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 昭和39年版 犯罪白書 第四編/第二章/二/5 

5 少年院の特殊化計画

 少年院の現状は決して満足すべきものではなく,ふたんに改善,是正の処置が取られている。少年院の特殊化計画もまたその一つである。少年院には,初等,中等,特別,医療の四種があることは,さきに述べたとおいであり,さらにこれに加えて,各矯正管区ごとに,矯正の難易や知能の程度等を考えて,分類収容することになっているが,各少年院とも施設の老朽化,設備の不完全,職員数の著しい不足等のため,その処遇内容が分化されておらず,収容少年の生育歴,資質,将来の必要等に応じて,効果的に機能を果していないので,これを再編成して,その処遇の特殊化と専門化を意図したものである。
 現在,法務省が計画している特殊化の方向は,学校教育を中心とする少年院,職業訓練を主とする少年院,職業指導を主とする少年院,医療を主とする少年院の四つである。
(1) 学校教育を中心とする少年院としては昭和三七年に千葉星華学院,上田清修寮および佐世保少年院の三施設が実験施設に指定されて,特殊化の方向に進んでいる。少年院新収容者の中に,義務教育未修了者の数が急激に増加していることは前にも述べたが,これらの多くは,中学二年修了者であるので,各実験施設とも,中学校の卒業証明書を交付しうるように,中学校学習指導要領に従って,その教育課程の完全な実施につとめている。昭和三七年において,前記収容施設で,中学校卒業証明書の交付を受けたものは二二九名,修了証明書の交付をうけたものは一一八名であった。なお,法務省では,東京矯正管区内に二施設,その他の管区内に各一施設,合計九施設を目標とし,昭和三九年度には,新たに三少年院をこの種実験施設として指定する予定である。
(2) 職業訓練を主とする少年院は,収容少年のうち,比較的職業適性の高いものを特定の施設に分類収容して,訓練期間一年,訓練時間一,八〇〇時間以上の職業訓練を実施し,職業訓練法による技能検定の受験資格を得させようとするものである。すでに昭和三六年に,多摩少年院の一部と神奈川少年院が,専門施設として指定されたが,さらに,浪速,愛知,広島,福岡,東北,四国の各少年院が予定されており,最終的には,九施設,一,二三〇人の収容少年を対象とした特殊化計画がたてられており,板金,木工,機械,ラジオ,テレビ,建築大工等の職種について整備が進められている。
(3) 職業指導を主とする少年院は,職業訓練を受けるほどの高い職業適性は持たないが,一応義務教育を修了した,犯罪傾向の著しくない少年に対して職業指導を施すことを目的とするものである。このため,比較的短期間に習得の可能な基礎的技能をえらび,かつ相互に関連の深い二,三の技能を組み合わせて一コースとするような若干のコースを設けて,少年の生育歴,資質,出院後における社会生活上の必要性等により,いっそう適したコースを習得させるよう少年院を整備する。この職業指導を主とする少年院と,次の医療を主とする少年院については,まだ整備計画が具体化するまでに至っておらず,昭和三九年以降において,その早急実施が望まれる。
(4) 医療を主とする少年院現在,精神病質の少年の多くは,医療少年院よりも,他の少年院に収容されていて,矯正教育上さまざまな困難な問題をひきおこしている。これら精神病質者のうち,治療の対象になる者を収容して,これに特殊な治療訓練を施す必要が痛感される。また,精神病質者のみならず,その他の精神障害者,身体疾患のある者および身体障害のある者のすべてに,それぞれ医学的措置や治療教育措置を与えることができるように医療少年院を拡充整備する計画である。