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 昭和39年版 犯罪白書 第一編/第三章/四 

四 風俗犯罪

 暴力に関連する特殊犯罪としては,売春防止法違反,風俗営業等取締法違反,職業安定法違反,児童福祉法違反,競馬法違反,自転車競技法違反などの風俗犯罪があるが,最近における,これら風俗犯罪の検挙人員数の推移は,さきに掲げたI-19表の示すとおりである。
 これらの犯罪は,いずれも暴力組織の資金獲得の手段として利用されている点で,暴力と結びつきやすいものであるが,以下各違反についてながめることとする。
 まず,売春防止法違反であるが,同法の施行により公しょうが廃止され,売春に対する警察の取締りが強化されるに伴って,売春の著行性はその度を加え,その密行の必要から,自然に暴力組織に結びついたとみられる。
 かれらが売春に関係する態様としては,みずから売春娠をかかえて売春業を営むもの,売春婦の「ひも」となって売春を強要し,その売春対償をさく取するもの,あるいは,いわゆる「ポン引」となって売春の相手客を勧誘したり周旋したりするもの等,いろいろな態様がある。
 警察庁刑事局の調査によると,昭和三八年における売春暴力団関係の検挙人員は四六〇人で,この検挙人員数は昭和三六年を頂点として,その後減少傾向を示しているが,たび重なる検挙を経て,その手段方法は,ますます巧妙となり,また密行性を増し,その捜査,検挙は因難の度を加えている。
 次に,売春防止法違反で検挙された総数について,最近五年間の推移をみると,前掲I-19表のとおりで,昭和三四年以後,毎年例外なく減少してきているのが目たつが,この統計面の減少が,直ちに実際面の同法違反の減少を示すものとは速断できない。もともと売春事犯の徹底的検挙は,困難であって,その統計に暗数が多いことは世界共通の現象とされている。売春に対する需要が増加して,売春事犯が増加しても,犯行の手段方法が巧妙になって検挙されなければ,統計面の数字は増加しないこともちろんであって,統計の示すように,実際の犯罪が減少しているか否かについては,なお,いろいろな角度から検討する必要があるのである。
 次に,昭和三七年の売春防止法違反事件の第一審裁判結果についてみると,I-32表のとおりである。第五条違反は売春婦の勧誘行為等であるが,そのうち実刑に処せられたものは有罪人員中二一%で,補導処分に付されたものは二八・四%,保護観察付執行猶予が一九・七%,保護観察に付されない執行猶予になったものが二七・一%となっている。これに対し,いわゆるポン引等の第六条違反では,三七・六%が実刑で,保護観察付執行猶予は一五・一%,保護観察に付されない執行猶予が三九・三%であり,実刑の率は第五条違反より高いが,ポン引等には暴力団関係者が多い現状からみると,量刑の当否についての疑いを免れない。さらに,売春をさせる契約を行なったもの,売春の場所を提供したもの,売春をさせる業を行なったもの,すなわち第一〇条ないし第一二条違反の合計についてみると,二一%が実刑になり,七五・九%までが執行猶予となっている。事案にもよるであろうが,公判請求されたこの種悪質売春助長犯とみられるもののうち七六%近くが,執行猶予になっている事実は,留意を要すると考える。

I-32表 売春防止法違反事件第一審裁判結果人員(昭和37年)

 次に,風俗営業等取締法違反であるが,同法違反の検挙人員数は,前掲I-19表に示したとおり,昭和三四年以後,急速に増加し,同年を一〇〇とする指数で示すと,昭和三七年は一五二,昭和三八年は一六一と上昇している。また,同法違反の検挙件数を,その業態別に区分して最近三年間の推移をみると,I-33表のとおりであり,同法第一条二号に該当する料理店,カフェー等に違反が多ぐ,八三%ないし八五%を占め(もっとも,開業店舗総数からみても,他とは比較にならぬほど多いことには注意すべきであるが),これに次いでパチンコ屋,マーヂャン屋など同条第七号に該当する業態の違反が六・六%ないし八・二%となっている。

I-33表 業態別風俗営業等取締法違反検挙件数(昭和35〜37年)

 また,違反件数の増加が目だっているのは,同条第二号の料理店,カフェーなどと深夜喫茶店などである。
 次に,同法違反検挙件数を違反行為の態様別にみると,I-34表のとおりとなる。統計資料の不足から,昭和三六年,三七年の二年間しか見ることができなかったが,時間外営業と無許可営業が多いことが知られる。また,最近目だって増加しているのは,無許可営業,従業者の制限違反(一八才未満の少年を風俗営業に従事させる等の行為)および未成年者の立ち入り等である。

I-34表 違反態様別風俗営業等取締法違反検挙件数(昭和36,37年)

 最近,暴力犯罪の取締りが強化されるに伴って,暴力団関係者はその資金獲得の手段を,危険な犯罪行為に求めることを避け,一見,合法的にみえる方法にたよろうとする傾向がみられるが,風俗営業はかれらが最も親しみゃすく,かつ資金獲得の格好の場所となるのである。
 そのため,暴力団関係者による無許可営業や従業者の制限違反が目だち,さらには風俗営業をめぐる暴行,恐かつ事犯も発生するなど,間法違反の最近の傾向は特に注意を要するように思われる。
 次に職業安定法違反と児童福祉法違反であるが,この二つとも,昭和三四年以後相当大幅に増加していることは前掲I-19表により明らかである。これらは売春や人身売買と密接な関係があり,また暴力団関係者が介入してくる傾向が強い。いまこの二つの法律違反のうち,売春や人身売買に関係のあるものについて,最近の検挙人員の推移をみると,I-35表のとおりである。

I-35表 職安,児福両法の売春関係事犯検挙人員累年推移(昭和34〜37年)

 この表によると,特に注目すべき傾向はみられないが,この種事犯は暗数が非常に多いのであって,なお今後の推移をみまもる必要があると思われる。
 次は,競馬法違反と自転車競技法違反である。前掲I-19表によると,競馬法違反は昭和三六年まで増加傾向にあったものが,昭和三七,八年の二年間,順次減少してきているのが目だち,自転車競技法違反は昭和三七年以後,ふたたび増加しつつあるのが注目される。
 これらの違反行為の大部分は,私設の馬券や車券を客に売り,これが当選すると配当金を渡すというやり方の投票類似行為で,俗に「のみ行為」などといわれているが,この行為もまた,暴力団関係者およびそれに近いグループによって行なわれており,直接間接に暴力団の資金源となっているのである。