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 平成15年版 犯罪白書 第5編/第4章/第2節/3 

3 環境とのかかわり等に関する分析

(1) 家族関係及び保護者の指導力

 強盗事犯少年の家庭の多くは父母がそろっていることを第3章第2節で触れたが,本調査においても,実父母がそろっている割合は58.6%であり,実母のみが21.5%,実父のみが8.1%,義父実母が7.2%,実父義母が1.9%と続いていた。

5―4―2―9図 家族関係と保護者の指導力

 ところで,鑑別で明らかにされた強盗事犯少年の家族関係については,5―4―2―9図[1]が示すように,「問題なし」は4割弱にとどまり,6割は何らかの問題を抱えており,問題の中では「家族と情緒的交流なし」が最も高い割合となっている。「家族と不和」の者は15%程度にとどまるものの,「家族と情緒的交流なし」と「家族から疎外」を併せると3割を超え,前者の2倍となっている。いさかいを起こすなどあからさまな形で家族成員同士が直接的に対立している場合はさほど多くないものの,家族成員として十分に組み込まれていると実感できない者が少なからず存在しており,表面的には問題がなく映る家族であっても,実際の家族関係が希薄である場合が少なくないことがうかがえる。
 保護者の指導力については,5―4―2―9図[2]が示すとおり,「問題なし」が四分の一弱にとどまっているのに対し,「放任」の多さが目立つ。実父母がそろっている家庭における保護者の指導力についても,「問題なし」は3割にとどまり,「放任」が3割を占めるなど,指導力の欠如は明らかである。
 つづいて,5―4―2―9図[3]は家族関係別に保護者の指導力を示したものである。家族関係について「問題なし」ではあるものの,その内実とは,保護者が「放任」していたり,子どもの「言いなり」になるなど指導力を発揮できていない場合が少なくないことがうかがえる。また,家族関係が「家族と情緒的交流なし」の場合は,保護者が放任している割合が著しく高い。このほか,「家族と不和」である場合は,他に比べて保護者の指導力が「一方的」である割合がやや高いこと,また,「家族と不和」あるいは「家族から疎外」である場合は,他に比べて保護者の指導力が「一貫性なし」である割合がやや高いことなどの特徴がうかがえる。
 家族間にあからさまに対立関係が生じている家庭はさほど多くはないものの,実父母がそろっており,保護者の指導力に問題がなく,家族との関係も問題がない者は,16.3%にとどまっていた。強盗事犯少年の多くの家庭では,家族機能が十分に働いていない実情がうかがえる。

(2) 社会適応状況等

 強盗事犯少年の学職状況の動向については,第3章第2節で触れており,本調査においても,5―4―2―10図が示すとおり,有職者が四分の一を占め,無職者と学生が残りの半分ずつを占めるといった分布となっているが,さらに,有職者や学生の実態を詳しく見ると,学生の場合は6割強,有職者の場合も4割が,適応した学校生活や就労生活を送っていないことが分かる。さらに,中学生と中学生以外の学生を比べてみると,中学生では,登校適応者が15.0%にとどまり,登校不適応者が31.3%,不登校者が53.8%となっているのに対し,中学生以外の学生では,登校適応者が43.0%,登校不適応者が32.1%,不登校者が24.9%である。概して,中学生の適応状態がより一層悪いという実態がうかがえる。中学は義務教育であるので,適応のいかんにかかわらず籍を置くことになるのに対し,義務教育修了後は,学校に適応できない者は進学しなかったり,いったんは進学しても退学に至ったりしている結果と解釈できよう。

5―4―2―10図 学職及びその適応状態

 先に見た家庭の状況と職場や学校との関係を重ね併せてみると,実父母がそろっており,保護者の指導力に問題がなく,家族との関係も問題がなく,かつ,職場ないし学校に所属し,そこで適応できている者は,7.3%にとどまっている。強盗事犯少年の中には学校や職場に所属していても実際には適応できていない者が少なくなく,非行防止に当たって,無職者対策に加え,学校や職場での適応をいかに促していくかの対策を考えていく必要もあろう。
 5―4―2―11図は,鑑別で明らかにされた学校や職場に適応できない原因について示したものである。学校不適応者とは学校に行きながら学校に適応できない者を指すので当然の結果とも言えるが,「学業不振」「対学友関係」「対教師関係」といった学校内での要因を挙げる割合が不登校者に比べて高くなっている。特に,中学生において,「学業不振」は6割を超えており,「対学友関係」も5割を超えている。一方,不登校者や怠勤者においては,「生活習慣の乱れ」「不良交友への傾斜」という原因が目立つ。学業や学友に興味を持てない登校不適応者が,次第に不良交友へ傾斜し生活習慣も乱れるようになり不登校者に移行していくこと,さらには,学校といった枠組みを外れ,就労の機会を得ることもなく無職者となっていくこと,あるいは就労の機会を得ても,それまでの生活習慣の乱れを立て直すことができず怠勤しては再度無職者になっていくのではないかと推測される。

5―4―2―11図 学校・職場に適応できない原因

(3) 非行歴等

 本件非行時に試験観察中,保護観察中,施設収容中であった者は23.0%,本件非行前に保護観察処分歴を有した者は26.1%,少年院歴を有した者は6.7%であり,強盗という凶悪事犯の少年といえども処分歴を有する者はさほど多くなかった。ただし,未発覚であるものの当該少年が鑑別時に自己申告したものを含めると,本件を初犯とする者は10.1%にとどまっていた。

(4) 社会への態度

 5―4―2―12図は,鑑別で明らかにされた強盗事犯少年の世間への態度の分布を示している。「社会の一員としての所属感をもっている」者は四分の一程度にとどまっている。社会に自らが組み込まれていると実感できる者が多くないことがうかがえる。また,社会の一員としての所属感を持てない者について見ると,世間に対して「対抗的・反抗的である」者と「懐疑的である」者が併せて2割程度,一方,世間について「無関心である」者は3割を超え,「疎外感を抱いている」者も2割弱存在している。既存の社会に対する反発や疑念から所属感を持とうとしない者は従前から存在していたが,そのような思いを有するわけでもなく,ただ自らを取り巻く社会に対して無関心である者が多く,これに,社会から疎外されてしまっていると感じている者を併せると5割を超えており,現実の社会から浮遊したところで日々の生活を送っていると感じている少年の実態が浮かび上がる。先に紹介した学職適応状態別に見ると,社会の一員としての所属感を持つ者の割合は,登校適応者に最も高いが,それでも6割にとどまっており,それに続く出勤適応者でも5割にとどまっている。怠勤者や無職者では1割前後となっている。

5―4―2―12図 世間への態度の分布

5―4―2―13図 将来への態度の分布

 また,5―4―2―13図は,同じく鑑別で明らかにされた強盗事犯少年の将来への態度の分布を示している。将来に対して「具体的な目標があり,努力している」者は1割弱にとどまること,一方,「将来のことはあまり考えていない」者が4割近くいること,さらに,「将来に目標や希望がもてない」者も少なからずいることがうかがえる。将来を念頭に置いて,現在の延長線上に将来があるとの認識を持つことができずにいる少年が多いことがうかがえる。先に紹介した学職適応状態別に見ると,具体的な目標があり努力している者の割合が最も高いのは登校適応者であるが,それでも四分の一程度にとどまり,それに続く出勤適応者では2割にとどまっている。一方,不登校者,怠勤者,無職者については,将来のことを余り考えていない者が半数近くとなっている。