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 平成14年版 犯罪白書 第5編/第2章/第2節/2 

2 被害者面識率

 5-2-2-3図は,罪種ごとの検挙人員における加害者と被害者とが面識を有する者(面識者)の内訳とその比率(面識率)を見たものである。

5-2-2-3図 罪種別検挙人員における,加害者と被害者が面識を有する者の内訳及びその比率

 なお,本項では,「親族」とは,加害者と被害者とが,親子兄弟姉妹,配偶者又はその他の親族であって同居の有無を問わないものをいい,親子には血縁関係以外の継父母・養父母や継子・養子を含み,配偶者には事実上の夫婦生活を営む内縁関係も含むものである。

(1) 面識率

 殺人の面識率は,85%ないし90%の高率で推移しており,各年による大きな変化が認められない。殺人は,怨恨などの個々の被害者に対する個人的な動機が比較的はっきりしている犯罪であり,いわゆる無差別殺人や行きずり殺人は例外的犯行であることを示している。
 面識率が高い罪種に注目すると,脅迫,傷害,恐喝,暴行などである。逆に,面識率が低い罪種は,強制わいせつ,強盗,住居侵入である。
 暴力的9罪種の多くは,平成8年ころをターニング・ポイントに認知件数が増加を示しているが,8年以降の面識率に共通することは,強盗を除き,これまでの低下傾向から一斉に上昇傾向を示したことである。特に,傷害,脅迫,恐喝及び強姦の上昇が顕著である。最近においては,身近な面識者を対象に,暴力的色彩の強い犯罪を敢行する傾向がうかがわれる。

(2) 親族率

 5-2-2-4図は,面識者の中で被害者と加害者とが親族である者の比率(親族率)を見たものである。

5-2-2-4図 被害者と被疑者の関係における親族率

 親族率が最も高い罪種は,殺人であり,起伏を繰り返してはいるものの,各年とも概ね40%台後半で推移している。
 10%を超えたことがある群の中では,殺人に次いで親族率が高い罪種は,傷害,器物損壊であるが,総じて,平成10年ころから上昇しているのが注目される。
 また,10%を超えたことがない群の罪種は,各年とも大きな起伏を繰り返しているが,いずれも平成9年前後ころから,一斉に上昇傾向に転じている。この中で,脅迫は,法定刑から見ても比較的軽微な犯罪であり,このような親族内の脅迫事件が認知・検挙されるようになったことは,これまで暗数化していたものが顕在化された可能性を否定できない。

(3) 全体的動向

 これらの動向を総合すると,加害者が面識者や親族を対象に犯行に及ぶ事犯が,ここ数年の認知件数の増加に連動して,急激に増加していると考えられる。すなわち,認知件数の加速度的増加は面識率と親族率の上昇を伴っており,この要因としては,身近な被害者をねらった暴力的9罪種が増加していること,面識を有することあるいは親族であることが犯罪抑止力として作用する機能が低下してきていること,面識者間あるいは親族間の事件として暗数化していたものが顕在化したことなどが考えれる。