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 昭和39年版 犯罪白書 第三編/第一章/四/6 

6 刑務作業および職業訓練

 刑務作業は,刑務所において被収容者の就労によって経営されるいっさいの作業をいう。したがって,そのなかには,懲役受刑者,労役場留置者による強制労働のみでなく,禁錮受刑者,拘留受刑者,死刑確定者,未決拘禁者の請願による作業が含まれている。昭和三八年末における刑務作業就業人員は,III-38表のとおりで,懲役受刑者の九〇・〇%(前年とほぼ同じ)に達する。なお,懲役受刑者のうち不就業者がいるのは,分類調査,疾病,懲罰の執行,移送などの事由によるものである。

III-38表 刑務作業の就業人員と就業率等(昭和38年末現在)

 刑務作業の目的については,一面では,刑の内容として,すなわち犯罪に対して課されるところの憲法にいう苦役を意味するが,他面では,刑そのものを受刑者の社会復帰の手段として,矯正教育的効果が期待されるものとし,また,国家経済の上から国民の負担を軽減するため,できるだけ収益をあげるところにあることが考えられる。今日の刑務作業は,これら三つの目的を同時に達しようとして,生産的,有用的な作業の充実を目ざしている。

(一) 刑務作業の業態,業種

 刑務作業の業態は,次の五種に分けることができる。
(1) 物品製作 作業の実施に必要な費用,物品等のすべてを国が負担して行なう作業(2) 加工修繕 作業の実施に必要な費用は,国と契約者の双方が負担し,機械器具は,国と契約者とのいずれかが負担し,材料その他の物品は,契約者が大部分を提供し,国は補足的に一部分を負担して行なう作業(3) 労務提供 作業実施に必要ないっさいの費用,物品等のすべてを契約者が負担して行なう作業(4) 経理 炊事,清掃,看護など刑務所の自営に必要な用務を行なう作業(5) 営繕 刑務所自体のために行なう直営工事,あるいは補修工事など必要な用務を行なう作業
 これらの業務のうち,経理,営繕を除いたものの年間就業人員は,III-39表に示すように,延べ一一,八九三,一三二人(前年より五六二,八九〇人減)で,その内訳は,労務提供がもっとも多く(五二・八%),以下,物品製作(二三・八%),加工修繕(二三・四%)の順で,加工修繕の割合の減少が目だち,昨年と順位がいれかわっている。

III-39表 刑務作業支出額,収入額,調定額および業態別生産額ならび就業延べ人員(昭和36,37年)

 業態別と業種との関係を,昭和三七年における就業人員の面からみると,労務提供では,紙細工(封筒紙器などの製作)がもっとも多く(二四・一%),金属(プレスなどの作成,一八・六%),紡績(一〇・六%),メリヤス(九・四%)など,物品製作では,木工(二六・九%)印刷(二二%),農耕・牧畜(一一・五%),革工(八・二%)など,また,加工修繕では,洋裁(二七・五%),紙細工(二一・六%),金属(一五%),木工(八・九%)などが多い。
 次に,生産額の面からみると,昭和三七年には,年間三九億円以上の額に達し,前年より約三億六千万円の増加である。業態別では,就業延人員の比較的少ない物品製作が二二億七千万円で,全体の五七・六%を占め,就業延べ人員の面で全体の半数以上を占める労務提供が九億七千万円(二四・六%)で,これらの業態は,いずれも前年より生産額が増加しているが,加工修繕は,約七億円の生産で前年とほぼ同額である。
 業種別に,年間一億円以上の収入をあげているものをあげると,物品製作では,木工(八億円,前年より一億円増),印刷(四・八億円,前年より〇・七億円増),金属(二・三億円,前年とほぼ同額),革工(二・一億円,前年よりわずかに減少),製紙(一・四億円,前年より〇・二億円増),農耕・牧畜(一・三億円,前年より〇・一億円減),労務提供では,金属(二・四億円,前年かり〇・五億円増),構外作業(一・七億円,前年より〇・二億円減),紙細工(一・五億円,前年より〇・二億円増),また,加工修繕では,洋裁(一・八億円,前年とほぼ同額),金属(一・七億円,前年より〇・一億円増),などがある。

(二) 刑務作業による収入

 刑務作業による収入は,昭和三七年には,総額約三六億五千万円(昭和三六年に比較し約三億七千万円の増収)で,受刑者の直接収容に要する費用(刑務所収容費)を一二・五%上回っている(前年は一四%上回った)。業種別に,作業のための直接の支出額(刑務所作業費)と収入額との関係をみるとIII-40表のとおりで,総額では,収入は直接の支出の二・四倍(前年と同率)におよび,刑務所全体の経費に対しては,その二六・八%(昨年と同率)にあたっている。

III-40表 刑務作業業種別支出額,収入額(昭和37年)

 刑務作業の一日平均の就業人員は,昭和三七年には,五一,八六九人で,前年より減少しているにもかかわらず(前年は五二,六六三一人),前述のように,収入額が増加しているのは,本年もひきつづいて,刑務所の労働力が積極的に利用されたこと,および労務提供作業に対して契約賃金の上昇が続いていることなどによるものである。

(三) 構外作業

 受刑者の社会生活に対する適応性を与える方法の一つとして,通役(外部の作業場へ毎日通うこと)あるいは泊まり込みによる開放的ないしは半開放的な構外作業場が設けられている。その内容は,ほとんど公共事業的性格のもので,森林開発,電源開発,築堤工事などの国土開発,治山治水工事に重点がおかれている。しかし,実際には,作業の継続性,社会復帰との関連,危険性,賃金などの労働条件,本人の適格性,あるいは一般労働者との関係などから,毎年減少の傾向がみられている。昭和三七年末現在の構外作業就業人員は,一,一二六人(前年末現在より一九・三%減)にすぎないが,年間一億七千万円(前年より二千万円増)の収入をあげている。これは契約賃金の上昇によるものである。

(四) 職業訓練

 受刑者に技能を習得させるため,職業訓練を実施している。昭和三七年度には,木工,活版印刷,製靴など三〇種目(前年より五種目減)について,一,五八〇人が訓練を終了した。これらの訓練を修了したものには,技能検定への道が開かれており,また,在所中に,理容師,美容師,海技従事者,無線従事者,自動車運転者などの資格または免許を取得したものは,昭和三七年度には一,〇二七人(前年度には二,〇一三人)であった。
 なお,職業訓練のために,昭和三七年に支出した額は四,四〇〇万円である。

(五) 経理,営繕作業

 刑務所自体の運営に必要な経理および営繕作業は,刑務作業の収支計算から除かれているが,昭和三七年の就業延べ人員は,三,七〇一,三〇九人(うち経理関係一,八二八,五二六人)で,総就業延べ人員の二三・七%を占める。経理作業のなかには,炊事,衛生,看病,理髪,計算,図書,ほてつ,洗濯,指導あるいは監督の補助などがある。

(六) 自己労作

 懲役受刑者は,定役としての作業のほか,行刑成績のすぐれた累進処遇第一級および第二級のものに限って,作業時間終了後一日二時間の範囲内で,紙細工,編物(刺しゅうを含む),メリヤス等の業種について自己労作することが許されている。その収益金は,本人の収入として,更生資金の一部に組みいれられることになっている。昭和三八年三月末日現在で,全国で七四二人が自己労作を許され,ひとり一月あたり平均一,〇六八円(昭和三七年三月末日現在では,六五三人が従事し,ひとり一月あたり平均一,四五一円)の収入をあげている。

(七) 作業賞与金

 刑務作業に従事したものに対しては作業賞与金が支払われる。作業賞与金は,作業の種類,就業条件,作業成績,行状等を考慮して一定の基準のもとに計算し,釈放の時に支払う恩恵的なものとなっている。そのために,予算額としては,受刑者ひとり一日あたり,昭和三七年には一三円三〇銭(実績),昭和三八年には一六円八八銭(予算)となっている。この実情に対処して,予算的にも作業賞与金の増額に努力し,昭和三九年度では,受刑者一日ひとりあたり平均一九円三八銭が認められ,昭和三八年度の一六円八八銭をかなり上回ることとなった。