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 昭和39年版 犯罪白書 第四編/第二章/二/4 

4 規律違反と懲戒

 少年院の収容少年は,もともと社会適応性に乏しく,一般社会の秩序を乱し,または乱すおそれがあるためその性格の矯正を目的として,少年院に送致されたものであるので,入院後も,にわかに少年院の規律ある生活になじむことができず,ともすれば,収容前の気ままな生活を少年院内にもちこみ,ひいては少年院の矯正教育を著しく阻害する場合が決して少なくない。IV-64表によれば,集団処遇の困難なものは,初等少年院で三〇・二%,中等少年院で三六・二%,特別少年院では実に四〇・二%の高率に上っている。かれらの問題行動のおもなものは,逃走のおそれ,暴行,ボス的行動,反則行為の頻発等であり,明るく平和であるべき少年院内の教育的ふんい気を,ともすれば,とげとげしく暗いものとしがちである。

IV-64表 少年院在院者の処遇難易調(昭和38年12月25日現在)

 少年院の長は,規律に違反した少年に対して,次の三種類の懲戒を行なうことが許されている。厳重な訓戒を加えること。成績に対して通常与える点数より減じた点数を与えること。二〇日をこえない期間,衛生的な単独室で謹慎させること(少年院法第八条)。これらの懲戒をうけた少年について,その行なった規律違反行為をみると,比較的多いのは,同僚少年とのけんかや暴力行為,喫煙,逃走などであり,不正品所持,自傷(入墨を含む),物品窃取,物品破棄などの違反行為も少なくない。
 規律違反少年に対する以上のような懲戒は,いわば応急的な処置であり,真の対策は,そのような違反行為の原因を追求し,再発のみならず,広く未然に防止するものでなければならない。昭和三八年の犯罪白書は,少年院の問題点として,職員の増員と施設の整備とを取り上げて,その早急実現を強く訴えていたが,この職員の不足のために,収容少年の小集団的または個別的な処遇を実施することが困難となり,ひいては情緒不安定な収容少年の一部が,集団の規律を乱す結果となっている。収容少年の生命の安全を守り,施設社会の秩序を維持するという矯正教育以前の問題を解決するためにも,職員の増員が強く求められるわけである。
 施設の整備については,現在施設の多くが旧軍用施設や保護団体施設を転用したものであって,少年矯正施設にふさわしい構造,体裁,設備を備えていないことが指摘されている。大雑居制の居室は,しばしば好ましからざるインフォーマル・グループ発生の温床となっており,また,教室,体育館,水泳プール,クラブ活動のための室等,発育の途上にある少年のおう盛なエネルギーの昇華のために必要とされる設備も,むしろぜい沢視されている実情である。