前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 平成13年版 犯罪白書 第4編/第2章/第1節/3 

3 検挙件数・検挙人員から見た増加要因

 検挙件数・検挙人員については,捜査機関による検挙という人為的要因が加わるので,犯罪動向の要因を検討する上では慎重さが求められる。しかし,何者がどのようにして犯罪に及んだかという側面から犯罪動向を検討するには,被疑者が検挙された後でなければ判明しない部分も多いので,検挙件数・検挙人員から見た窃盗の特徴的な増加要因について検討する。

(1) 共犯態様から見た増加要因

 IV-11図は,検挙件数における共犯者数構成比の推移を見たものである。窃盗のうち全期間における認知件数の増加数・増加率が顕著であるものから,自販機荒らし,ひったくり及び車上ねらいの3手口を選び,併せて,窃盗(「窃盗全体」ともいう。以下,本節において同じ。)及び窃盗を除く一般刑法犯も示してある(巻末資料IV-4参照)。

IV-11図 検挙件数における共犯者数別構成比の推移

 窃盗全体を概観すると,検挙件数に占める単独犯事案から2人〜4人共犯事案までの構成比やその推移には,窃盗を除く一般刑法犯との間にほとんど相違はない。単独犯事案の構成比は,全期間を通じて80%台前後で推移している。5人以上共犯事案においては,両者の構成比に相当の格差があったが,窃盗を除く一般刑法犯における5人以上共犯事案の構成比が低下傾向にあることから,その格差は縮小しつつある。しかし,窃盗の手口別に見ると,共犯化が高進する手口の存在が見て取れる。
 車上ねらいは,窃盗全体とほぼ同様の構成比及び推移を示しているが,5人以上共犯事案の構成比が平成11年に上昇したことが注目される。
 ことに特異な傾向を示しているのが自販機荒らしとひったくりである。自販機荒らしは,昭和期において,総じて単独犯事案の構成比が上昇し,共犯事案の構成比が低下したことによって,窃盗全体の水準に近づいてきてはいるが,依然として共犯事案の構成比は相当高く,平成期になると,共犯事案の構成比が,平成2年が39.4%であったのを除き,すべて40%台となっているなど,こうした傾向が固定化しつつある。また,ひったくりについては,全期間を通じて,単独犯事案の構成比が緩やかな低下傾向にあり,反面,特に2人〜4人共犯事案の構成比は相当な上昇を示している。また,5人以上共犯事案の構成比が平成11年に一旦上昇したこともあり,窃盗の中で最も暴力的色彩の強いひったくりでは,こうした多数の者による犯行が増加していることがうかがえる。
 最近5年間前後で認知件数が大きく増加しているのは,空き巣ねらい,事務所荒らし,金庫破り,すり及び万引である。これらの共犯者数を見てみると,万引きについては,昭和49年,63年及び平成12年における単独犯事案の構成比がそれぞれ75.7%,87.4%,93.9%であって,全体として,むしろ共犯事案の構成比は低下している(警察庁の統計による。)。そこで,上記のうち,万引きを除く4手口の別に最近5年間における検挙件数の共犯者数の推移を示したものがIV-3表であり,それぞれ,昭和期の始めである昭和49年及び平成期の始めである63年と対比して示したものである。

IV-3表 空き巣ねらい等における共犯者数別検挙件数

 事務所荒らしは,全体を通じて,それほど明確な傾向は認められないが,最近の5人以上共犯の増加が著しい。空き巣ねらいは,最近5年間における共犯事案の構成比が,それまでよりも高くなっており,その傾向がさらに進んでいる。金庫破りは,空き巣ねらいと同様の傾向が認められる上に,共犯者の数が多い事案ほど構成比が上昇する傾向が強く,全体を通じて単独犯事案の構成比が窃盗全体より低いことも加味すれば,金庫破りが組織化の度合いを強めていることがうかがえる。すりについては,明確な傾向は認められないが,昭和期に比べると,3人共犯事案から5人以上共犯事案の構成比の合計が高くなっていること,すなわち集団すりの手口が目に付くところである。

(2) 犯行の広域化から見た増加要因

 犯行の広域性と犯罪増加とのかかわりという観点から,統計の存する平成元年以降において,犯行の行われた都道府県数別検挙人員の推移を見てみる。犯行の行われた場所が1都道府県内にとどまるものの構成比は,窃盗を除く一般刑法犯,窃盗を問わずおおむね98%台で推移しており,わずかに窃盗の方が下回っているだけで,両者に大差はない。
 しかし,前項で触れた認知件数の増加率・増加数が問題となった窃盗の手口のうち,検挙のほとんどが犯行現認による万引きを除くと,自販機荒らし,ひったくり,車上ねらい,空き巣ねらい,事務所荒らし,金庫破り及びすりの7手口は,いずれも,犯行の行われた場所が1都道府県内にとどまる構成比が,窃盗全体の同構成比を下回っている。これら増加する7手口については,例えば,関東各都県を車で回って事務所荒らしをするように,窃盗一般の場合より,さらに犯行の広域化が進んでいるものと考えられる(巻末資料IV-5参照)。
 IV-12図は,上記7手口について,犯行の行われた都道府県が複数あるものを取り上げ,都道府県数別に,検挙人員に占める構成比の推移を見たものである。警察庁には,その地方機関として,4ないし10の都府県を管轄区域とする合計7つの管区警察局が置かれているが,多数の管区警察局の管轄区域にわたって犯行が行われている場合は,より犯行の広域化が進んでいると考えられるので,3以上の都道府県にわたる犯行のうち,3以上の管区警察局の管轄区域にわたるものを併せて示してある。

IV-12図 窃盗の手口別・犯行都道府県数別検挙人員構成比の推移

 なお,犯行の行われた場所が1都道府県内にとどまる構成比が高いのは,ひったくり,車上ねらい及びすりであり,その構成比は90%台中盤から後半である。次いで,空き巣ねらい及び事務所荒らしは,同構成比がおおむね90%台前半で,それぞれほぼ安定している。
 これらに対して特異なのは,自販機荒らしと金庫破りである。自販機荒らしは,犯行の行われた場所が1都道府県内にとどまるものの構成比が,平成初頭が90%台中盤で推移していたのが,近年では80%台中盤から90.9%まで低下しており,さらに,犯行の行われた場所が3以上の管区警察局の管轄区域にわたるものの構成比も,平成6年以降においておおむね上昇傾向を示しており,犯行の広域化が進んでいることがうかがえる。
 一方,金庫破りについては,犯行の行われた場所が1都道府県内にとどまるものの構成比は,全体を通じて70%台から80%台で推移しており,加えて,犯行の行われた場所が3以上の管区警察局の管轄区域にわたるものの構成比も,おおむね3%以上で推移するなど,この手口は,以前から犯行の広域性が強いものであったことが認められる。

(3) 窃盗犯の属性から見た増加要因

 IV-13図は,全期間において,成人の窃盗の検挙人員の年齢層別構成比の推移を見たものである(巻末資料IV-6参照)。なお,少年(20歳未満の者)については,上昇・低下を繰り返しながら,平成元年まではおおむね上昇傾向にあったが,その後はほぼ低下傾向にある。

IV-13図 窃盗検挙人員の年齢層別構成比の推移

 20歳代と30歳代は,平成初頭まで相当な低下傾向を示した後,上昇・低下を繰り返しており,40歳代は,全期間を通じておおむね横ばいである。最も上昇傾向が顕著なのは,50歳代以上の各年齢層であり,年齢層が高くなるほど構成比の上昇率も高くなっている。平成12年と昭和49年の検挙人員の実数を比較すると,総数及び他の年齢層では,いずれも減少しているのに対し,50歳代,60歳代及び70歳代以上の各年齢層では,いずれも増加している。
 この年齢層別検挙人員の増減を年齢層別の人口比(人口10万人当たりの比率)で見てみる。平成2年以降,20歳代(122.0〜143.6),30歳代(69.5〜79.7)及び40歳代(65.1〜81.1)では,上昇・低下をくり返しながらもおおむね横ばいである。これに対し,50歳代は,平成4年の62.9を底として12年の85.9まで,60歳以上は,2年の38.2を底として12年の66.4まで,それぞれ一貫して上昇している。したがって,50歳代以上の検挙人員の増加は,中高年齢者層の増加だけでは説明がつかず,人口比で見た検挙人員も実質的に増加していることが分かる。
 IV-14図は,年齢層以外の被疑者の身上等別に,全期間における窃盗の検挙人員に占める比率の推移を見たものである(巻末資料IV-6参照)。

IV-14図 窃盗検挙人員の身上等別比率の推移

 男女別では,女性の比率はおおむね20%台後半で推移しているが,平成6年以降やや上昇傾向が見られ,10年以降は反落しているものの,9年には最高の31.5%を示している。
 外国人(日本国籍を有する者以外の者)の比率は,平成期に入って上昇を示し,平成5年には最高の3.8%に達したが,その後はやや低下し,おおむね3%台前半で推移している。
 再犯者(何らかの前科又は前歴を有する者)の比率は,全期間を通じて20%台中盤で推移しているが,平成10年以降は強い上昇を示しており,12年には30%を超えた。
 窃盗前科者(窃盗により有罪判決を受けたことがある者)の比率は,昭和期においては低下傾向にあったが,平成期に入って上昇傾向に転じ,平成12年においては9.5%と,全期間を通じての最高を記録している。