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2 行為の粗暴化と非行年齢の低下 (1) 粗暴犯の増加 前節において,最近の少年犯罪の動きの中で,とくに目につくのは暴行,恐かつなどの粗暴犯の増加であると述べたが,この点について,さらに詳細に検討してみたい。
IV-11表は刑法犯検挙人員を,主要罪名別に,昭和二九年を指数一〇〇としたもので,主要な罪種ごとに,年次的な推移を明らかにしようと試みた。これをみると,増加率のもっとも顕著なのは恐かつで,昭和三〇年このかた年年増加して,昭和三八年には五〇二という高い指数を示している。すなわち,五倍を越える驚くべき増加率である。 IV-11表 主要罪名別少年刑法犯検挙人員の指数の推移(昭和29〜38年) 恐かつに次いで,増加率の著しいのは暴行であるが,これも年年増加の一途をたどり,昭和三八年には昭和二九年の四倍近くになっている。次いで増加率の著しいのはわいせつで,三倍以上になっているが,その実数はIV-2表にみるように,恐かつ,暴行などに比べて著しく少ない。そのほか,全体の指数一八五を上回るものとしては,脅迫,強かんなどがあり,このうち強かんは一応,性犯罪のはんちゅうにはいるものであるが,その方法においてはきわめて暴力的で,粗暴犯のはんちゅうにもはいりうるものである。したがって,これらの統計によって,ここ一〇年来,あきらかに少年犯罪の粗暴化の傾向をみとめることができるが,傷害,強かんなどの一,二の犯罪のように,ここ一,二年若干減少のけはいをみせているものもある。 特別法犯中,銃砲刀剣類等所持取締法違反,暴力行為等処罰ニ関スル法律違反,決闘罪等の暴力関係事件について,昭和三一年以来の検挙人員の推移をみると,IV-12表に示すように,決闘罪は減少の傾向にあるが,全般的には年年増加の一途をたどり,昭和三七年には昭和三一年の四倍近くになっている。 IV-12表 少年特別法犯中粗暴犯検挙人員の推移(昭和31〜37年) ところが,ぐ犯行為のうち凶器所持,乱暴,けんか,たかりを一群とする粗暴行為と,不良交友,不良団加入などの粗暴関連行為の割合はIV-13表の示すとおり,かならずしも最近増加していない。この事実は,暴力関係の刑法犯や特別法犯の増加の傾向と相反するかに見受けられるが,両者の間には密接な関係があるものと考えられる。すなわち,少年におけるこれらのぐ犯行為が悪質化してきたため,刑法犯ないし特別法犯として検挙される者が多くなったとみることができるのである。粗暴行為が年少者の間に一般化すれば,ぐ犯行為として補導される割合が少なくなって,重い非行として検挙される者の増加するのは,当然である。IV-13表 ぐ犯少年中粗暴行為の千分比 なお,IV-14表は,組織的な暴力団に加入している青少年の検挙人員と検挙人員の総数に対する割合を求めたものであるが,その実数においても,また青少年の占める割合においても,昭和三三,三四年を一つのピークとして,このところ若干減少の傾向にある。しかし,一般的な情報は,中学校や高等学校などにおける番長制度が,かなり急速にまん延しつつあって,それが暴力的傾向をいっそう助長しつつあることを告げている。番長というのは,ぐれん隊と称する暴力団のリーダーの呼称であり,このような呼称が学生,生徒の間にとり入れられたからといって直ちに番長が組織暴力に結びついているということはできないにしても,その予備軍的な役割を果たしていることは見のがすことのできない事実である。IV-14表 暴力団検挙人員(昭和29〜37年) 番長を中心とする学校生活の暴力化は,教育活動を阻害するものであるばかりでなく,健康な社会を根底からむしばむものであって,このような勢力のまん延に対しては早急に,かつ徹底的な対策を講ずる必要がある。(2) 非行年齢の低下 粗暴犯の増加とならんで,最近の少年犯罪の動きの中で,とくに目につくのは,これも数年来指摘され続けてきたところであるが,低年齢層の増加の傾向である。IV-15表はすでに掲げたIV-3表に対応するものであって,各年齢段階における年次別刑法犯検挙人員の人口一,〇〇〇人に対する比率を求め(人口対比),昭和二九年を指数一〇〇としたものである。 IV-15表 刑法犯年齢別検挙人員の人口対比,指数の推移(昭和29〜37年) この表によって年次的な推移をみると,指数増加の特に顕著な年齢段階は一四〜一五才の年少少年で,昭和三七年には昭和二九年の二倍以上になっている。それに次いで多いのは,一四才未満の触法少年で,その増加率は二倍に近い。あとは,年齢の高くなるに従って,増加率も低くなっているが,成人への移行段階として対比した二〇〜二四才の段階では,昭和三七年には指数一〇〇を割っている。なお,しさいに検討すると,きわめて興味のふかいことは,一六〜一七才の中間少年,一八〜一九才の年長少年のいずれも,昭和三〇年以降指数の増加傾向を示しているが,増加の歩みは年長少年の方が遅く,しかも両方とも昭和三七年には前年より若干低下している。それに対し,一五才以下のいわゆるローティーンは,昭和三〇年と昭和三一年にはむしろ低下し,増加の開始は遅れているが,昭和三二年以後かなり急速に増加して今日にいたっている。 この年齢段階別の検挙人員を実数で示すと,前掲IV-3表のとおり,一八〜一九才の年長少年は昭和二九年には四三,八七五人であって,一六〜一七才の中間少年の二九,七八〇人,一四〜一五才の年少少年の二〇,六八七人より多かったのが,昭和三七年には五九,二三七人に増加しており,中間少年の四三,〇八九人よりは多いけれども,年少少年の六〇,六一五人には完全に追い抜かれている。したがって,犯罪年齢が低年齢層に移行しつつあるすう勢にあるといって過言ではないであろう。 このように,年少少年の非行は増加しているが,それが特に顕著にみられるのは恐かつ,暴行などの粗暴犯であり,傷害,強かんにも同様の傾向がみられる。 IV-16表は,恐かつ,暴行,傷害,強かんについて,各年齢段階別に人口一,〇〇〇人に対する検挙人員の割合を求め,それを,昭和二九年を一〇〇とした指数の年次的推移を示したものである。これをみると,まず暴行では,一八〜一九才の年長少年と一六〜一七才の中間少年は一〇年間にそれぞれ約二倍の増加であるのに,一四〜一五才の年少少年は一〇倍をこえていることがわかる。また,恐かつでは,一八〜一九才の年長少年は約三倍,一六〜一七才の中間少年に約五倍に増加しているのに対し,一四〜一五才は一一倍以上にのぼっている。しかも,一六才以上のハイティーンでは,ここ一,二年やや低下の傾向を示しているのに,年少少年では依然として上昇の一途をたどっている。 IV-16表 強かん,傷害は,恐かつや暴行ほど増加率は著しくないけれども,年少少年は一〇年間に三ないし四倍近くも増加し,一六才以上のここ一,二年における減少傾向にもかかわらず,恐かつや暴行と同様,増加の傾向を示している。ただ強かんでは,後にも述べるように,昭和三三年,三四年にかなり著しい増加を示し,年長層ではその後減少傾向を示しているが,年少層では,いったん減少したのち,再び増加のけはいを示しているのは注目しなければならない。これらの動きは,IV-2図(1)〜(4)によって明りょうに看取されるであろう。IV-2図 (3) 少年暴力犯の特質 最近におけるわが国の少年犯罪の中でもっとも特徴的な動向として暴力的犯罪の増加をあげたが,ここでその内容に立ち入って,その特色を究明してみたい。さきに第一編においても述べたとおり,なにを暴力犯罪とするかについては,いろいろ問題があるが,ここでは,暴行,傷害,脅迫などの人身に対する単純暴力と,恐かつ,強盗などの財物の所得を目的としたいわば財産犯的暴力に大別し,そのほかに殺人と強かんをも加えた。 昭和三七年度における刑法犯検挙人員のうち,これらの頚別に属する人員の比率を求めたのがIV-17表(1)(2)である。 IV-17表 これらの暴力犯罪を合わせたものを,ます性別についてみると女子はその生理的ならびに心理的特性から,このような暴力犯罪にはなじみにくい傾向があることから,暴力犯罪検挙人員の中の一・二%にすぎず,全刑法犯検挙人員の中で女子の占める比率六・二%に比べて著しく低率である。女子刑法犯の中で占める比率も六・一%で,男子の三一・〇%に比べると問題にならないほど低率である。しかしながら,年間六〇〇人をこえる少女がこのような犯罪に陥っている事実は看過できないであろう。次に,年齢別にみると,実人員では年長少年が二〇,〇四五人で最も多く,中間少年は一五,〇九八人でその次に位し,年少少年が一三,〇四九人で最も少ない。各年齢段階における検挙人員に対する比率は多少順序を異にし,中間少年(三五・〇%),年長少年(三三・八%),年少少年(二一・五%)の順になる。すなわち,暴力犯罪は,もともとは一六才以上のハイティーンに多く,いわばその特徴的な犯罪であり,今日もその点には変りがないが,すでに指摘してきたように,最近になって,ロティーンの暴力犯罪がしだいにハイティーンのそれに近づき,これに代る勢いを示しているということである。 検挙された者の身分を有職者,無職者,学生・生徒に大別し,それぞれにおける暴力犯罪の比率を求めると,暴力犯罪は無職者に高く学生に低い。これをこまかく暴力犯罪の類別にみると,有職者では単純暴力の比率が高く,無職者では財産暴力の方が高い。無職者に財産暴力の割合が高いのは,おそらく犯罪が生計の手段になっているためであろう。 なお,暴力犯罪全体の中で占める有職者,無職者,学生・生徒の比率を求めると,有職者が最も高く四六・三%で,学生・生徒三六・三%で無職者一七・四%の順になる。これを全刑法犯検挙人員の中で占める有職者(四一・七%),無職者(一四・七%),学生・生徒(四三・五%)の比率にくらべると,有職者および無職者では高く,学生・生徒では低い。したがって,学生・生徒では,有職者や無職者にくらべて,暴力犯罪は少ないとうことができる。なお,単純暴力の中での身分別の比率を求めると,有職者は五一・八%で,他にぬきんでて高い。財産暴力では学生・生徒の三七・八%が最も高いが,これは,暴力犯罪の中で占める学生・生徒の比率と大差がなく,暴力犯罪の中で占める比率と比較した場合,かなり高くなっているのは無職者(二七・七%)である。 地域を,六大都市とそれ以外の地域に分けて比較すると,暴力犯罪の比率は全体としては六大都市の方が高くなっている。 触法少年では,刑法犯検挙人員の中に占める暴力犯罪の比率は,IV-18表のとおり,五・六%で,きわめて低く,一二〜一三才の年齢段階では七・五%,一〇〜一一才では二・七%,一〇才未満では一・六%で,一四〜一五才の二一・四%に比べると格段に低くなっている。また,暴力犯罪中に占める女子の割合も一・二%で,触法少年の中に占める女子の比率四・一%に比較し,さらに低くなっている。 IV-18表 触法少年中の暴力犯罪人員等(昭和37年) なお,触法少年については,資料の関係で地域差は明らかにされない。ぐ犯少年については,凶器所持,乱暴,けんか,たかりなどをまとめて暴力行為群とし,別に不良交友と不良団加入を不良交友関係群として集計してみた。その結果はIV-19表(1)(2)に示すように,両者を合わせて七一,三八七人で,ぐ犯行為全体の七・六%にすぎない。 IV-19表 男女別では,暴力行為群の中の女子の割合は二・一%できわめて低いが,不良交友関係では一七・六%で,ぐ犯全体の中で占める女子の比率七・八%よりも著しく高い。したがって,刑法犯におけると同様,女子は暴力行為に陥ることはきわめて少ないけれども,非行グループに加わる割合はかなり高いことがわかる。一四才未満,一四〜一五才の年少少年一六〜一七才の中間少年,一八〜一九才の年長少年に分けて,これらの類別の比率を比べてみると,男子では年少少年に暴力的非行の比率がもっとも高く,年長になるに従って低くなる。これは,年長者になると,同じような暴力行為が刑法犯として扱われるためであろう。それにしても,一五才以下のローティーンの中に,ぐ犯においても暴力的非行の比率が比較的高いということは,少年犯罪の粗暴化の底辺をなすものであって,その前途に楽観を許さないものがある。ただし女子においては,不良交友関係は年少少年のみならず,中間少年においても比率が高く,一四才から一六,七才頃の年齢が,このような非行にとってもっとも危険であることがわかる。 暴力的非行者の身分関係については,中学生,高校生などの生徒が圧制的に多く,六九・四%を占めている。さらに,身分別に暴力行為と不良交友関係の比率を比較してみると,生徒では両方とも比率が高く,無職者では不良交友関係がとくに高い。これを刑法犯の暴力犯罪と照合しながら検討すると,学生・生徒の暴力犯罪ないし暴力的非行は有職者や無職者をはるかにりょうがしているが,ぐ犯として,補導されることが多いと考えることができる。これに対し,勤労青少年では,刑法犯として検挙されることが多い。 六大都市とその他の地域別にみると,暴力行為,不良交友関係の両者とも六大都市以外の地域の方に高くなっている。これは,刑法犯の場合と逆であって,大都市の方の非行がより悪質なのか,それとも取締りの態度の差によるのかは明らかでない。 |