2 保護観察 保護観察に付された少年には,家庭裁判所の決定により保護観察に付された者(保護観察処分少年)と,少年院に送致された後,地方更生保護委員会の決定により仮退院を許された者(少年院仮退院者)がある。いずれも,少年の改善更生を図るため,通常の社会生活を営ませながら,指導監督と補導援護を行っている。保護観察を行う機関は全国に50庁設置されている保護観察所であり,実際の指導監督や補導援護は,国家公務員である保護観察官と法務大臣から委嘱を受けた民間篤志家である保護司によって行われている。多くの場合,更生保護に関する専門的知識を持つ保護観察官と地域に精通した保護司が協力しながら個々の保護観察対象者に対する指導監督や補導援護を行う協働態勢によって保護観察を実施している。 強盗事犯により保護観察に付された少年に対し,これまでに指摘された問題点の解消のために,下記のような処遇が実施されている。
(1) 特別遵守事項の設定 遵守事項にはすべての対象者に共通の法定遵守事項のほか,個々の対象者に必要な事項が個別的具体的に定められる特別遵守事項がある。特別遵守事項は,保護観察処分少年については保護観察所長が,少年院仮退院者については地方更生保護委員会がこれを定める。再非行を起こさないことのほか,再犯誘発状況の除去や生活安定への努力を促す条項等が定められることが一般的である。強盗事犯少年の場合,具体的には,再犯禁止条項として「暴力を振るって金品を奪うような行為をしないこと」等,再犯誘発状況の除去に関連する条項として「暴走族との交際を断つこと」「交友関係に注意し,悪い誘いにのらないこと」等,生活安定への努力を促す条項として「定職に就いてまじめに働くこと」「生活の目標をしっかり立て,それに向かって努力すること」等が設定されており,こうした遵守事項は,保護観察官や保護司にとっては指導監督の目標として,保護観察に付されている者にとっては生活指針,行動規範として機能している。
(2) 分類処遇制度 分類処遇は,保護観察対象者を処遇の難易度に応じてA・Bの2段階に分類し,問題が多く処遇が困難と予測されたA分類対象者に対しては,保護観察官による直接的関与の度合いを強めた処遇を行う制度である。強盗事犯少年の中で,本人の抱える問題が大きく,処遇困難が予測される場合には,A分類とし,保護観察開始当初から,保護観察所への定期出頭を指示したり,家庭への往訪を頻繁に行うなどの積極的な処遇を行っている。
(3) 類型別処遇制度 類型別処遇は,保護観察対象者の持つ問題性や特性を類型化して把握し,その類型ごとに共通する問題性等に焦点を当てた効率的な処遇を実施する方法である。強盗事犯少年のうち,その問題性や特性に応じた類型的な処遇がふさわしいと判断された場合は,それぞれの類型区分に指定し,組織的・体系的な処遇を実施している。少年に関連する類型の種類には,中学在学,無職等少年,暴走族等の類型があり,例えば中学在学少年に対しては,在籍する中学校と緊密な連携をとって処遇することに努めている。
(4) 社会参加活動 社会参加活動は,保護観察対象者を福祉施設や公園での清掃活動等の奉仕活動を中心とする諸活動に参加させるものである。第4章(特別調査)において,強盗事犯少年は社会の一員としての所属感がある者が少なく,また,問題点として,「大切な人以外の他人への思いやりや想像力に欠ける」者が多いことが指摘されたが,こうした奉仕活動への参加を促すことによって,社会に役立つことをしたという体験や達成感が得られたり,他者に対する共感性や思いやりを身に付ける契機になることが期待できる。 自己イメージの向上のためにボランティア活動に参加させた事例 保護観察受理時16歳。加入していた暴走族の仲間から誘われ,言うことをきかなければ自分がやられると思い,夜間,バイクに乗っている少年を呼び出して金品を強奪し,少年院送致になった後,仮退院となったもの。本人自身も暴行の被害を受けた経験があり,自信が欠如していたので,保護観察の処遇においては,調理という本人の興味関心に沿った就労指導をして実現可能な目標設定と成功体験を積ませることや,福祉施設でボランティア活動をすることで,自信を持たせて良い自己イメージを獲得させることを目標に指導した。
(5) 交友関係の指導 非行の原因や背景には,不良交友の存在が指摘される場合が多い。前記特別調査においても,約9割の者が共犯者とともに強盗事犯を敢行しており,また,問題点として,「集団だと気分が高揚する」「周囲の思惑に合わせてしまう」者が多いことが指摘された。非行に結びつく交友関係は,暴走族,出身中学や在学校を母体とする集団,「チーム」や「カラーギャング」等徒党を組む集団,互いの顔と名前程度しか知らず繁華街等でたむろする凝集性の低い集団などさまざまであるので,保護観察の処遇場面においては,これらの特性に応じて指導を行っている。積極的な往訪により生活実態の把握に努めることはもとより,警察等の関係機関からの情報収集や担当保護司相互の情報交換を行うなど,その実態把握に努めている。不良仲間からの誘いを断るための具体的な方法について,保護者も含めて日頃から話合いを持ったり,バイク等の車両の処分や携帯電話のアドレス変更などを指導して効果を上げることもある。不良交友の断絶のために家族が転居する方法を選択する場合もあるが,自分の居場所を失って別の不良交友を求めたり,元の不良仲間のもとに舞い戻ったりすることもあり得るので,このような場合,新たな健全な交友関係の構築や余暇の活用,具体的で達成可能な目標の設定とそれに向けた努力などについての助言指導を行っている。なお,ケースによっては,若者の立場で少年と接することによりその非行防止を援助するボランティア組織であるBBS会に依頼して,「ともだち活動」を実施し,健全な交友関係を体験させることも行っている。 交友関係の健全化のためにBBSを活用した事例 保護観察受理時16歳。繁華街で集団で遊ぶ仲間と一緒に,遊興費欲しさに,深夜,成人男性から金品を奪ういわゆる「オヤジ狩り」を行ったもの。本件当時,本人は高校には在学していたものの登校しないことが多く,夜間の繁華街での遊び中心の生活であったので,保護観察所ではBBS会でのグループワークへの参加を促し,交友関係の改善を図った。 余暇の健全な活用のために地域での祭りに参加させた事例 保護観察受理時16歳。学校仲間から,「オヤジ狩り」をやれば簡単に金品が奪えると誘われたが,ターゲットになる中年男性が見当たらなかったため,通りすがりの女性から金を強奪したもの。本件時は,学校で親しくしている仲間と繁華街で遊び中心の生活を送り,遊興費欲しさに加担した。保護観察開始後は,地元の祭りに参加して神輿をかつぐなど,交友関係の改善と健全な余暇の過ごし方が促され,地域社会へなじもうとする態度が見られた。
(6) 就学就労指導 前記特別調査では,学校ないし職場に所属し,かつ適応している者が少数であったことが指摘された。保護観察の場面においては,不就労や怠勤,怠学などの実態について調査し,学校や職場への不適応の背景や原因について把握することに努めている。このような背景や原因は様々であり,例えば,仕事の内容や待遇への不満,職場の人間関係への不適応,昼夜逆転した遊び中心の生活態度,不規則な生活習慣,不良交友,遊興志向や享楽的価値観などがある。こうした問題点を踏まえた上で,対象者の興味や関心に沿って,将来の夢や生活設計と,その実現に向けた具体的で身近な目標について話し合い,就労や就学の動機付けを図っている。 家庭外の協力者を求めた事例 保護観察受理時16歳。地元の遊び仲間から,夜間,暴走族の真似をしてバイクを運転している少年から金品を奪う際の見張りを命じられたもの。中学卒業後,就労経験なく,ずるずると気ままな生活を送るうち,仕事も金もない本人と同じような立場の地元の不良仲間との付き合いが広がり,共犯者と行動をともにしないと仕返しされるとの思いから,本件に加担した。トラック運転手である父との父子家庭であり,本人の監督に目が行き届かないことから,保護観察所では,近隣に住む叔父夫婦を協力者と位置付け,本人の監督を行ううち,父自身も自らの仕事であるトラックの運転に,本人を助手として乗せるなど,本人に対する監督に意欲を見せるに至った。
(7) 家族調整 前記特別調査では,実父母が健在の家庭が多いが,保護者の指導力や交流不足が指摘された。家族が本人の行動や交友関係を全く把握していなかったり,本人をかばってその問題行動を隠したり,逆に本人に対する指導を保護観察官や保護司に全面的に委ねようとするなど,さまざまな問題がある。非行行動を始め本人の問題は家族全体の問題であることを理解させ,対象者の第一義的監督者として位置付けるのは大切なことであるが,現実の処遇場面においては,本人の非行や問題行動により家族が困り果て,疲れ切っていることも少なくない。このような場合,家族の悩みや気持ちを受け止めて,精神的な支援を行い,家族の監督意欲を支えることを行っている。 父母への働き掛けで家族機能の向上を図った事例 保護観察受理時17歳。加入していた暴走族の共犯者と一緒に,夜間,暴走族の真似をしてバイクを運転している少年に暴力を振るったり金品を奪ういわゆる「もぐり狩り」を行ったもの。本件当時は無職の状態で,暴走族との交友が生活の中心であった。保護観察開始後は,父母に対し,食事を一緒にとるなどして本人と一緒に過ごす時間を増やしたり,就労した本人に弁当を用意するなどして支える努力をするよう指導助言を続け,暴走族からの離脱,就労継続を図った。
(8) 被害者関係指導 保護観察の段階においては,捜査・裁判段階までに行われた被害弁償等の状況把握を行い,誠実に履行するよう指導している。少年の場合,実際に被害弁償に取り組むのは保護者であることが多いが,すでに保護者によって弁償済みの場合,働いた金で定期的に保護者に返済することを指導するなどして,被害弁償を自分自身の問題としてとらえさせる指導も行われている。 被害弁償の責任の自覚を促した事例 保護観察受理時17歳。地元の遊び仲間から誘われるままに,夜間,被害少年がバイクを運転していたことに難癖をつけ,金品を奪って怪我を負わせたもの。本件当初,本人は「共犯者に誘われただけ」と加害者意識が稀薄であったので,保護観察所ではバイクの処分と携帯電話のアドレス変更により遊び仲間との距離をおくよう指導したほか,両親が行った被害弁償に対して本人自身のアルバイト代から月々返済をするよう指導し,交友関係の改善と被害弁償の責任の自覚を促した。
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