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 昭和39年版 犯罪白書 第四編/第二章/一/2 

2 鑑別状況

 少年鑑別所で行なう鑑別には,その受付の手続上から,(1)その本来の目的である家庭裁判所関係の鑑別,(2)保護観察所,少年院など法務省関係機関の依頼による鑑別,(3)学校その他の団体や職場,一般家庭などからの依頼による一般鑑別の三種類がある。
 IV-45表は昭和三二年以降の鑑別受付人員の推移を示すものであるが,これによると,受付人員の総数は年ごとに増加し,昭和三七年は,その五年前の昭和三二年に比べ,実に二・二九倍に達している。しかし,その内訳についてみると,家庭裁判所関係の受付人員は前年に引続いて,さらに若干の減少を示している。これに反して,法務省関係機関からの依頼による鑑別は大幅に増加して,前年度の二倍以上になっていることが注目される。

IV-45表 鑑別受付人員(昭和32〜37年)

 一般鑑別の受付人員は,逐年大幅に増加の一途をたどってきたが,昭和三七年も前年に比べ二二%の増加で,遂に家庭裁判所関係鑑別受付数をしのいで,受付総数の過半数(五二%)を占めるにいたった。これは,それぞれの地域における鑑別センターとしての少年鑑別所の役割が,広く一般に認識されてきて,会社,工場,学校等の依頼による集団心理テストの実施,一般家庭の子弟の進学,就職,非行対策等について,相談を受けることが多くなったことを示すものといえよう。
 少年鑑別所の行なう資質鑑別のうち,身体面については,各種の臨床的検査,診断を行ない,精神面については精神医学的診断をはじめ,各種の心理検査,適性検査のほか,脳波や精神電流の測定などを問診や面接調査とともに実施している。とくに収容鑑別では,集団的および個別的な各生活場面での少年の行動を綿密に観察,記録して,これを鑑別資料として利用している。このようにして集められた各種資料に基いて,保護不要(保護措置を必要としないもの)在宅保護(在宅のままケースワークすればよいもの)収容保護(少年院,教護院,養護施設に収容を適当とするもの)保護不適(刑事処分を適当と認める場合および社会的危険のある精神障害者で精神衛生法による措置入院を適当とする場合等)医療措置(要,不要)その他について,最も有効適切な保護指針を判定し,鑑別結果通知書を作成して家庭裁判所へ通知する。家庭裁判所は家庭および保護者の関係,境遇,経歴,不良化の経過等の調査とともに,この鑑別結果通知書を活用して審判を行なうことになっている。
 資質鑑別のために用いられる心理検査法については,各少年鑑別所ともふだんの研究によって,つぎつぎと新しい検査法を採用し,昭和三八年三月現在,法務省矯正局の調査によると,四五種類の多きにおよんでいるが,そのうち,特に多く用いられているのは,新制田中第一,WAIS,WISC等の知能検査,クレペリン精神作業検査,YG性格検査,心情質徴標検査などの質問紙法,それに,文章完成法,ロールシャッハ検査,TAT,PFスタディ,ゾンディ検査などのプロジエクト法である。
 家庭裁判所関係の鑑別結果から,保護少年の知能指数段階別分布状況を,昭和三七,三六,三五年の三年間およびその前五年間の平均と比較対照してみると,IV-46表のとおりで,知能指数一一〇以上の比較的高知能のものが,年をおって減少していることと,これと反対に,知能指数七〇-八九(準普通および限界級)のものが,増加していることが注目される。知能指数六九以下のいわゆる精神薄弱の領域では,著しい増減はないが,その中で,知能指数四九以下(痴愚級および白痴級)のものが若干減少傾向を示している。

IV-46表 知能指数段階別人員(昭和30〜37年)

 同じく精神状況別分布は,IV-47表のとおりであるが,この表において正常とは,知能が準普通(知能指数八〇)以上で,精神上,性格上,異常を認めないものをいい,準正常には,知能限界(知能指数七〇-七九)のもの,および性格異常のものを含んでいる。正常者は昭和三〇-三四年の五年間の平均で一〇・四%であったものが,その後,年ごとに減少して,昭和三七年には三分の一の三・五%となっている。これに反して,準正常者は五年間の平均が七一・〇%であったものが,昭和三七年には八一・六%と増加の一途をたどってきている。このように正常者が減少し,準正常者が増加する現象は,この準正常者の中に,知能限界のものが含まれており,それがIV-46表知能指数段階別人員にみられるように,逐年増加していることによるものであるともいえよう。しかし,準正常者は単に知能程度だけではなく,性格異常の程度によっても診断されるのであるから,程度の軽い性格異常者の増加が考えられないでもない。いずれにしても,全体の八〇%以上を占める準正常者の診断をさらにいつそう細分して表示することが望まれる。その他の欄については,精神薄弱の減少傾向が目たつ程度で,あまり大きな動きは見られない。

IV-47表 精神状況別人員(昭和30〜37年)

 IV-48表は最近三年間における家庭裁判所関係の鑑別判定人員を比較したものであるが,少年院送致相当と判定されたものが,昭和三五年の四九・四%から,年ごとに減少して,昭和三七年には四一四%となっており,これと全く対照的に,在宅保護相当と判定されたものが,三九・六%から四六・五%と,六・九%増加していることが注目される。この現象は,低年齢層の収容少年が増加し,義務教育就学中のものが多くなったことと,いわゆる中流層出身犯罪少年の増加(昭和三八年版犯罪白書二三六ページ参照)により,在宅保護によって,更生を期待しうると判定された事例が,比較的多くなったことによるものであろう。

IV-48表 鑑別判定別人員(昭和35〜37年)

 従来,少年鑑別所は道交違反少年の鑑別には,深く関係することがなく,多くの場合,検察庁,家庭裁判所,地区の警察等の依頼に応じて,出張鑑別を行なう程度にすぎなかったが,最近,悪質な道交違反少年がますます増加する傾向にあるため,一部の少年鑑別所においては,家庭裁判所と協力して,特に常習的な道交違反少年や問題のある少年については,その身柄を収容の上,精密鑑別を実施するようになった。東京少年鑑別所は昭和三八年一〇月以降,毎月四〇〜六〇名の道交違反少年の収容鑑別を行なうようになったが,このように,道交違反少年の対策に少年鑑別所が積極的な役割を分担し始めたことは,まことに好ましい傾向であり,法務省矯正局でも,昭和三九年度において,鑑別技官一〇名の増員と道交違反鑑別器具の整備をはかり,道交違反少年の精密鑑別を期待する声に答えようとしている。