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 昭和39年版 犯罪白書 第一編/第二章/一/6 

6 その他の刑法犯

 その他の刑法犯のうちで一般社会におよぼす影響の大きい犯罪としては,とく職と放火があり,数的に比較的多いものとしては,とばくがあるが,これらの犯罪の最近五年間の推移をみると,I-16表のとおりである。

I-16表 放火,とく職,とばく検挙人員推移(昭和34〜38年)

 放火は特に大きな動きはみられず横ばい状態にある。放火には,保険金詐取を目的とする利慾犯たる性質を有するもの,報復,感情上の衝突等に起因するもの,めいていその他精神障害者によって犯されるもの等種種の性質のものがある。放火のうち保険金詐取を目的とするものは,不況時に増加する傾向があるが,精神障害者の犯罪に放火が多いという傾向があることも見のがしてはならない。
 次に,とばくであるが,昭和三一年以降三四年まで,わずかずつ減少していたのに,昭和三五年以後は順次増加する傾向を示しているのが注目される。とばく罪は暴力団関係の犯情の重いものから,通常の勝負事に関連して行なわれる軽微な性質のものまで多種多様であるが,とばく罪の検挙人員中,暴力団関係者の占める割合を最近三年間についてみると,I-17表のとおりである。この表によると,実数も比率も共に増加傾向にある,なお,とばく罪は,きわめて暗数の多い罪である。

I-17表 とばく罪検挙人員中暴力団関係者の占める割合(昭和36〜38年)

 次に,とく職であるが,昭和三五年,三六年の二年間大幅に増加し,三七年は減少したが三八年には再び増加していることが目だつ。これもまた暗数の多い犯罪であるが,この増加の原因については,これを簡単に,取締り検挙の強化ということにのみ求めるべきではなく,さらに詳細な検討を加える必要があろう。
 その他の刑法犯として,近時クローズアップされたものに誘かい罪がある。これは,数的にはきわめて少ないが,昭和三八年三月に発生したいわゆる「吉展ちゃん事件」のように社会の耳目を衝動させる悪質なものが多い。最近五年間の略取,誘かい事件の発生,検挙状況をみると,I-18表のとおりであるが,発生,検挙件数も検挙人員も逐年増加しているのが注意をひく。なお,検挙率は他の犯罪に比し決して悪いとはいえないが,昭和三五年,三六年には一〇〇%であったものが,三七年,三八年の両年には低下して九六・九%および九七・三%「になっている。この二年間,この種事件が連鎖反応的に各地で発生し,しかも,いわゆる「吉展ち々ん事件」のように未解決のままでいるものがある関係から,統計上は,検挙率が低下したことになるわけである。

I-18表 略取,誘かい事件発生検挙状況(昭和34〜38年)

 また右の表で,昭和三七年を例外として,検挙件数が検挙人員数を上回っているが,これは,ひとりの犯人が数件の犯行を重ねたのちに検挙されるという事例が多いことを物語るものである。しかしまた一方では,数名の犯人によって共同して遂行される計画的な事例もある。
 誘かい事件のうち,最も悪質であり危険なものは,いわゆる身のしろ金目的の誘かいであるが,しかもその被害者には未成年者が多いということが特徴である。
(政府は,この種事犯に対する法定刑の引上げを主目的とする「刑法の一部を改正する法律案」を第四六回国会に提出したが,この法案は,第一に「近親その他被かい取者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的」,すなわち,いわゆる身のしろ金目的の略取または誘かいを一般の営利誘かい罪と区別して,無期または三年以上の懲役に処することとし,第二に人を略取または誘かいした者が,身のしろ金を交付させたり要求したときも,同様無期または三年以上の懲役として,一般の恐かつ罪よりも重く処罰することとしたほか,身のしろ金目的の略取,誘かい犯人を事後にほう助したもの,身のしろ金目的で被かい取者を収受した者などを他より重く処罰すること,身のしろ金目的の略取,誘かいの予備罪を処罰すること,公訴提起前に被かい取者を安全な場所に解放したときは,その刑を減軽することなどを定めている。なお,同法案は右国会で成立し,昭和三十九年法律第一二四号として公布された。)