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2 暴力犯罪の現況 1において,暴力犯罪の戦後における推移に重点を置き,いわばその縦断面を概観したので,ここでは現段階における暴力犯罪の概況について,いわばその横断面を,さらに立ち入って考察してみよう。
まず,昭和三七年における暴力犯罪被疑者総数のうち,各罪名別被疑者の占める割合をとりあげてみよう。これを明らかにするため,さきに掲げたI-25表に基き,昭和三七年における暴力犯罪被疑者全国検察庁新受人員数二〇六,二六二人について,罪名別新受人員数の百分率を算出し,これを円グラフにえがくと,I-11図のとおりである。この円グラフによって明らかなとおり,暴力犯罪被疑者のうちで最も多いのは傷害で,全体の四〇・五%を占め,これに次ぐ暴行の一七・一%との間に大きなひらきをみせている。次は恐かつの一三・七%,銃砲刀剣類等所持取締法違反の八・五%,暴力行為等処罰に関する法律違反の四・七%,強かんの二・五%,毀棄の二・三%であって,これ以外の罪名は,さらにその比率は低く,殺人,強盗,強盗致死傷,強かん致死傷は一%台である。 I-11図 暴力犯罪全国検察庁罪名別新受人員の百分率(昭和37年) 次に,昭和三七年における暴力犯罪による第一審有罪人員総数(略式手続によるものを含む)および罪名別有罪人員数を裁判統計によって調べ,後者の前者に対する百分率とともに示すと,I-27表のとおりである。これによると,最も高率を占めるのは,傷害の五四・四%であって,これに次ぐものは,暴行の一九・二%,銃砲刀剣類等所持取締法違反の六・三%,恐かつの六・一%,暴力行為等処罰に関する法律違反の三・八%,強かん,同致死傷の二・三%,脅迫の一・九%,殺人の一・四%,毀棄の一・一%であって,その他はいずれも一%に満たない。検察庁の新受人員における割合とくらべ,傷害の有罪人員における割合が大幅に伸張し,恐かつのそれの割合が半減しているのが目だつが,これはのちに述べるように,実数の最も多い傷害の起訴率が,暴力犯罪の平均起訴率五七・五%より約一〇%も高いのに,その実数が傷害の約三分の一にすぎない恐かつの起訴率が,右平均起訴率より約一〇%低いためである。I-27表 暴力犯罪罪名別一審有罪人員と百分率(昭和37年) 次に,暴力犯罪により検挙された者の年齢別区分をみよう。I-28表は,昭和三五年から昭和三七年の間の主要暴力犯罪の検挙人員について,その年齢別区分を百分率で示したものである。同表には全暴力犯罪のそれを示していないが,それはこれ以外の罪種の年齢別区分の統計がないためである。しかしさきに掲げたI-11図によれば,右I-28表に示した主要な暴力犯罪の受理人員は,全暴力犯罪のそれの約八割を占めているから,同表によって,全暴力犯罪の検挙人員の年齢別区分のすう勢を知ることができるといえよう。I-28表 主要暴力犯罪検挙人員の年齢別百分率(昭和35〜37年) I-28表によると,一四才以上二〇才未満の者が,強盗,強かんおよび恐かつにおいて,いずれも五〇%を越える割合を占めていることと,二〇才以上三〇才未満の者が,殺人および傷害において五〇%を越える割合を占めていることが最も目だっている。暴力犯罪の性質からみて,三〇才未満の体力おう盛なものが検挙人員の大半を占めるのは,当然ともいえようが,それにしても,右の数字が二〇才未満の者および二〇才以上三〇才未満の者の,刑法犯全体のうちに占める,それぞれの割合を大幅に上回っていることは,注目すべき現象といわなければならない。次に,I-28表と同じ罪名の暴力犯罪により,昭和三五年および昭和三六年に第一審裁判所の公判手続において有罪とされた被告人の前科(罰金の前科を含む)の状況をみるため,裁判統計によって,これら被告人の初犯者,前科者の区別をみると,I-29表のとおりである。 I-29表 主要暴力犯罪通常第一審有罪被告人初犯者,前科者別人員(昭和35,36年) この表によって明らかなとおり,前科者の占める率は,殺人において三八%ないし四二%,傷害致死において三五%ないし四一%,強かん同致死傷において三四%ないし三六%,強盗において四二%ないし四四%であり,恐かつはさらにその率が高く六〇%ないし六一%である。傷害,暴行,脅迫においてはさらにその率は高いが,この三罪種については法定刑に罰金の定めがあり,初犯者などの犯情の軽い者で公判手続によらず略式手続によって罰金に処せられているものが別にあるので,上記の五罪種と直ちに比較することはできない。しかし,いずれにせよ,このような主要な暴力犯罪によって有罪とされた者のうち,前科者が三〇数%から六〇%までを占めていることは,注意を要するものといわなければならない。最後に,全国都道府県別に,昭和三七年における主要な暴力犯罪の発生件数を,その人口と対比して考察してみよう。さきにI-24表に掲げた主要な暴力犯罪のほかに,昭和三七年の警察統計によって罪名別に区分のできる凶器準備集合,同結集および建造物損壊(含致死傷)を加え,同年における発生件数を都道府県別に集計し,人口一〇万人に対する発生件数の率を算出し,その率の高い順に分類してみると,I-30表のとおりである。最高は岡山の二六二であって,これに次ぐものは福岡の二五六,群馬の二五一,熊本の二五〇,東京の二三九であり,最も低いのは島根の一〇二であって,これに次ぐものは三重の一〇四,岐阜および静岡の一〇八,福井の一〇九である。 I-30表 都道府県別暴力犯生起率(昭和37年) 次に,全国各都道府県における主要暴力犯罪の発生件数の人口対比率を罪名別にみると,付録第1表のとおりである。まず,殺人についてみると和歌山が五・三で全国最高であって,これに山口の四・六,大阪の四・五,福岡の四・一が続いている。東京は一・六で全国平均の二・四に達していない。最も低率を示しているのは,長野の〇・五で,鹿児島(〇・八),栃木(〇・九),福島(〇・九)がこれに続いている。強盗は,大阪の五・四が最も高く,これに東京および兵庫の四・七,神奈川の四・三,福岡の三・八が続いている。 強かんは,栃木の一二・六が最高であって,これに次ぐものは,群馬の一一・三,茨城の九・五広島の九・三である。 傷害は,東京の九二・五が最も高く,これに長崎の九一・〇,大分の八五・四,熊本の八一・八,福岡の八一・六が続いている。傷害の全国平均は六六・八であるが,愛知が四九・八で全国平均より低いのが目だっている。 その他の犯罪についての個別的な説明は省略するが,全般的にみて,さきに序説で述べた暴力犯罪の四罪種のうち,B(財産犯的なもの)およびD(粗暴犯的なもの)については,大都市所在の都府県において犯罪発生率が高く,これに反しA(生命犯)およびC(性犯罪的なもの)については,右のような大都市集中の傾向がみられないといえよう。ただし,大都市所在の都府県のうち,京都および愛知については,犯罪発生率が一般にあまり高くないのが注目される。 |