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 昭和39年版 犯罪白書 第四編/第一章/三/4 

4 少年の刑事裁判

 家庭裁判所が刑事処分を相当とみとめて検察官に送致した少年については,犯罪のけん疑がないと思料される場合,および新たな事情の発見によって起訴を相当でないと思料され,再び家庭裁判所に送致する場合以外には,検察官は原則として起訴を強制される。これらの手続による起訴,および刑事裁判において,少年に科せられた刑罰の概況を過去五年間の統計で示すと,IV-39表のとおりである。すなわち,起訴は逐年増加し,増加率は最近とくに著しい。昭和三三年を一〇〇とすれば,昭和三六年には三〇三,昭和三七年には四七一の指数を示している。この起訴数の増加は,すでに述べたように,道交違反事件の増加に伴うものであって,このことは,罰金刑の増加と並行している。すなわち,罰金刑も,またきわめて顕著な増加傾向を示し,昭和三六年には昭和三三年の三・二倍,昭和三七年には五・一倍になっている。これに対し,懲役および禁錮で実刑を言い渡される者は,昭和三四年を別として,各年とも減少している。なお,執行猶予を言い渡される者は,懲役,禁錮の四〇%ぐらいであったのが,昭和三七年には五〇%近くになり,実数でも年ごとに増加の傾向にある。

IV-39表 少年に対する刑罰の概況(昭和33〜37年)

 次に,昭和三七年中に第一審の裁判を受けた者について,一八才未満の少年(ここでは仮に年少少年と呼称する)と,一八才以上二〇才未満の年長少年とに分け,主要罪種別に科刑状況を検討してみよう。というのは,少年に対する科刑については,少年法にいくつかの特別の定めがあるからである。まず死刑については,犯行の時に一八才に満たない者が,死刑にあたる罪を犯した場合には,無期刑を科することになっている。次に,犯行の時に一八才に満たない者が,無期刑にあたる罪を犯した場合には,一〇年以上一五年以下の範囲内で,懲役または禁錮の定期刑を科することになっている。さらに少年に対して,長期三年以上の有期の懲役または禁錮をもって処断すべき場合には,執行猶予の言渡しをする場合を除いて,その刑の範囲内で不定期刑を言い渡すことになっている。
 そこで,昭和三七年中に全国の地方裁判所および簡易裁判所で,第一審の裁判のあった少年について,主要罪名別の科刑状況を,年長少年と年少少年に区分してみると,IV-40表(1)(2)のとおりである。

IV-40表 少年事件第一審裁判結果別人員(昭和37年)

 まず,懲役,禁錮の実刑と執行猶予および罰金の割合を,刑法犯と特別法犯の合計数についてみると,年長少年では実刑が一,〇九二人(一・四%),執行猶予が九〇七人(一・一%),罰金が七八,八二一人(九七・五%)であり,年少少年では実刑が一九三人(〇・七%)執行猶予が一五一人(〇・六%),罰金が二六,六一〇人(九八・七%)であって,いずれも罰金が圧倒的に多く,その他の処分はきわめてわずかであるので,両者の割合の間に著しい差をみとめることはできない。ただ,特別法犯だけについてみると,年少少年では実刑と執行猶予が,ほぼ同数であるのに,年長少年では執行猶予の方が著しく多い。
 次に,主要罪名別にみると,年長少年においてもまた年少少年においても,業務上過失傷害をふくむ過失傷害と道交違反とが,それぞれ刑法犯と特別法犯の大部分を占め,かつ,これらの犯罪に対する罰金刑の大部分を占めていることがわかる。実刑の割合の高いのは,年長少年においては,強盗,殺人,窃盗,わいせつ,かんいんなどであり,年少少年においても,殺人,強盗,窃盗か高く,傷害がこれに続いている。てれに対し,実刑に比較し執行猶予の割合の高い罪種については,年長少年と年少少年ではかなり異なった特色がみられる。すなわち,両方とも過失傷害に執行猶予の割合が高いが実刑との差はとくに年少少年に顕著であるのに対し,年長少年では道交違反においてその割合が圧倒的に高い。
 次に,少年に対する自由刑の刑期を検討してみよう。IV-41表は過去三年間における通常第一審裁判の科刑の状況を示したものであるが,この表によって明らかなように,不定期刑が五六%(昭和三六年)から六一%(昭和三四年)におよんでいる。また,定期刑の大部分は刑期三年以下で,刑期三年以上の者は,昭和三六年の統計によると,定期刑の中の一五%であり,総人員の中の五%にすぎない。しかも,定期刑を言い渡された者の大部分は執行猶予になり,その割合は昭和三五年には九八・三%,昭和三六年には九七・〇%におよんでいる。なお,刑の執行猶予になった者のうち,保護観察に付されているのは,昭和三五年には五〇%,昭和三六年には六二%である。

IV-41表 通常第一審終局被告人中少年(裁判時)の懲役,禁錮科刑区分別人員(昭和34,35,36年)

 最後に,通常第一審において刑法犯により有罪の言渡しを受けた被告人について,犯行時の年齢と前科の有無の関係をIV-42表によって検討してみたい。

IV-42表 刑法犯通常第一審有罪被告人の犯時の年齢および初犯者,前科者別人員(昭和36年)

 昭和三六年において,通常第一審で刑法犯により有罪の言渡しを受けた被告人の総数は七八,二三二人で,そのうち,犯行時の年齢が二〇才未満であった者は三,〇三五人であるから,被告人総数の三・九%にあたっている。この割合は,昭和三五年の三・五%より若干増加している。さらに二〇才未満の者について,年齢別に三段階に区分してみると,一八〜一九才の年長少年は二,五六八人(八四・六%),一六〜一七才の中間少年は四六〇人(一五・二%),一四〜一五才の年少少年は七人(〇・二%)である。
 これらのうち,前科のある者の割合を求めると,二〇才以上の成人では五八・九%であるのに対し,少年では一三・一%で著しく低い。これは,すでに述べたように,少年で刑事処分に付される者が少ないことから当然のことであるが,少年で初犯者とみなされている者の中には,保護観察や少年院送致などの保護処分の前歴を持つものが少なくないので,実質的な初犯者は右の数よりかなり少ないわけである。