第四編 少年犯罪
第一章 少年犯罪とその処分の概況
一 少年犯罪の動向
1 少年非行の種類とその数 昭和三九年一月二〇日には,茨城県日立市に三人組の高校生の強盗殺人事件,続いて二月三日には,東京山手に同じく高校生三人組の連続六件の強盗事件があって,その犯人がいずれも一六才の少年であったことや,学校の卒業にあたって,中学生が教師に暴行を加えるなどの事件が頻発して,ここのところ少年非行に関する一般の関心がとみにたかまっている。しかし,なにを非行とみるかは,これを扱う人々の立場によって,かならずしも一定しない。 わが国の少年法では,対象となる少年の行為を,刑罰法令に触れる行為とぐ犯行為の二種類に大きく分けている。 刑罰法令に触れる行為は,さらに窃盗,詐欺,横領,強盗,恐かつ,脅迫,暴行,傷害,強かん,わいせつ,住居侵入,殺人,放火などの「刑法犯」と,道路交通法違反,売春防止法違反,銃砲刀剣類等所持取締法違反などの「特別法犯」に分けられる。そこで,年齢が一四才以上二〇才未満の少年で,刑法犯を犯した者を「犯罪少年」,特別法令に違反した者を「特別法犯少年」と呼び,一四才未満の者が刑罰法令に触れる行為をした場合には「触法少年」と呼んで区別している。 ぐ犯というのは,刑罰法令には抵触しないが,その性格,行状,環境などから判断して,近い将来に罪を犯すおそれのある行動ないし性癖のみられる場合をいう。なお,警察では広く不良行為のある少年に対して補導を行なっており,その対象となる不良行為としては乱暴,けんか,たかり,凶器所持,家出,怠学,怠業,物品持出,金銭濫費,婦女誘惑,いたずら,不純異性交遊,飲酒,喫煙,不良交友,不良団加入,盛り場はいかい,不健全娯楽などがあげられ,これが犯罪統計書上に,ぐ犯として掲げられている。しかし,不良行為としては,さらに昨年流行した睡眠薬遊びや,自殺企図,いれずみ,浮浪などもあげられるべきであろう。なお,これらのうちには,少年法にいう厳密な意味でのぐ犯には含まれないものもあると思われるが,この白書では便宜上これらの不良行為のある少年をも含めて,これを「ぐ犯」ないし「ぐ犯少年」と呼ぶこととする。 このような少年が,わが国にどれくらいいるかということになると,全国の警察で検挙ないし補導された数を,犯罪統計によっては握する以外に方法がない。 まず,犯罪少年についてみると,昭和三七年度の検挙人員は一六二,九四一人で,同年齢の人口一,〇〇〇人に対する割合は一三・九であるから,ほぼ七〇人に一名の割合である。昭和三八年度の検挙人員は一七四,三五一人で,人口一,〇〇〇人に対する割合は一四・二と上昇している。また,昭和三七年度における特別法犯少年は八三五,四六〇人,ぐ犯少年は九三二,一八八人,触法少年は六〇,四九八人で,これに犯罪少年を合わせると一,九九一,〇八九人に達する。すなわち,約二〇〇万人である。この数は八才から一九才までの少年人口一,〇〇〇人あたり八三・四人の割合である。さらに,一四才以上の者だけについて,同じ年齢の人口に対する割合を求めると,一,〇〇〇人に一四〇人という数字になる。 もっとも,ここに掲げた人員は,一年間に検挙または補導を受けた延べ数であり,ひとりで何回も検挙されている者は重複して計算されているから,その実数はもっとすくなくなると考えられる。しかしながら,家庭や学校で非行がありながら,警察ざたにならない事件も相当にあるはずである。これは統計上の暗数とか潜在犯罪ないし潜在非行と呼ばれるものであるが,それが実際にどれくらいあるかは推定が困難である。それにしても,この統計上の暗数を考慮に入れるならば,少年非行は膨大な数にのぼると考えられる。 ただ,ここで一言しておかなければならないことは,八三五,〇〇〇人におよぶ特刈法犯のうち,八一八,〇〇〇人が道路交通法違反であるから,これを一般の犯罪なみに扱うことには問題があろう。
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