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 平成15年版 犯罪白書 第5編/第3章/第6節/2 

2 被害者の男女別・年齢層別変動

(1) 被害者層別の推移

ア 女性被害者の推移

 5―3―6―65―3―6―7図は,昭和48年以降の殺人・強盗の女性被害者の数と全体に占める女性比率の推移を示したものである。殺人について見ると,被害者数は,昭和50年代から平成2年まで減少傾向にあり,その後横ばいないし微増傾向にあるものの,女性比率は30数%でほぼ横ばいで変化がない。これに対して,強盗については,被害者数は,平成元年まで横ばいないしやや減少傾向にあったが,その後増加傾向となり,8年以降は特に増加が著しく,14年は7年の3.4倍に達している。一方,女性比率は昭和48年から平成10年まで減少を続けていたものの,それ以降は増加傾向に転じ,わずか4年間で6.2ポイント上昇している。
 男女別人口の動向を見ると,女性の人口は,漸増傾向にあるものの,昭和48年から平成14年の間に17.5%,7年以降に限定すると1.9%増加したに過ぎず,近年の強盗による女性被害者の著しい増加傾向は,女性の人口増加による女性被害の機会増大が原因でなく,強盗全体が急激に増加したのに合わせて女性被害者も増加したことを意味しているが,最近4年間で女性比率が6.2ポイントも上昇しているところを見ると,女性が被害者としてねらわれている可能性があり,今後の動向に注意を要するところである。

5―3―6―6図 殺人 女性被害者数及び比率の推移

5―3―6―7図 強盗 女性被害者数及び比率の推移

イ 未成年被害者の推移

 5―3―6―85―3―6―9図は,昭和48年以降の殺人・強盗の未成年被害者の数と全体に占める未成年者比率の推移を示したものである。殺人について見ると,被害者数は,昭和51年をピークにその後減少傾向にあり,平成14年はピーク時の3割弱にすぎず,比率も昭和51年の26.6%をピークに減少を続けて,平成14年は11.2%にまで低下している。これに対して,強盗では,被害者数は,昭和54年以降漸増し,平成8年以降は急激に増加して,14年には7年の2.9倍になっているが,比率で見ると,昭和54年以降やや増加傾向にあったものの,平成元年以降は横ばいないし低下傾向にある。
 5―3―6―10図は,未成年者及び高齢者の人口の推移を見たものであり,未成年者人口は,昭和55年をピークとして,急速に減少し,平成14年にはピーク時の30%減,7年時に比べると,12.3%減となっている。殺人の未成年被害者の減少は,既に第2章第2節2で述べたとおり,嬰児殺の減少のほか,未成年者人口の減少などによるものと思われるが,強盗の未成年被害者の増加,特に平成8年以降の増加は,人口動向と異なる傾向がうかがえる。しかし,被害者に占める未成年者比率はやや頭打ちの傾向にあることを見ると,強盗全体の件数の増加を背景に未成年者の被害者数も多くなったことを意味しているにとどまるようにも思われる。

5―3―6―8図 殺人 未成年被害者数及び比率の推移

5―3―6―9図 強盗 未成年被害者数及び比率の推移

5―3―6―10図 未成年者と高齢者の人口の推移

ウ 未成年女性被害者の推移

 5―3―6―115―3―6―12図は,昭和48年以降の殺人・強盗の未成年女性被害者の数と全体に占める未成年女性比率の推移を示したものである。殺人について見ると,被害者数は,昭和51年をピークにその後減少傾向にあり,平成14年はピーク時の4分の1程度にすぎず,比率も昭和49年と51年の13.0%をピークに低下傾向にあり,平成14年は5.1%に低下している。強盗については,被害者数は,8年までは増減を繰り返しながらも横ばいであったが,9年以降は急激に増加し,14年には8年の3.6倍となった。比率を見ると,横ばい傾向にあり,3年以降はやや低下傾向にある。未成年者女性人口は減少傾向にあり(5―3―6―10図参照),14年には8年の10.3%減となっているので,最近数年間の被害者の急増は,強盗全体の事件数が多くなったことに伴って未成年女性の被害者も急増したことを意味しているが,被害者全体に対する未成年女性の比率は横ばいであるので,未成年女性のみがことさら被害者としてねらわれるようになっているとまでは言い難いと思われる。

5―3―6―11図 殺人 未成年女性被害者数及び比率の推移

5―3―6―12図 強盗 未成年女性被害者数及び比率の推移

エ 高齢被害者の推移

 5―3―6―135―3―6―14図は,昭和48年以降の殺人・強盗の高齢(60歳以上)被害者の数と全体に占める比率の推移を示したものである。殺人について見ると,被害者数は,増加傾向が続いており,特に平成5年以降,増加傾向がやや強まり,14年には昭和48年の3.2倍となり,比率でも上昇傾向が続いており,平成14年は昭和48年の17.1ポイント増となっている。強盗について見ると,被害者数は,昭和48年から平成3年ころまで横ばいであったのが,その後激増して14年には3年の5.5倍となり,比率で見ると,ほぼ横ばいで8.8〜13.3%の間を上下している。前記5―3―6―10図によると,高齢者人口は増加傾向にあり,平成14年には昭和48年の2.6倍,平成3年の1.4倍と急増している。殺人については高齢者人口の増加に連動して高齢被害者数が増加し,また被害者全体に占める高齢被害者の割合も上昇しているなど,高齢者が被害に遭いやすくなっている状況がうかがわれる。強盗の被害者の急増は,強盗全体の急増と歩調を合わせたものであるが,比率もやや上昇する兆しが出ており,現段階では高齢者が被害者としてねらわれているとまでは言えないものの,今後の動向に注意する必要がある。

5―3―6―13図 殺人 高齢被害者数及び比率の推移

5―3―6―14図 強盗 高齢被害者数及び比率の推移

オ 高齢女性被害者の推移

 5―3―6―155―3―6―16図は,昭和48年以降の殺人・強盗の高齢女性被害者の数と全体に占める比率の推移を示したものである。殺人について見ると,被害者数は,増加傾向が続いており,平成14年には昭和48年の3.1倍となり,比率でもやや上昇傾向が現れており,平成14年は昭和48年の8.1ポイント増となっている。強盗について見ると,被害者数は,昭和48年から平成2年ころまで横ばいないし減少傾向であったのが,その後激増して14年には2年の6.4倍となり,比率で見ると,ほぼ横ばいで3.3〜7.2%の間を上下している。高齢女性の人口は増加傾向にあり(5―3―6―10図参照),平成14年には昭和48年の2.6倍,平成2年の1.4倍と急増しており,殺人は高齢女性の人口増に連動して高齢女性被害者数が増加しているが,強盗は近年これをはるかに上回る増加傾向を示している。強盗の被害者全体に占める高齢女性の割合は横ばいであるので,高齢女性が被害者として特にねらわれるようになっているとまでは言い難いものの,今後の動向に注意する必要がある。

5―3―6―15図 殺人 高齢女性被害者数及び比率の推移

5―3―6―16図 強盗 高齢女性被害者数及び比率の推移

(2) 被害者年齢層の20年間における変動

 女性被害者・未成年被害者・高齢被害者等の推移については,既に見てきたとおりであるが,さらに,男性及び20歳代から50歳代までの年齢層も加え,男女別・年齢層別で,過去20年間にどの年齢層がどれだけ増減したのかについて比較(昭和53年〜57年の被害者数平均と平成10年〜14年の被害者数平均とを対比)したものが,5―3―6―17図5―3―6―185―3―6―195―3―6―20図である。
 殺人被害者について見ると,男性・女性とも,50歳代以上,特に60歳以上の増加率が高く,20年間で約2倍となっている。40歳代以下はいずれも実数で減少,比率で低下が著しい。女性の場合は,60歳以上の増加率が,2.1倍と他の年齢層に比して高いのが目立つ。殺人に関しては,20年前に比べると,男女とも高年齢者層が被害者になることが多くなっている。
 強盗被害者については,男女で大きく異なる傾向を示している。まず,男性について見ると,全ての層で増加しており,特に20歳代が突出し,20年前と比較すると,実数は年平均で774.6人も増加し,増加率で4.3倍に急上昇し,次いで20歳未満が増加率で3.7倍と上昇しているのが目立つ。それに対して,女性は,実数では,20歳代,60歳以上,50歳代の順で増加数が多く,増加率では,60歳以上が3.0倍,50歳代が2.5倍と高く,20歳未満が2.0倍とそれに次いでおり,50歳代以上と未成年者に高いのが目立つ。すなわち,強盗の被害者に関しては,20年前に比べると,男性では若年者が,女性では高年齢者と未成年者が,他の年齢層に比してより増加している。

5―3―6―17図 殺人 男性被害者の年齢層別増減

5―3―6―18図 殺人 女性被害者の年齢層別増減

5―3―6―19図 強盗 男性被害者の年齢層別増減

5―3―6―20図 強盗 女性被害者の年齢層別増減