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 平成15年版 犯罪白書 第5編/第3章/第2節/3 

3 少年強盗犯の動機の特徴―成人犯罪者との相違―

 殺人における少年の検挙人員は極めて少なく,動機という犯罪者の内面の動きに焦点を当てて分析するには母数が少なすぎて主観的評価が入りやすく,結局は客観的な統計上の評価が困難となることから,ここでは,検挙人員の多い少年強盗犯のみに絞って動機における特徴を見ることとした。
 強盗は,金品を得る目的あるいは債務を免れる目的で犯行を犯す犯罪類型であって動機は一義的であるものと思われがちであるが,実際には生活困窮や借金苦等深刻なものから単に遊興費獲得を目的とするものや,ただ目的物が欲しかったからといった安直なもの,さらには強盗を職業としていたもののような特殊なものまで,動機・原因は様々であり,また少年と成人とでは社会内での立場や精神的成熟度の違いから,相当な違いがあり,強盗の増加の要因を探るためにはこういった動機・原因を見る必要がある。
 5―3―2―65―3―2―7図は,昭和54年以降の成人及び少年の強盗の動機・原因別に見た検挙人員の推移,5―3―2―85―3―2―9図は,昭和58年,平成5年,14年における成人及び少年の強盗の動機・原因別検挙人員構成比を見たものである。
 成人について見ると,生活困窮(生活費欲しさ),遊興費充当/小遣い銭欲しさ(「遊興費欲しさ」に昭和63年までの「小遣い銭欲しさ」を加えたものをいう。以下本項では同じ。)が多く,次いで債務返済や対象物自体の所有・消費目的(対象物自体が欲しい),憤怒等と続いている。遊興費充当/小遣い銭欲しさによる犯行は,昭和56年をピークとしてその後急激に減少して平成2年ころからは増加に転じ,9年以降は増加傾向が強まっているが,生活困窮(生活費欲しさ)の犯行は,好景気の昭和50,60年代は比較的少なく横ばいであり,平成2年ころから増加傾向に転じ,10年ころから急増して14年には9年の2.1倍になり,遊興費充当/小遣い銭欲しさの犯行とほぼ肩を並べる水準に達している。また,もっぱら債務返済のためにした犯行は,7年までは少なく横ばいであったのに,その後急増して14年には,7年の10.2倍になっている。昭和58年と平成5年と14年とを比べた構成比を見ると,生活困窮によるものが,16.3%,23.0%,23.7%と次第に増え,遊興費充当/小遣い銭欲しさが,44.3%,30.5%,23.6%と割合において減少し,債務返済を理由とするものが,2.2%,2.6%,8.8%と近年増加していることがうかがえる。
 少年の場合は,生活費を稼いで家族を養わなければならない世帯主ではない場合が多いせいもあって,生活困窮(生活費欲しさ)の犯行や債務返済を理由とする犯行は極めて少なく,遊興費充当/小遣い銭欲しさの犯行が大半を占めており,数は少ないが,対象物自体の所有・消費目的,憤怒,遊び・好奇心・スリルがこれに続いている。遊興費充当/小遣い銭欲しさ目的に着目すると,昭和50年代から平成5年ころまでは,横ばいないし減少傾向であったが,その後増加傾向となり,14年は5年の2.1倍となっている。昭和58年と平成5年と14年とを比べた構成比を見ると,遊興費充当/小遣い銭欲しさを理由とするものが,54.9%,49.1%,45.8%と約半数を占めており,近年急増しつつある少年の強盗の約半数は従前と同様にやはり遊興費充当/小遣い銭欲しさの犯行であることが分かる。
 少年は成人に比して精神的に成熟しておらず規範意識がやや希薄であるために,遊興費充当/小遣い銭欲しさ等の安易な動機に基づいて,強盗という重大な犯罪を行っていく傾向がうかがわれる。

5―3―2―6図 成人強盗事犯の動機・原因別検挙人員の推移

5―3―2―7図 少年強盗事犯の動機・原因別検挙人員の推移

5―3―2―8図 成人強盗事犯の動機・原因別構成比

5―3―2―9図 少年強盗事犯の動機・原因別構成比