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 平成14年版 犯罪白書 第5編/第2章/第2節/1 

1 被害における死傷の有無とその程度

 5-2-2-1図及び5-2-2-2図は,殺人,強盗,傷害,恐喝,強姦及び強制わいせつの6罪種(以下,本節では「死傷6罪種」という。なお,恐喝を含めたのは,警察庁の統計に,恐喝による負傷者が計上されていることによる。)について,被害状況を見たものである。

5-2-2-1図 認知件数当たりの死傷被害者数の推移

5-2-2-2図 死傷別被害者数及びその比率

(1) 認知件数当たりの死傷被害者数

 5-2-2-1図は,死傷6罪種の認知件数1件当たりの死傷被害者数の推移を見たものである。平成7年の殺人を除き,いずれの犯罪も,死傷被害者数の推移に大きな変動はない。殺人,傷害等と異なり,死傷を本来の目的としない強盗及び強姦についても,1件当たりの死傷被害者数が多く,0.5人から0.3人の割合で死傷者が出ており,犯行自体に死傷者を伴いやすい凶行性を帯びていることを指摘できる。

(2) 各罪種ごとの軽傷率,死亡・重傷率等

 5-2-2-2図は,各罪種ごとに軽傷者数,重傷者数及び死亡者数に加え,認知件数当たりの死亡・重傷率や軽傷率等を見たものである(傷害は,被害者が100%負傷する犯罪であるので軽傷率をグラフ化していない。また,恐喝は,被害者が死亡すれば傷害(致死)に計上されるので,恐喝の被害者は軽傷者と重傷者のみとなる。)。殺人を除き,いずれの罪種においても,近年の認知件数の増加と連動して死傷被害者数が増加する傾向にある。
 殺人は,死亡率・重傷率ともに,起伏を繰り返しながらも,おおむね一定の幅で推移しており,近年わずかに低下している(なお,平成7年の重傷者数と軽傷者数が突出しているが,これは,いわゆる地下鉄サリン事件で負傷した多数の被害者が計上されたことによる。)。
 強盗は,平成13年では,認知件数が6,393件(対前年比23.6%増)であるところ,死傷被害者総数は3,218人(前年より575人の増加)であり,そのうち死亡者数は80人(対前年比29.0%増),重傷者数は301人(対前年比9.1%増),軽傷者数は2,837人(対前年比23.1%増)であり,死傷被害者数が急増している。昭和49年以降,死亡・重傷率は4.5%ないし7.0%で,軽傷率は35.8%ないし49.0%で推移している。
 他方,恐喝を見ると,負傷被害者数の増加に伴い,軽傷率も重傷率もほぼ一貫して上昇傾向にあり,恐喝においても,平成8年以降は,負傷を伴う犯行が増加していることが分かる。
 傷害は,死亡・重傷率がほぼ一貫して上昇していたところ,平成12年に低下した。これは,傷害事件における軽傷事案の増加が死亡・重傷事案の増加を上回ったことによる。
 強姦と強制わいせつを見ると,軽傷率は起伏を繰り返しながらも長期的には緩やかな低下傾向にあり,死亡率もほぼ一定である。
 これらをみると,殺人,強盗,強姦及び強制わいせつでは,軽傷率や死亡重傷率が,認知件数や死傷被害者数の増減と連動しておらず,おおむね四半世紀にわたって大きな変動がない。ここ数年間に認知件数が急増した強盗,強姦及び強制わいせつにおいては,単に軽傷事案の認知件数が急増したものではなく,軽傷事案も死亡・重傷事案も同様の比率で増加していることを意味している。これとは逆に,傷害は,認知件数が急増しているが,死亡・重傷事案の構成比が低下傾向を示しており,比較的軽微な被害内容の傷害事犯が多発していることが推測される。また,恐喝は,認知件数の増加と連動して軽傷事案と重傷事案の各構成比がほぼ一貫して上昇しているので,犯行が凶悪化した結果,被害者の負傷率が上昇した可能性が高く,今後の動向が注目される。