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 昭和39年版 犯罪白書 第四編/第二章/三/1 

三 少年刑務所における処遇

1 少年受刑者とその特質

 少年法は,懲役または禁錮の言渡しを受けた少年(一六才以上二〇才未満)に対しては,特に設けた刑務所,または刑務所内の特に分界を設けた場所において,その刑を執行することを規定しているが,これは少年時確定の受刑者に対して,特別な処遇や教育を施す必要があるという趣旨に基くものである。なお,本人が二〇才に達したのちでも,その心身の状況などによって,少年処遇を適当と認めた場合は,満二六才に達するまで,少年受刑者として取り扱うことも許されている。
 このような少年を収容する少年刑務所は,本人の更生復帰のための矯正教育を重視し,成人の処遇とは異なる配慮が,法規の面でもなされている。
 まず組織規定をみると,成人の刑務所が管理部,その下に保安課,作業課をおいているのに対し,少年刑務所は補導部を設けて,その下に補導課,職業訓練課,教育課等をおき,特に職業教育や生活指導などの矯正教育を重視した組織をもっている。昭和三七年一二月一日現在,定員一〇六名の教官も,そのうち,六六名が九か所の少年刑務所に重点的に配置されている。
 一八才未満の少年に対して刑務作業を賦課する際は,特に教養に関する事項を考慮することが定められており,作業の科程についても,成人受刑者の場合のように,普通一般人の仕上高および定められた作業時間を標準とすることなく,各就業者に相応する作業科程を定めることができることになっている。
 独居拘禁する場合にも,成人受刑者については,最長二年を越えることができないことになっているのに対し,一八才未満の少年については,特別の場合を除いて,六か月以上継続して独居拘禁することができないことになっている。また在監者が規律に違反した場合の懲罰の一つとして,七日以内の減食罰というのがあるが,これも一八才未満の少年に対しては,その適用を除外することが規定されている。
 家族等との面会や通信発信については,一般受刑者においては,毎月一回と定められているが,一八才未満の受刑者に対しては刑務所長が教化上必要と認めた場合には,この制限を緩和して回数を増加することができることになっている。
 また受刑者の改しゅんを促し,その発奮努力の程度に従って処遇を緩和し,受刑者をして漸次社会生活に適応せしむることを目的とする累進処遇の審査にあたっては, (1) 作業の勉否と成績, (2) 操行の良否, (3) 責任観念および意志の強弱の各項のほかに,少年受刑者の場合には,学業の勉否と成績という一項を加えて審査すべきことが定められている。さらにまた,集会をしたり,競技,遊戯,運動会を行なわせるにあたって,一般受刑者の場合には,一級者には毎月二回,二級者には一回を越えることが許されていないが,少年受刑者は,この制限によらず集会や競技を持つことができることになっている。
 次に給養面であるが,収容者食料給与規定によって,収容者に給与する主食の等級が,一等級から四等級まで,その従事する労作別,性別,年齢別に定められており,少年受刑者には,成人に比して,だいたい一等級だけ上級が給与されることになっている。主食,副食の予算上の標準も,成人の主食四二円九一銭,副食二五円九〇銭であるのに対して,少年の主食四六円二銭,副食二九円六〇銭(それぞれひとり一日あたり)となっており,少年受刑者が身心の発達の途上にあることが考慮されている。その他,収容者の衣服についても,成人受刑者に着用させる衣類の色があさぎ色に定められているのに対し,一八未満の少年受刑者には,別に定める衣類を着用させることができるように定められていて,種々の点で成人受刑者とは違った取扱いが配慮されている。
 IV-65表は昭和二〇年以降の少年受刑者と少年院収容者の年末現在人員の推移を示すものであるが,少年受刑者数は昭和二三年の六,三五三人(受刑者総数の六・三%にあたる)を頂点として,しだいに減少してきている。これは昭和二四年に新少年法と少年院法が施行され,犯罪少年のうち,一八才未満のものの多くが,保護処分によって少年院送致となったことによるものであり,その後,昭和二六年の少年法の改正で「少年」の年齢が一八才から二〇才に引き上げられ,少年受刑者の数はいっそう減少して今日にいたっている。このため,従来は全国に一二施設あった少年刑務所が,昭和二八年以降は川越,水戸,松本,姫路,奈良,岩国,佐賀,盛岡および函館の九施設になっている。

IV-65表 少年受刑者,少年院収容者の年末現在人員(昭和20〜37年)

 昭和三七年一二月末日現在の少年受刑者数は一,七六一人(うち女子は五人)で,これは同時期の受刑者総数五五,三一〇人の約三・二%にあたる。この内,専門的医療を施す必要あるもの六人が医療刑務所に,その他保護関係の事情や残刑期の短いものなど計二六人が,一般刑務所にそれぞれ少数ずつ分界収容されている。残りのものは前記九少年刑務所に収容されているのであるが,水戸,姫路,盛岡および函館の各少年刑務所は,収容者の大部分はE級者(おおむね二三才未満で特に少年に準じて処遇する必要のあるものの)かG級者(二五才未満で性格おおむね正常,改善容易と思われるもの)であって,少年受刑者は比較的少数のものが,分界収容されているにすぎない。
 昭和三三年以降五か年間における新受刑者の罪名別人員は,IV-66表のとおりであるが,各年ごとの新受刑者数は昭和三五年の一,〇二四人から,三六年の九〇八人(対前年比一一・二%減),三七年の七六九人(対前年比一五・三%減)と大幅に減ってきている。

IV-66表 20才未満新受刑者の罪名別人員と率等(昭和33〜37年)

 次に罪名別にみると,少年受刑者では,窃盗,詐欺,横領などの財産犯の人員比率が成人を含めた新受刑者総数の比率より低いのに対して,強盗,恐かつ,殺人などの暴力犯罪や強かん等の性的犯罪の比率は少年受刑者の方がかなり高い。なお,昭和三八年の犯罪白書では,麻薬取締法違反の少年受刑者が,実数はわずかであるが,昭和三四年以降ふえてきたことを指摘したが,昭和三七年にはこれが人員,比率ともに減少したことは喜ばしいことである。
 IV-67表は昭和三三年以降五年間における二〇才未満の新受刑者の刑名,刑期別人員とその率を示すものであるが,懲役刑についてみると,昭和三三,三四年において人員の最も多いのは「二年をこえ三年以下」のものであったのが,三五年以降はそれが一年短くなって「一年をこえ二年以下」のものの人員が最も多くなり,しかも,その比率が年ごとに増大していることが注目される。次に,成人を含む新受刑者総数と比較すると,懲役二年以下のものの合計が八一・五%であるのに,少年受刑者ではわずかに三九・五%にすぎず,一般に少年受刑者には刑期の長いものが多いといえる。

IV-67表 20才未満新受刑者の刑名,刑期別人員と率等(昭和33〜37年)

 少年受刑者の犯歴については,IV-68表のとおりであって,成人では累犯者が全体の五九・二%であるのに対し,少年では初犯者が九八・四%である。また成人では,かつて一度以上刑務所へ入所したことのあるものが,全体の六〇・三%もいるのに比べ,少年でははじめて刑務所に入所するものが九八・六%を占めている。

IV-68表 新受刑者の犯数別および入所度数別人員と率(昭和37年)