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1 検挙率の低下 刑法犯の認知件数が戦後最高を更新し続ける一方,平成12年では,刑法犯の検挙率は,全体においては42.7%と,それまでの最低であった昭和22年(50.3%)を下回り,また一般刑法犯においても23.6%と,こちらは2年連続で戦後最低を更新した(巻末資料I-1参照)。
一般刑法犯の検挙率は,平成元年に初めて50%を下回ったのであるが,昭和28年には70.4%という戦後最高を記録していたのであり,50年以降認知件数が増加傾向にある中でも,58年から62年までは5年連続して60%台の高率に復していた。それが63年に59.8%と60%を割り込むと,平成4年にそれまでで最低の36.5%を記録するまで続落し,その後5年間は40%台を維持したものの,10年から再度低下し,11年以降,2年連続して戦後最低を更新したのである。 捜査機関の人的物的資源は有限であるから,認知件数の増加は,それ自体として検挙率を低下させる要因となり得るが,同じく認知件数が増加を続ける中でも,検挙率の推移は昭和期と平成期とで明らかに異なっている。 IV-15図は,一般刑法犯を窃盗と窃盗を除く一般刑法犯とに区分して,全期間における検挙率の推移を見たものである(巻末資料IV-7参照)。 IV-15図 窃盗及び窃盗を除く一般刑法犯の検挙率の推移 窃盗と窃盗を除く一般刑法犯との間に検挙率が連動する論理的な必然性はないともいえるが,実際には,同じ捜査機関が両者の捜査に従事して,その人的物的資源を振り分けることになるから,両者の検挙率の推移には,昭和期において横ばいないし緩やかな上昇,平成期において全体を通じて相当な低下というように,共通する特徴が認められる。また,平成期では,平成4年まで検挙率が急激に低下し,6年まではやや回復したものの,その後は低下しているという点でも,両者には共通の特徴が認められる。特に窃盗の検挙率は,窃盗を除く一般刑法犯の検挙率より相当低い。それでも昭和期では,窃盗の検挙率が若干上昇したこともあり,窃盗を除く一般刑法犯の検挙率の6割前後の水準で,その差は縮小しつつあった。しかし,平成期初期では,窃盗の検挙率の低下率が窃盗を除く一般刑法犯の低下率よりも大きかったことから,平成期では,窃盗の検挙率が,窃盗を除く一般刑法犯の検挙率の半分以下から3分の1程度にまで低下している。平成12年における窃盗の検挙率は19.1%と,前年比で10.3ポイントも低下し,窃盗により認知された事件5件のうち4件は検挙に至らないという事態に立ち至っている。 窃盗の中でも,統計上,治安情勢を観察する指標になるものとして,警察庁では,空き巣ねらいや事務所荒らし等を含む侵入盗のほか,自動車盗,ひったくり及びすりの各手口を重要窃盗犯として指定しているが,重要窃盗犯の検挙率も,平成12年においては,前年比20.5ポイント低下の33.2%と著しく低下している(警察庁の統計による。)。 検挙率とは,検挙件数を認知件数で除した数値であるから,検挙件数の推移を見てみる。 IV-16図は,一般刑法犯を窃盗と窃盗を除く一般刑法犯との二つに分けて,全期間での検挙件数の推移を見たものである(巻末資料IV-7参照)。 IV-16図 窃盗及び窃盗を除く一般刑法犯の検挙件数の推移 窃盗を除く一般刑法犯の検挙件数は,一時増減する時期(昭和54年から平成元年まで)はあったものの,全期間を通じて見ると,検挙件数に顕著な増減はない。特に近年における検挙率の低下は,認知件数の増加によるものと考えられる(本章第3節1参照)。これに対して,窃盗の検挙件数は,平成期に入って平成4年まで減少するという点で,検挙率と同じ動きを示している。この間も認知件数は増加傾向にあるから,この時期における検挙件数の減少が,検挙率の低下を一層進めたことは明らかである。その後の10年までの7年間では,検挙件数は,おおむね増加傾向を続けるが,前記のとおり,この間7年には検挙率の低下が既に始まっているので,この7年間の検挙率の低下は,検挙件数の伸びが認知件数の伸びに追いつかなくなってきたことを示すものといえる。そして,窃盗の検挙件数は,11年から再度減少に転じ,12年では,前年比15万3,902件(27.4%)減の40万7,246件と大幅な減少を示し,11.6%という認知件数の大幅な増加とあいまって,検挙率の低下傾向を急激に加速したものといえる。 IV-17図は,前節で取り上げた自販機荒らし,ひったくり,車上ねらい,自転車盗,オートバイ盗,空き巣ねらい,事務所荒らし,金庫破り,万引き及びすりの10手口別に,平成期における検挙件数の推移を,指数(昭和63年を100とする。以下,本節において同じ。)で見たものである(巻末資料IV-8参照)。期間全体を通じて検挙件数が昭和63年を下回っている手口は,車上ねらい,自転車盗,オートバイ盗,空き巣ねらい及び万引きの5手口である。この車上ねらい等5手口は,昭和63年当時も手口別検挙件数の上位5番目までを占めていた上,各手口とも同様の推移を示しているので,この5手口の推移が,窃盗全体の検挙件数の推移の基調を形成しているものと考えられる。窃盗全体の検挙件数は,平成期全体では38万5,506件の減少を示し,平成10年以降の急落期では19万37件の減少を示しているが,そのうち前記5手口の検挙件数の減少は,平成期全体では28万4,968件(窃盗全体の検挙件数の減少数に占める割合が73.9%),前記の急落期では10万1,794件(同53.6%)を占めている。 IV-17図 窃盗手口別検挙件数指数の推移 前記車上ねらい等5手口の検挙件数の減少が窃盗全体の検挙件数の減少に占める割合は,全期間におけるものよりも,前記平成10年以降の急落期におけるものの方が相当低くなっている。これは,前記車上ねらい等5手口以外の5手口(自販機荒らし,ひったくり,事務所荒らし,金庫破り及びすり)の検挙件数が,この急落期で減少したことによる。すなわち,窃盗全体の検挙件数が平成期初期で相当な減少を示した際も,これら自販機荒らし等5手口の検挙件数は,自販機荒らしを除いて,おおむね増加傾向にあったが,平成6年から11年をピークとして,その後は減少傾向に転じたことから,前記の車上ねらい等5手口の検挙件数の減少が,窃盗全体の検挙件数の減少に占める比率を相対的に低下させたといえる。前記のとおり,窃盗の検挙件数は,平成期に2度の減少期を示すが,平成期初期の減少は,車上ねらいなど従来から検挙件数が多かった手口の検挙件数の減少が大きな比率を占めていた。これに対し,最近では,検挙件数の減少が,認知件数の増加率・増加数等の顕著な手口全体に拡散してきていることを示している。こうした近年における検挙件数の減少に加えて,前節で示した認知件数の増加が重なれば,窃盗全体としての検挙率が急落するのは必然というほかない。 IV-18図は,IV-17図と同様の手口ごとに,平成期における手口別検挙率の推移を見たものである(巻末資料IV-8参照)。自転車盗やオートバイ盗は,平成期において認知件数の伸び率が鈍化しているものの,検挙件数が昭和63年から3分の1程度に減少しているため,検挙率も10%未満にまで低下している。また,空き巣ねらいと事務所荒らしは,最近5年内で認知件数が大幅に増加しているため,それぞれ80%台及び70%台にあった検挙率が30%台にまで急落している。 IV-18図 窃盗手口別検挙率の推移 |