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 昭和39年版 犯罪白書 第三編/第四章/六 

六 暴力犯罪者の更生保護

 前述のように,暴力犯罪者は,保護観察に付された者のうちで,しだいに大きな割合を占め,注目すべき現象を呈してきている。これらの者の保護観察終了事由や期間満了時の成績評定段階等は,他の犯罪者に比べ,とくに差はみられない。しかし,暴力犯罪者の中には,暴力組織関係者も混在しており,これらの者に対する保護観察には種々の困難が内在しているので,単に表面上の成績から判断するのは危険である。
 そこで,ここでは,いわゆるやくざ,愚連隊等暴力組織関係の対象者が,暴力組織と関係のない対象者に比べて,保護観察実施面において,どのような顕著な問題点を示すかを述べることにする。
 このことに関しては,法務省保護局が,昭和三六年に実施した「暴力組織と関係をもつ暴力事犯関係対象者に関する実態調査」がある。この調査は,昭和三六年二月一日から三月三一日までの間に,全国の保護観察所で新受した,少年院仮退院,仮出獄,保護観察付執行猶予のケースのうち,罪名が殺人,傷害,傷害致死,脅迫,強かん,わいせつ,住居侵入,恐かつ,強盗(単純,致死傷,強かん),暴力行為等処罰ニ関スル法律違反および銃砲刀剣類等所持取締法違反のいずれかに該当したもの一,四〇二を母集団とし,これから庁別件数にもとずく比例案分法によって抽出した八〇〇についてのものである。このうち,一四三は調査票の回収不能等の理由により集計できず,さらに暴力組織との関係の有無が不明の者が四三あるから,結局,以下の表は暴力組織関係者一一一と,関係のない者五〇三とを比較しているのである。
 まず,保護観察種別の人員をみると,III-98表のとおりで,少年院仮退院者にも暴力組織関係者がかなり多数いることがわかる。

III-98表 保護観察種別と所属暴力組織別人員と率

 次に,同表によると,所属した暴力組織ではてきや,やくざ等の組織が半数以上であり,その所属期間もIII-99表に示すように,二年以上の者が同様半数以上を占めている。またその組織内の地位は,III-100表のとおり,主導的地位や準幹部級が約三分の一である。

III-99表 暴力組織関係所属期間

III-100表 暴力組織団体における本人の地位

 保護観察開始当初に,保護観察担当者がいだいたケースの見通しをみると,III-101表に示すように,組織関係者においては,「改善は無理だと思った」というのが四割近くに達している。

III-101表 担当保護司のケース予想

 保護観察活動についてみると,まず担当者と対象者との接触状況では,一月平均接触回数において,III-102表に示すように,組織関係者は明らかに関係のない者より回数が少なく,接触の態様においても,III-103表のとおり,本人の来訪は組織関係者の方が少ない。

III-102表 担当保護司と本人との1月平均の接触回数

III-103表 担当保護司と本人との接触型(往訪,来訪)

 組織関係者の保護観察が,いかに困難であるかを示す一つのあらわれとして,保護観察開始時における本人の状況をみると,III-104表のとおりで,組織関係者では保護観察の義務を理解している者の率は組織関係のない者に比して高いのにもかかわらず,担当者を無視する態度の者や,担当者に対して保護者の非協力的な者が多く,また近隣の者が本人を恐れている場合が多い。

III-104表 保護観察開始時における本人等の状況

 最後に,再犯の状況であるが,保護観察開始後本調査時までに再犯していた者は,組織関係者では二〇(二一・九%),関係のない者では四三(八・五%)で,組織関係者の再犯率はかなり高い。しかし,再犯罪名が暴力犯罪である率は,組織関係者で八〇%,関係のない者で七六%であって,大きな差はみられない。
 これらの調査結果からみてもわかるように,暴力犯罪者中,とくに暴力組織関係者については,保護観察の実施に困難を感ずる場合が少なくないようである。とりわけ,本人が更生の意欲に乏しく,また,家族が本人の更生に無関心で,保護観察の実施に非協力的な揚合が多くみられるようであるから,保護観察に付する裁判所の側,および仮退院,仮出獄を許可する地方委員会の側では,これらの点について十分慎重な配慮がなされることが望ましい。