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2 少年受刑者の教育 監獄法は,一八才未満の受刑者には教育を施すべしと特に規定しているが,これは少年受刑者が,いまだ心身の発達の途上にあって,教育的とうや性の豊かなことから,その将来の更生のための基礎的な教科教育,社会教育,職業教育等の必要性と可能性を特に考慮したものといえる。少年刑務所はこの規定に従って,義務教育未修了者はもちろんのこと,その他のものに対しても,その教育程度に応じた教科教育を実施している。
法務省矯正局の調査によれば,川越,松本,奈良,岩国および佐賀の各少年刑務所の昭和三八年一二月末日現在収容人員(準少年および青年受刑者若干を含む)の計二,四二〇人のうち,不就学のもの五人,小学校未修了のもの五八人および中学校未修了のもの二四六人となっており,義務教育未修了者の合計は三〇九人で,これは前記収容人員の一二・八%(前年は二〇・二%)にあたる。 少年刑務所では,これらの義務教育未修了者および義務教育修了者のなかでも学力の低いものに対して,それぞれその必要性に応じた教科教育を施して,社会復帰後の更生に役だてようとしている。前記五施設における昭和三八年末現在の教育実施人員は,小学校課程八二人,中学校課程三九四人で,このほか,高校中退者等で学力補習を希望するものや職業訓練生を対象として,高等学校課程の教科教育を施しているもの八人である。少年院においては,院内で実施した教科を修了したものに対して,院長が修了の事実を証する証明書を発行することができる制度が認められているが,少年刑務所には従来こうした制度がなく,出所後の更生復帰の一つのさまたげとなっていた。松本少年刑務所では昭和三〇年四月から,所内に松本市立旭町中学校の分校が設立されたので,この問題も解決された。昭和三八年三月までに同分校卒業生は合計一七九人に達している。 通信教育は収容者に対して,教育の門戸を開放すると共に,その能力に広じ,知的教養の向上をはかることを目的として,昭和二五年にはじめて少年刑務所において試行されたものであるが,各施設とも収容者にこの制度の活用を奨励し,受講を希望するものについて,講座の内容,修学期間,心身の状況,残刑期等を考慮し,かつ行状および学力を検定した上,適当と認めたものを選抜して一般社会の通信教育をうけさせている。法務省矯正局の調査によると,前記五施設の昭和三八年末現在の通信教育受講者数は,簿記五八人,自動車技術三三人,ラジオ,テレビ,電気工学三〇人,孔版一四人,速記,書道,美術七四人,建築一一人,英語二七人および大学,高校五二人の計二九九人(収容人員の一二・四%にあたる)となっている。 少年刑務所における刑務作業は,出所後の更生復帰に役だつ職業能力を身につけさせること,ならびに,作業を通じて人格のとうやと責任感,勤労精神のかん養等を特に重視して運営がなされている。これは施設の性格と収容者の特性上当然のことであり,このため一面では,木工,印刷,洋裁,金属などの有用作業の拡充につとめると共に他面,作業の監督指導にあたる工場担当官や,技官は,受刑者を定役に服せしめるという態度でなく,作業に精励することによって自己の技能をみがき,働くことの喜びを体得させるという心構えで,その指導にあたっている。昭和三九年三月末日現在,川越,松本,奈良,岩国および佐賀の各少年刑務所において,病気休養中,分類考査中などによる不就業者を除いた業種人員をみると,IV-69表のとおりである。 IV-69表 少年刑務所における刑務作業人員(昭和39年3月31日現在) また刑務所内の職業訓練は,職業訓練法による教科内容と同一基準によって,組織的,計画的に実施することになっており,同法による技能検定を受験する資格を得ることを目的として行なわれている。少年刑務所においても職業訓練生の選定は,受刑者の心身の状況,能力,適性,職歴,将来の生活目標等について厳重な選考がなされる。昭和三九年三月末日現在,前記五施設で実施中の訓練種目と種目別人員は,IV-70表のとおりである。IV-70表 少年刑務所の職業訓練種目と人員(昭和39年3月31日現在) 次に,刑務所内で職業訓練を修了したものは職業訓練法,理容師法,道路運送車両法その他の法令に基いた公式の技能検定をはじめ各種の試験を受けることができ,その合格者は公認された職業上の資格,免許をもって出所できるわけである。IV-71表は昭和三八年中における前記五施設の資格,免許の資格および検定の受験人員と合格人員を種目別に示したものである。IV-71表 少年刑務所の資格,免許取得の試験,検定受験人員と合格人員(昭和38年) 所内における集団生活のあらゆる場面でのしつけ教育は各少年刑務所が重点的処遇の一つとして取り上げているところである。このため,各施設では,共同生活に必要な訓育および秩序ある生活態度と遵法精神のかん養をはかるほか,余暇時間の指導につとめ,少年が自主的な活動をとりうるようなクラブ組織等による自治生活を盛んに行ない,円満な人間形成を目標とした指導につとめている。すなわち,一級者,二級者の月例集会や所内誌,所内新聞の作製,短歌,俳句,書道,絵画,生花,茶道等の趣味の会合,読書会,輪読会,討論会,所内放送設備を利用した放送コンクールなどのクラブ活動が各種の運動競技とともに,余暇時間を利用して行なわれている。少年刑務所では,思春期特有の心のかっとうや欲求不満等をもっている年齢のものを多く収容している関係から,積極的にカウンセリング活動を行ない,あわせて性格偏い者の性格の矯正にも着手しつつある。昭和二八年に発足した篤志面接委員制度の活用も,各施設でしだいに活発化し,IV-72表のとおり,昭和三八年一二月末日現在で一〇〇名(うち女子一二名)の部外有識者によって,一,六八二回の面接指導がなされている。 IV-72表 篤志面接の内容別回数(昭和38年) 刑務所では一般に,受刑者の情操や教養を高め,社会的知識や能力を広めることを目的として,広く各方面の名士や学識経験者などによる一般教かいを少なくとも毎月一回以上実施することが定められているが,少年刑務所の一般教かい活動は成人刑務所に比して,一段と活発である。また宗教的情操や信仰心を深めることを希望するものに対しては,民間の宗教家(昭和三八年一二月末日現在で,仏教三五名,キリスト教一四名,神道一六名)の来訪をあおいで,希望者をグループ別または個別にそれぞれ希望する宗派の宗教教かいを受けさせており,信仰座談会や仏典,聖書研究会なども定例的に催されている。IV-73表は昭和三八年における宗教教かいの実施回数を宗教別に示したものである。 IV-73表 宗教教かい実施状況(昭和38年) |