前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和39年版 犯罪白書 第三編/第一章/四/2 

2 入所時の処遇

 新たに刑が確定し,刑務所に入所した受刑者に対しては,第一に,刑の言渡しあるいは拘禁からくる精神的不安定を解消し,刑務所の目的と実際とを理解させ,受刑生活を有意義に送らせるためのオーエンテーション・プログラム(入所時教育訓練)と,矯正の目的を達成するために,個々の受刑者について,もっとも適切な取扱いおよび訓練の方針を確立するための分類調査と,収容施設の選定とが行なわれる。
 オリエンテーション・プログラムと入所時分類調査とは,おおむね入所後一五日以内に,平行して行なわれている。しかし,オリエンテーションを徹底し,分類調査を十分に行ない,矯正に役だてるためには,一五日という期間では短かすぎるところから,当局では,昭和二三年以来検討をすすめてきた結果,昭和三二年に設置した中野刑務所分類センターにおける経験をもととし,同様のセンターを,八王子,大阪,名古屋,広島,福岡,宮城,札幌,高松の八か所に,昭和三八年に設けることとなり,合計三一名の専門職員がとりあえず配置され,具体的実施方法の検討に着手している。
 なお,中野刑務所分類センターは,施設の設備の関係上,東京管内の一定範囲の新入男子受刑者(昭和三八年は,二,五六三人)についてのみ,六〇日間収容し,次のような手続で,分類調査とオリエンテーションの徹底を図っている。
(1) 第一次判定期間 一五日間 この期間には,識別(本人であることの確認,指紋採取,写真撮影など),身体検査および医学的検診,心理検査(知能,情意,学力,適性その他パーソナーテイを解明する諸検査),精神医学的診断,社会調査資料の収集(非行歴,犯罪歴を含む。家庭,学校,関係諸官庁,会社等への照会),行動観察,その他必要な調査を一定のプログラムに従って実施する。この調査に平行して,施設の各部課職員ばかりでなく,更生保護委員会や保護観察所の職員,あるいは職業安定所の職員が参加し,映画,スライド,パンフレットなどを利用し,集団討議や個別カウンセリングの方法を応用した,オリエンテーションが行なわれる。オリエンテーション・プログラムの目的と内容,受刑の意義,矯正および更生保護の目的と機能,所内規則と日常生活の心得,分類調査の目的,その受け方などが,本人になっとくのゆくまで教えこまれ,このプログラムを通じて,受刑者みずからが改善しようとする意欲をもつよう指導される。
(2) 訓練観察期間 三五日間 第一次判定期間によって明らかにされた判定結果を,実際の生活場面において裏づけ,処遇指針に具体性を与え,受刑者に自信を植えつけるために設けられた期間である。ここでは,受刑者は,総合試験工場に配属され,職業に対する興味や適性を発見するとともに,限られた刑務作業あるいは職業訓練種目を通じて,社会復帰に役だつ作業の意義を体験するように,プログラムが組まれる。オリエンテーションとしては,生きた職業訓練の経験に重点がおかれ,また,分類調査としては,動的な行動観察と,精密調査とが行なわれる。
(3) 総合判定期間 一〇日間 この期間には,いままで行なった本人についての,あらゆる調査,検査,観察の結果を総合して,本人の更生にもっとも適切な収容施設と,処遇の方針およびとくに処遇上注意すべき点が決められる。次いで,移送先の施設についての知識が与えられ,移送時の心構えについてオリエンテーションが行なわれる。