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 平成16年版 犯罪白書 第5編/第3章/第2節/3 

3 外国人受刑者

 外国人受刑者が増加していることは既に記述した。外国人(日本国籍を有しない者)と一口に言っても,その中には,永住者・特別永住者等の資格を有し,日本に定着して居住している者もいれば,単に一時的に来日している者もいるので,現在の分類処遇制度では,受刑者を単に国籍によって区別することはせず,その実質に着目して,「日本人と異なる処遇を必要とする外国人」をF級に分類し,適切な処遇を行うこととしている。F級受刑者は,[1]日本語の理解力又は表現力が不十分であるか,又は[2]日本人と風俗習慣を著しく異にすることにより,処遇上特別の配慮を要する者が大半を占めている。
 以下では,外国人の中でも,F級受刑者に焦点を当て,その収容動向及び特質について概観した上,処遇上の問題点,諸施策等について記述する。

(1) F級受刑者の収容動向

 5-3-2-21図は,統計を入手し得た昭和51年以降におけるF級新受刑者数の推移を見たものである。
 昭和期におけるF級新受刑者は,多いときでもおおむね100人前後で推移しており,本節1(4)で述べたとおり,この時期には外国人受刑者といっても,その大半は,我が国に定着して居住している韓国・朝鮮人であって,現在におけるような外国人受刑者の問題は生じていなかった(5-3-2-4図参照)。
 その後,平成4年ころからF級新受刑者の増加傾向が表れ,9年以降は,毎年過去最多を更新し続けている。昭和51年におけるF級新受刑者が78人(男子78人)であったのに対し,平成15年は1,584人(男子1,424人,女子160人)であり,新受刑者3万1,355人の5.1%を占めている。

5-3-2-21図 F級新受刑者の推移

 また,5-3-2-22図は,平成元年以降におけるF級受刑者の年末在所人員の推移を見たものである。元年年末におけるF級受刑者が220人であったのに対し,15年年末においては3,010人(男子2,793人,女子217人)に上っており,年末在所受刑者6万851人の4.9%を占めている。

5-3-2-22図 年末在所F級受刑者の推移

(2) F級受刑者の特質

ア 国籍等

 5-3-2-23表は,詳細な統計が入手可能な最も過去の年である平成8年及び最近3年間につき,F級新受刑者の国籍等別人員を見たものである。アジア地域の国籍等の者が一貫して最も多く,最近3年間は,中国(台湾を含む。以下,本項において同じ。)の者が4割から5割近くを占めている。
 平成15年について多い順に見ると,[1]中国779人(49.2%),[2]ブラジル138人(8.7%),[3]イラン136人(8.6%),[4]ベトナム108人(6.8%),[5]韓国・朝鮮100人(6.3%)となっている。この中で最近の増加が著しいのはブラジルとベトナムであり,特にブラジルは,12年には中国,イラン,韓国・朝鮮に次いで4番目であったのに(法務省大臣官房司法法制部の資料による。),15年には中国に次いで2番目となっている。また,8年と比較すると,中国の増加が際立っているほか,韓国・朝鮮,ベトナム及びブラジルについても人数が大幅に増加している。

5-3-2-23表 F級新受刑者の国籍等別人員

イ 年齢

 5-3-2-24図は,平成8年以降における新受刑者の年齢分布を,F級とそれ以外の者に分けて見たものである。F級新受刑者は,30歳代以下の者が約8割を占め,60歳以上の者がほとんどいないなど,高齢化とは程遠いことが分かる。

5-3-2-24図 F級新受刑者の年齢層別構成比の推移

ウ 罪名

 5-3-2-25図は,最近20年間におけるF級新受刑者の主要罪名別人員の推移を見たものである。窃盗,強盗といった盗犯と,覚せい剤取締法違反,麻薬取締法違反といった薬物犯罪が多くを占めている。また,平成10年ころからは入管法違反による新受刑者が多くなっている。

5-3-2-25図 F級新受刑者の主要罪名別人員の推移

 5-3-2-26図は,平成15年におけるF級新受刑者及びそれ以外の新受刑者について,罪名別の構成比を示したものである。同図[1]から分かるとおり,F級新受刑者は,入管法違反の比率が高く,これを除外した場合の分布は同図[2]のとおりである。
 同図[2][3]によって,F級新受刑者とそれ以外の新受刑者の罪名を比較すると,F級受刑者は,盗犯の比率が高く,窃盗及び強盗でF級新受刑者の55.8%を占めている。これに対して殺人の比率は,F級とそれ以外の者とでは大きな違いはない。

5-3-2-26図 F級新受刑者等の罪名別構成比

 5-3-2-27図は,F級新受刑者の多い中国,ブラジル,イラン,ベトナム及び韓国・朝鮮について,罪名別人員の構成比を見たものである。中国,ブラジル,ベトナムは盗犯が多く,その中でもベトナムは窃盗がほとんどで強盗が極めて少ないのに対し,中国は盗犯の2割近く,ブラジルは半数近くが強盗となっている。また,イランは覚せい剤取締法違反と麻薬取締法違反の薬物犯罪が6割を超えており,韓国・朝鮮は入管法違反が多いというように,国籍等によって特徴が見られる。

5-3-2-27図 F級新受刑者(中国,ブラジル,イラン,ベトナム,韓国・朝鮮)の罪名別構成比

エ 刑期

 平成15年におけるF級新受刑者1,584人中,懲役は1,581人であり,禁錮は3人である。
 5-3-2-28図は,平成15年におけるF級新受刑者とそれ以外の新受刑者について,刑期別人員の構成比を対比したものであるが(懲役のみ),F級新受刑者の方が刑期が長い者の比率が高い。

5-3-2-28図 F級懲役新受刑者の刑期別構成比

(3) F級受刑者の分類と収容

 冒頭において述べたとおり,現行の分類処遇制度上,日本人と異なる処遇を必要とする外国人は収容分類級F級に分類され,その特性に応じた処遇が行われる。F級受刑者については,[1]職員との意思の疎通を図ること,[2]厳正な規律の維持に努めること,[3]日本人被収容者とのトラブル発生に注意すること,[4]日本国及び日本人に対する理解を深めさせることが,処遇重点事項として設定されている。
 F級受刑者を収容する施設としては,昭和53年以降,府中刑務所,横須賀刑務所(以上男子)及び栃木刑務所(女子)が指定されていたが,F級受刑者の急増に伴って,多数の刑務所がF級受刑者の収容施設として追加指定されている。すなわち,平成8年には大阪刑務所が,10年には8施設(札幌,黒羽,横浜,名古屋,神戸,和歌山,広島及び福岡の各刑務所)が,13年には7施設(福島,前橋,新潟,甲府,静岡,京都及び高松の各刑務所)が,15年には2施設(川越,奈良の各少年刑務所)が,さらに,16年には2施設(金沢及び長崎の各刑務所)がそれぞれ追加され,現在では,男子刑務所21施設と女子刑務所2施設(栃木及び和歌山)がF級受刑者を収容・処遇している(法務省矯正局の資料による。)。
 F級受刑者の犯罪傾向の進度による分類級を見ると,平成15年12月末日現在におけるF級受刑者3,010人中,2,776人(92.2%)がA級(犯罪傾向の進んでいない者),234人(7.8%)がB級(犯罪傾向の進んでいる者)と判定されている。なお,同日現在におけるF級以外の受刑者のAB分類を見ると,A級2万575人(37.8%),B級3万3,818人(62.2%)となっている。
 また,処遇分類級では,F級受刑者の大半がG級(生活指導を必要とする者)に分類されている。

(4) F級受刑者の処遇

 現行監獄法には外国人受刑者の処遇に関する特別な規定は置かれていない。しかし,言語,風俗習慣,文化,生活様式等が著しく異なる者を日本人同様に取り扱うことは,実際上不可能であるのみならず,妥当ともいえない。そこで,各行刑施設では,言語,所内での日常生活等の面で,F級受刑者の特性に配慮した様々な措置を講じている。

ア 言語

 F級受刑者の処遇上,最大の関門は言語の壁である。職員との意思疎通ができなければ,改善更生に向けた働き掛けを行うことはおろか,日常生活上も様々な不都合が生じることになる。
 5-3-2-29表は,平成16年5月31日時点において,府中刑務所及び大阪刑務所に収容されているF級受刑者997人(府中刑務所540人,大阪刑務所457人)について,その使用言語を見たものであるが,使用言語数は,府中刑務所で29言語,大阪刑務所で36言語に上っており,著しく多様化している。中国語を使用言語とする者の割合が高いが(府中刑務所では44.6%,大阪刑務所では51.4%),少数言語を使用する者も少なくない。

5-3-2-29表 F級受刑者の使用言語(府中刑務所・大阪刑務所)

 F級受刑者との言語の壁を克服する方策の一つとして,平成7年には府中刑務所に,9年には大阪刑務所にそれぞれ国際対策室が設置された。国際対策室には各種言語の専門職員が配置されており,それぞれの施設におけるF級受刑者の処遇に携わっているほか,全国の矯正施設に対する通訳・翻訳の共助,各国大使館との調整等の業務に当たっている。
 5-3-2-30表は,最近における国際対策室による共助の実施状況を見たものであるが,共助に限っても,翻訳業務を中心に業務量が膨大なものとなっている。また,翻訳の対象言語も同表注3に記載したとおり,40言語と多岐にわたっている。平成15年における翻訳業務について,実施件数の多い言語を見ると,[1]中国語(1万6,886件),[2]ペルシャ語(9,935件),[3]ポルトガル語(6,311件),[4]スペイン語(3,278件),[5]韓国・朝鮮語(1,539件)の順となっている(法務省矯正局の資料による。)。

5-3-2-30表 国際対策室(府中刑務所・大阪刑務所)における通訳,翻訳等の共助の実施状況

 他方,F級受刑者に対する日本語の教育も行われており,平成16年5月現在,22施設が同教育を実施している(法務省矯正局の資料による。)。各施設における教育の内容・方法は一様ではないが,最近では,単なる講義形式ではなく,ビデオ教材やCAI(コンピュータ支援教育)などを活用して学習効果を高めている例もある。そのほか,各施設では,F級受刑者のために外国語の図書・新聞を備え付け,また,各国語による所内生活説明用パンフレットの整備にも努めている。同年6月現在において,府中刑務所には,37か国語,2万8,000冊余りの外国図書が備え付けられている(法務省矯正局の資料による。)。

イ 居房及び日常生活

 F級受刑者は,日本人受刑者との間だけでなく,F級受刑者同士であっても,言語や風俗習慣に大きな違いがある場合があり,また,中には,深刻な民族・宗教対立を抱える地域の出身者も含まれている。そこで,これらの事情から生じるトラブルを防止するため,F級受刑者の居房及び工場の指定は,特に慎重に行われている。
 F級受刑者の居房は,かつては夜間独居が一般的であったが,最近では過剰収容の深刻化に伴い,F級受刑者をすべて夜間独居とすることは不可能になっている。平成16年5月31日現在,府中刑務所に収容されているF級受刑者540人の状況を見ると,「昼夜独居」56人,「夜間独居」341人,「独居房にF級受刑者2人を収容」76人,「F級以外の者と共に雑居房に収容」64人,「独居房にF級受刑者1人とF級以外の受刑者1人を収容」3人となっている(法務省矯正局の資料による。)。なお,通常の居房は畳敷きであるが,椅子,ベッド等を使用する生活習慣のF級受刑者の居房にはそれら備品を整備するよう配慮している。
 刑務作業を実施する工場を指定するに当たっては,F級受刑者だけを特定の工場に集中させることはせず,各自の適性,意欲等に応じて適切な工場を指定した上,F級以外の受刑者と共に就業させている。平成16年5月31日現在において,府中刑務所には27の工場があるところ(養護工場及び自営作業工場を除く。),そのうち26工場においてF級受刑者が就業しており,最も多い工場では,就業人員105人のうち38人をF級受刑者が占めている(法務省矯正局の資料による。)。本節2において見たとおり,F級受刑者は全体的に年齢層が若く,また,刑期が比較的長い者が多いことから,作業に習熟して重要な役割を与えられるようになる場合があるほか,洋図書の目録の作成など,外国人であることをいかした作業に従事する者もいる。

ウ 宗教及び食事

 受刑者には宗教に帰依する者が少なくないが,騒音その他施設の管理運営上の支障のない限り,礼拝等の宗教行為を行わせており,そのために必要な用具の所持・使用も許している。F級受刑者を多数収容している府中刑務所及び大阪刑務所で最も例が多いのは,イスラム教の礼拝用マットの使用であり,両刑務所併せて94人がこれを使用している(平成16年5月31日現在。法務省矯正局の資料による。)。
 食事については,食習慣のほか,宗教上の戒律に応じて,可能な範囲で配慮している。府中刑務所及び大阪刑務所において食事内容に配慮しているのは,F級受刑者合計997人中243人であり,その内容(重複計上)は「豚肉抜き」180人,「米飯に代えてパン食」176人,「ベジタリアン食」17人となっている(平成16年5月31日現在。法務省矯正局の資料による。)。また,イスラム教のラマダン月には,食事時間に関する配慮もなされている。

(5) F級受刑者の出所状況

 5-3-2-31図は,データを入手し得た平成8年以降について,F級受刑者及びそれ以外の受刑者の仮出獄率を見たものである。F級受刑者の仮出獄率は90%前後で推移しており,それ以外の受刑者よりも高くなっている。また,15年に仮出獄したF級の懲役受刑者1,030人及びF級以外の懲役受刑者1万4,243人について,刑の執行率を見ると,仮出獄したF級受刑者の平均執行率は70.6%,F級以外の受刑者は81.5%であり,前者の方が10.9ポイント低い(法務省大臣官房司法法制部の資料及び法務総合研究所の調査による。)。
 このようにF級受刑者は,それ以外の受刑者と比較して仮出獄率が高く,また,仮出獄も早めに認められる傾向があるが,その理由としては,F級受刑者の大半は仮出獄後,退去強制処分を受けることが考慮されていることなどが考えられる。この点につき,平成16年6月末日現在におけるF級受刑者3,480人を見ると,5-3-2-32表のとおり,退去強制時由の有無について入国管理官署から回答のあった3,040人のうち2,909人(95.7%)が,退去強制事由に該当していた。

5-3-2-31図 F級受刑者等の仮出獄率の推移

5-3-2-32表 退去強制時由該当F級受刑者数