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 昭和39年版 犯罪白書 第四編/第一章/三/3 

3 少年審判

 非行を行なった少年について,これを保護処分にするか,あるいは刑事処分にするか,もし保護処分にするとすれば,どのような種類の保護処分にするかを決定するのが家庭裁判所の機能であって,少年事件の調査と審判という二つの権限がある。
 ところで,家庭裁判所で審判の対象となる少年は,二〇才未満の犯罪少年,触法少年およびぐ犯少年である。この節にいうぐ犯少年とは少年法第三条第一項第三号に該当する少年をいう。対象少年の年齢の下限は,原則としては一四才であるが,触法少年と一四才未満のぐ犯少年とは,都道府県知事または児童相談所長から送致を受けた場合にかぎって家庭裁判所の審判の対象となる。また,年齢の上限は,原則として二〇才であるが,家庭裁判所で保護観察に付する旨の決定をうけた少年が,保護観察の継続中に少年法第三条第一項第三号に掲げるぐ犯事由があると認められる場合,保護観察所長の通告によって審判の対象になり,二〇才をこえる例外が認められる。また,「準少年保護事件」とよばれる少年審判規則第五五条による保護処分取消事件や,収容継続申請およびもどし収容申請事件も,二〇才をこえて審判の対象となる。
 そこで,全国の家庭裁判所において審判の対象となった少年がどのような経過で受理されているかを,最近五年間の統計によってみると,IV-30表のとおりである。

IV-30表 少年保護事件の家庭裁判所受理経路別人員(昭和33〜37年)

 これによると,一般少年保護事件の受理人員は逐年増加しているが,その大部分を占めているのは検察官および司法警察員の送致によるものである。昭和三七年には受理の合計は九七三,九八七人におよんでいるが,そのうち検察官から送致されたものが六六%,司法警察員から送致されたものが二九%,他の家庭裁判所から移送されたものが三%,その他の二%で都道府県知事または児童相談所長から送致を受けたものや,一般人または保護観察所長からの通告,あるいは家庭裁判所調査官の報告などによるものである。
 (1) 少年調査 家庭裁判所はこのようにして受理した少年について,各種の方法によってその環境や資質の調査を行ない,その結果にもとづいて,それぞれ適当と認められる処分を行なうのであるが,右の調査にあたるものとして,家庭裁判所に家庭裁判所調査官があり,また法務省所管のものとしては少年鑑別所がある。
 少年については,とくに犯罪や非行に陥った素質的,環境的要因を明らかにし,その相互の関連性を究明するとともに,できるかぎりその改善に努める必要がある。そのため,それらの要因を調査する専門家の有機的な協力活動が必要であることは述べるまでもないことである。
 このような調査活動のなかで,心身の鑑別は主として少年鑑別所において行なわれている。
 少年鑑別所の機能や活動状況については,別に少年鑑別所の項で詳細に述べるので,ここでは,家庭裁判所の審判のための心身の鑑別が,最近どの程度に行なわれているかをみるにとどめよう。IV-31表は,最近五年間に終局決定のあった道交法違反事件以外の一般少年保護事件について,心身鑑別の有無および心身鑑別を行なった機関の内訳を示すものである。心身鑑別を行なった者の総数は,年によって多少の変動はあるが,終局決定総数のおおよそ二〇%前後にすぎない。鑑別を行なっている機関の中では,少年鑑別所が圧倒的に多く,鑑別を行なった総数の八六%を占めているが,そのほかに,家庭裁判所みずからこれを行なっているもの,病院等に委嘱しているもの,鑑別所あるいは病院等と家庭裁判所とが重複して行なっているものなどいろいろある。

IV-31表 心身鑑別の有無別人員(昭和33〜37年)

 右の心身鑑別とは別に,道交違反事件の少年について,最近家庭裁判所では心理テストを行なっているということである。
 家庭裁判所では,少年に対する処分を決定する前に,相当の期間,試験的に家庭裁判所調査官の観察に付し,一定の補導措置を講じながらその反応をみて,少年の個性や環境の特性を見きわめることができるようになっている。これを試験観察といい,遵守事項を定めてその履行を命じたり(少年法第二五条第二項第一号),条件をつけて保護者に引き渡したり(同第二号),適当な施設,団体または個人に補導を委託したり(同第三号)しながら,その経過を観察するのである。これは調査ないし非行性の診断の段階で行なわれる調査の一形式であり,あくまで試験的なものである。
 このような試験観察に付された少年の数は,IV-32表にみるように,受理総数のおおむね二%前後であり,昭和三六年度は別として,実数では逐年増加しているが,新受理数に対する割合では,昭和三〇年における三・七%,昭和三一年における三・五%,昭和三二年における二・七%とみてくると,減少の方向に向かっているとみることができる。このように,試験観察の割合が減少傾向を示しているのは,道交違反事件の受理件数が増加しているのに,それに対する試験観察が比較的少ないためである。

IV-32表 試験観察数(昭和33〜37年)

 昭和三六年に終局決定のあった事件についてみると,一般事件においては,単純な試験観察(七四・二%)が最も多く,身柄付補導委託(二三・六%)が,これに次いで多い。試験観察の期間は,IV-33表にみるように,一般少年保護事件では二か月から九か月のものが大部分である。なお,道交違反事件に関しては,この種の統計がないので,処分の状況は明からでない。

IV-33表 試験観察の期間(昭和36年)

 (2) 処分の状況 家庭裁判所が少年事件について調査を行なった結果,所在が明らかでないために審判に付することができないとか,非行がきわめて軽微で,審判に付するのが相当でないと認められる場合には,審判を開始しない旨の決定を行なう。また,保護処分に付することができないとか,その必要がないと認められる場合には,不処分の決定を行なう。
 調査の結果,審判を開始するのが相当と認められる場合には,家庭裁判所はその旨の決定をして,少年法に定める方式で直接審理を行なう。その結果,少年法第一八条または第二〇条に該当する場合には,それぞれ都道府県知事または児童相談所長に送致する旨の決定または検察官に送致する旨の決定をしなければならない。また,すでに二〇才以上であることが判明した場合には,決定で検察官に事件を送致しなければならない。
 以上のような場合のほかには,家庭裁判所は次の三種の保護処分のどれかに決定しなければならない。すなわち,(1)保護観察所の保護観察に付すること,(2)教護院または養護施設に送致すること,(3)少年院に送致すること。
 これらの処分の状況を,最近五年間の統計によってみると,IV-34表に示すとおりで,終局決定の総数は,すでに述べたような受理人員の増加に伴って,逐年増加の一途をたどっている。昭和三七年には九〇四,一七六人に達し,昭和三三年の四六六,七九六人の一・九倍である。決定の種類別にみると,不開始がきわめて多く,全体の七〇%をこえている。次に多いのは不処分であって,検察官送致がこれに次いでいたが,昭和三七年には入れ代って検察官送致が不開始の次になっている。不開始,不処分あわせると八〇%に達しているというが,これらの決定がなされる場合に,かならずしも,なんらの措置も施されていないというわけではなく,そのうちの相当部分については,実際の上で,当該少年に対して訓戒を与えるとか,学校の職員に事実上の補導を委托するとかいう措置がとられた上でこれらの決定がなされている場合もある模様である。

IV-34表 家庭裁判所終局決定人員(昭和33〜37年)

 不開始,不処分に次いで多かった検察官送致は,昭和三三年には八・四%であったのが,昭和三七年には一五・五%になり,実数でみると,実に三・六倍に増加している。これは,過去五年間における終局決定人員の総数が一・九倍に,不開始が二・〇倍に増加したのに比べると,その増加率の著しいことがわかる。
 次に,保護処分の中でもっとも多いのは保護観察で,決定総数の二%から五%の間にあるが,このところ総数に対する割合においても,実数においても減少の傾向にある。その次の少年院送致も,このところ一%前後にすぎないが,IV-34表によって明らかなように,保護観察同様,このところ減少の方向に向かっている。教護院または養護施設への送致は〇・一%程度でその数も少なく,とくに顕著な動きはみられない。
 次に,道路交通関係事件が総数のうちの大きな部分を占め,かつ犯罪としては他の犯罪や非行とかなり趣を異にしているので,他の事件と区別して,処分の状況を比較してみたい。IV-35表IV-36表は,それぞれ道交違反事件とその他の事件について,最近五年間の終局決定別の人員と総数に対する百分比を示したものであるが,まず総数についてみると,道交違反事件はその他の一般事件よりも著しくその数が多く,三倍から四倍以上にもおよんでいる。また,最近五年間における増加率も著しく,昭和三三年にくらべて,昭和三七年には一般事件が一・四倍の増加率を示しているのに,道交違反事件は二・一倍におよんでいる。

IV-35表 道路交通事件終局決定人員(昭和33〜37年)

IV-36表 道路交通事件以外の事件の終局決定別人員(昭和33〜37年)

 つぎに,終局決定別に検討してみると,不開始の割合の高いことは,いずれも同様であるが,道交違反事件では七二%から七七%におよび,一般事件の四一%から五一%に比べて著しくその比率が高い。また,実数の上での増加率も著しく,昭和三三年と昭和三七年を比較した場合,一般事件では一・六倍の増加に対し,道交違反事件では二・一倍になっている。しかしながら,不処分は一般事件の割合が高く,二三%から三〇%の間にあるのに対し,道交違反事件では八%から一七%の間にある。なお両方とも,不処分はこのところ減少の傾向にある。
 注目すべき点は,道交違反事件における検察官送致の著しい増加の傾向であって,昭和三三年と昭和三七年を比較すると,実数の増加が一般事件では一・九倍であるのに対し,道交違反事件では実に四倍におよんでいる。全体の中で占める割合も,昭和三三年の九・三%から逐年増加して,昭和三七年には一七・一%に上昇している。なお,道交違反事件のうちには,警察から直接家庭裁判所に送致される罰金以下の刑にあたる事件が四〇%位含まれており,これらの事件については検察官送致は許されないので,これを除くと検察官送致の割合はさらに高くなるわけである。
 これに対し,道交違反事件では一般事件に比べて,保護観察,少年院送致,教護院,養護施設への送致などの保護処分がきわめて少なく,これらを合わせても一%に達しないばかりか,減少の傾向をみせている。
 一般事件においては,保護観察は道交違反事件同様減少の傾向を示しているが,それでもなお一〇%をこえ,少年院送致も同様に若干減りつつあるが,なお年間八,〇〇〇人をこえている。知事,児童相談所送致や教護院,養護施設への送致は,道交違反事件に比べれば多いといえるが,これらを合わせても五%前後で,一,〇〇〇人を若干こえる程度にすぎない。
 次に,刑法犯の主要罪種別に終局決定の内訳を検討してみることにしよう。IV-37表は,昭和三七年に終局決定のあった人員のうち,窃盗,恐かつ,傷害,殺人,強かん,わいせつ,および業務上過失致死傷について,処分別の人員と百分比を示したものである。

IV-37表 主要罪種別終局決定人員(昭和37年)

 まず窃盗についてみると,不処分,不開始がきわめて多く,これを合わせると七九・一%におよんでいる。それに対し,検察官送致はきわめて少なく,わずか一・八%にすぎない。窃盗と並んで不処分,不開始の多いのは傷害で七九・四%におよび,恐かつも六九・八%である。これらはまた,検察官送致もそれほど多くなく,それぞれ四・七%と二・八%であり,保護観察は一三・〇%と一九・四%で,やや高くなっている。恐かつと傷害を比較してみると,保護観察,少年院送致などの保護処分は恐かつの方が割合が高い。
 殺人になると,犯罪の性格上不開始,不処分は一四・四%で少なく,検察官送致と少年院送致の割合が高くなっている。性犯罪のうち,強かんは保護観察の割合がもっとも高く三八・六%におよんでおり,少年院送致も一四・九%で,殺人の一八%の次に位している。検察官送致も八・八%で,一般少年保護事件の平均八・六%を上回っている。これに対し,わいせつは不開始,不処分が多く,七〇・六%で恐かつとほぼ同率であり,検察官送致や保護観察の割合もよく似ている。最後の業務上過失致死傷は,検察官送致が四八・六%で,殺人と肩を並べているが,なお不開始,不処分をあわせて四八・四%におよんでいる。昭和三六年における処分では,検察官送致が四一・六%,不処分,不開始があわせて五四・八%で,これらと比べた場合,不処分,不開始の割合が少なくなって,逆に検察官送致の割合がふえている。
 最後に,家庭裁判所が事件を受理してから,終局決定にいたるまでの期間をみると,IV-38表に示すように,一般少年保護事件で三か月以内に終局決定をみているものは,昭和三五年には六八・七%,昭和三六年には七一・五%,昭和三七年には七二・一%と,審理はかなり円滑化しているかに見受けられ呼。が,それでもなお,一年を越えるものが五,〇〇〇人以上にのぼっているのは見のがすわけにはゆかないであろう。

IV-38表 終局決定審理期間別人員(一般少年保護事件)(昭和35〜37年)