は八〇%にみたず,成績は良好とはいえない。IV-86表 少年院仮退院者の保護観察終了事由別比率(昭和33〜37年) 以上のように少年院仮退院者の保護観察は所在不明の率が比較的高く,終了時における成績も必ずしも芳しいものとはいい難く,資質面においても,ここ数年間,五割以上が前歴を有し,保護観察をうけた経歴をもっているなど,かなり問題をもった者が多い。このことは仮退院の運用についても,保護観察の実施方法についても,一段とくふう,検討を要するもののあることを示唆するものといえよう。(2) 暴力犯罪仮退院少年の保護観察 最近五年間に保護観察所が受理した仮退院少年の総数中に占める暴力犯罪少年の率は刑法犯では,昭和三三年の一九・六%から逐年増加し,昭和三七年には三〇・〇%に達している。そのうち,特に増加率の目だつのは恐かつと強かんで同じ期間に前者は六・五%から一一・〇%へ,後者は三・〇%から六・四%へとふえている。
また,昭和三七年における保護観察終了状況をみると,暴力犯罪のものは必ずしもその他の犯罪のものに比べて成績は悪くないが,恐かつに関してはその成績はかなり悪く,その二三・二%が家庭裁判所で取り消されている。 少年院仮退院者と暴力組織との関係を法務省保護局が行なった「暴力組織と関係をもつ暴力事犯関係対象者に関する実態調査」によってみれば,次のとおりである。 まず,有効回収標本である暴力犯罪の少年院仮退院者一六七人中,暴力組織となんらかの関係をもつものは,かなり多く,IV-87表の示すとおり三四人で二〇%以上を占めている。さらに,これら暴力組織関係者三四人のうち半数以上は,子分,とりまき等であるが,幹部,準幹部クラス級の者も八人,二三・五%存在する。しかもその所属する暴力組織は,てきや,やくざ等のものとチンピラ・グループのものとが相半ばしており,三〇人以上の人的構成をもつ暴力組織に加入しているのが二五%以上もある。 IV-87表 少年院仮退院者の暴力組織との関係(昭和36年) 標本数が少ないので,これをもって少年院仮退院者と暴力組織との関係を即断することはできないが,少年院仮退院者に暴力犯罪関係者が多いことからも,仮退院者の中には,かなり暴力組織と結びついているものの存在することが推測され,これが更生を阻害する大きな要因となり,保護観察実施上,幾多の困難を伴うこととなる。 |