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 平成13年版 犯罪白書 第4編/第2章/第1節/2 

2 認知件数から見た窃盗の増加要因

(1) 種類別の増加数・増加率の推移

 IV-3図IV-4図は,侵入盗,非侵入盗,乗物盗という窃盗の種類別に,全期間における認知件数と認知指数の推移を示したものである。認知件数及び認知指数のいずれにおいても,近時の増加傾向が認められるが,特に非侵入盗の増加傾向が著しい。

IV-3図 窃盗の種類別認知件数の推移

IV-4図 窃盗の種類別認知指数の推移

(2) 手口別の増加数と増加率の概要

 認知件数の推移を主要手口(最近の10年間で認知件数が連続して1万件を超えているものをいう。以下,本章において同じ。)別に見てみると,著しい相違が認められる。
 侵入盗の主要手口には,空き巣ねらい,忍び込み,事務所荒らし及び出店荒らしがある。IV-5図IV-6図のとおり,空き巣ねらいは,認知件数で約半数を占めるが,認知件数・認知指数のいずれにおいても,長期の減少・低下傾向が,平成9年を境に増加・上昇している。また,事務所荒らしも,同様に認知件数で3万5,000件前後で安定していたものが,9年を境に急激な増加に転じ,12年には,過去最高の5万4,483件に達した。その一方で,忍び込みは,認知件数・認知指数ともに,長期微減傾向に変化は認められない。出店荒らしは,認知件数や認知指数の増減の繰り返しが認められるので一概にはいえないが,昭和60年以降,増減を繰り返しながら,増加・上昇に頭打ちの感が認められる。

IV-5図 侵入盗の手口別認知件数の推移

IV-6図 侵入盗の手口別認知指数の推移

 乗物盗の主要手口には,自動車盗,オートバイ盗及び自転車盗がある。IV-7図IV-8図のとおり,自動車盗は,これまで約3万件ないし3万5,000件の認知件数で安定していたが,平成10年以降に顕著な増加傾向を示し,12年では,過去最高の認知件数と認知指数を示している。また,自転車盗は,昭和49年から,一貫した増加傾向を示しており,平成11年には一時減少したものの,12年には再び増加に転じて,過去最高の認知件数を示すに至っている。これらに対し,オートバイ盗は,2年以降増加が頭打ちとなり,以後年間25万件前後で緩やかな増減を示しつつ安定している。

IV-7図 乗物盗の手口別認知件数の推移

IV-8図 乗物盗の手口別認知指数の推移

 非侵入盗の主要手口には,車上ねらい,自動販売機荒らし(以下,本章では「自販機荒らし」という。),部品盗及びひったくりがある。IV-9図IV-10図のとおり,全期間を通じて,件数の増加では,車上ねらいが際立っており,平成8年には一時減少したものの,急増し,12年には過去最高の36万2,762件に達した。一方,指数の上昇では,自販機荒らし(1,938.8)及びひったくり(1,383.7)が際立っており,特に,平成期における自販機荒らしとひったくりの認知指数の上昇には著しいものがある。

IV-9図 非侵入盗の手口別認知件数の推移

IV-10図 非侵入盗の手口別認知指数の推移

(3) 全期間の増減傾向及び最近の手口別増減傾向

 全期間を通じた認知件数増加数では,自転車盗,オートバイ盗,車上ねらい及び自販機荒らしが,いずれも18万件を超えている。その合計数(95万2,649件)は,全期間における窃盗の認知件数増加数(111万8,011件)の85.2%,一般刑法犯の認知件数増加数(123万2,465件)の77.3%,刑法犯全体の認知件数増加数(158万4,144件)の60.1%にも達する。こうした増加の結果,平成12年では,手口別の認知件数は,多い順に,自転車盗,車上ねらい,オートバイ盗,自販機荒らしの順となっている。一方,昭和49年の手口別認知件数では,自転車盗に次いで空き巣ねらい(同年における窃盗の認知件数の15.1%)と万引き(同10.9%)が多数の認知件数を占めていたが,平成12年においては,それぞれ5.5%と5.3%まで低下した。
 平成期又はここ数年の増加率では,ひったくり(平成期412.2%),自販機荒らし(同343.4%),車上ねらい(同94.0%),事務所荒らし(同86.3%),自動車盗(同65.6%),空き巣ねらい(過去5年間で46.5%)の上昇が顕著である。以下,平成期の増加率の高い手口の順に記述する。
ア ひったくり
 ひったくりは,平成期の増加率が最も高く,全期間を通じた増加率も2番目に高い。その増加率は,昭和期が170.1%(認知指数年平均12.2増)であるのに対し,平成期が412.2%(同34.4増)であって,平成期のみについて見れば,すべての手口の中でひったくりの増加率が最も高くなっている。ひったくりは,強盗とも境界を接する性格の犯罪であるから,近年におけるひったくりの増加は,窃盗を除く一般刑法犯と同様に,窃盗においても暴力的色彩が強くなっていることを示すものといえる(本編第2章第3節2(1)参照)。
イ 自販機荒らし
 自販機荒らしは,全期間での増加率が最も高く,平成期の増加率も2番目に高い。その認知件数は,昭和期において4倍強に増加したものが,平成期においてさらにその4倍強に増加しているのであり,平成期における増加は極めて顕著である。特に平成2年(3万2,721件)から11年(22万2,328件)までの9年間における増加率は579.5%(認知指数年平均64.4増)に達しているが,この間の自動販売機の普及台数の伸び率は2.2%,自動販売機を通じて販売された商品の売上げ合計の伸び率も20.5%にとどまっているから(日本自動販売機工業会の資料による。),この期間の自販機荒らしの増加は,犯罪機会の増加によるものとはいえない。なお,12年においては,自販機荒らしの認知件数が,前年より3万1,838件(14.3%)と大幅な減少に転じているのは,新500円硬貨の発行,自動販売機における旧500円硬貨の受入れ制限等,変造硬貨の使用による自販機荒らしに対する自衛策が講じられたことと関係しているものと思われる。
ウ 車上ねらい
 車上ねらいは,全期間を通じての増加数が最も多い。その増加率も397.4%(認知指数年平均15.3増)と高率であり,特に平成9年(21万7,171件)から12年(36万2,762件)までの3年間における増加率は67.0%(認知指数年平均22.3増)であり,近年での増加の度合いが高くなっている。なお,それまで比較的緩やかな増加にとどまっていた自動車盗や部品盗も,この3年間において,自動車盗が3万4,489件から5万6,205件への63.0%(同21.0)増,部品盗が5万2,726件から10万1,338件への92.2%(同30.7)増と,増加の度合いを急に高めている。それ以前の昭和49年から平成9年(各会計年度)に限って見ても,我が国の登録車両及び二輪車を除く軽自動車の合計数の増加率は157.7%であり(国土交通省自動車交通局の資料による。),当該期間における車上ねらいの増加率197.8%を下回っている。したがって,車上ねらいの増加についても,犯罪機会の増加というだけでは説明が困難である。
エ 空き巣ねらいと事務所荒らし
 最近5年前後の特徴的な傾向の一つは,おおむね職業犯として敢行される空き巣ねらいと事務所荒らしの反転増加である。
 空き巣ねらいは,昭和49年では15万3,374件と,自転車盗に次いで認知件数が多かったものが,その後の全期間において3万5,649件(23.2%)減と相当の減少を示している。この減少傾向は平成9年に7万9,746件と最低を記録するまで続くが,その後は急増に転じ,9年から12年(11万7,725件)までの3年間では,その増加率が47.6%(認知指数年平均15.9増)に達している。
 同様の傾向は,同じ侵入盗に分類される事務所荒らしにも見られる。事務所荒らしは,空き巣ねらいより早く,平成期に入ると,それまでの減少傾向から増加傾向に転じているが,6年から9年まで再度減少を示している。その後は,9年の3万5,921件から12年の5万4,483件へと,空き巣ねらいと同様に3年間で51.7%(認知指数年平均17.2増)の増加を示している。
 空き巣ねらいや事務所荒らしでは,特殊工具であるピッキング用具を使用した件数が増加している。平成12年においては,窃盗の認知件数213万1,164件のうちピッキング用具を使用した事案は2万9,211件(1.4%)であるが,空き巣ねらい(11万7,725件)と事務所荒らし(5万4,483件)の認知件数のうち,ピッキング用具を使用した事案は,それぞれ2万1,532件(18.3%)と3,981件(7.3%)に達している(警察庁の統計及び警察庁刑事局の資料による。)。
 IV-2表は,平成11年と12年のピッキング用具を使用した事案の統計が存する5都県の警察において,空き巣ねらいと事務所荒らしの各認知件数の中で,ピッキング用具を使用した事案が占める件数を比較して見たものである。これら5都県はいずれも都市部に属する地域であり,ピッキング用具を使用した事案の比率が全国平均より高い傾向にある。ピッキング用具を使用した事案の増加率は,空き巣ねらいや事務所荒らしのみならず,窃盗全体についても極めて高くなっており,今後この種事案に対しては警戒を要する。

IV-2表 東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・愛知県の空き巣ねらい及び事務所荒らしにおけるピッキング用具を使用した事案の動向

オ その他の職業犯的・習癖的色彩の強い手口
 一般に組織的・職業的色彩の色彩の強い手口である金庫破り(巻末資料IV-3では,侵入盗の中の「その他」に含まれる。)は,昭和63年の2,631件から平成12年の1万1,942件へと,平成期において353.9%(認知指数年平均29.5増)という高い増加率を示していることが注目される。特に10年(6,197件)からの2年間における増加率は92.7%(同46.4増)とさらに高くなっており,12年における認知件数中には,2,384件(20.0%)ものピッキング用具を使用した事案が含まれている(警察庁の統計及び警察庁刑事局の資料による。)。
 すりは,職業的色彩の最も強い手口とされているが,その認知件数は,昭和期における漸減傾向から転じて,平成5年までは大幅な増加を示し,その後は昭和期を上回る割合で減少に転じた。しかし,11年からは再度強い増加に転じており,10年(2万1,019件)から12年(2万4,526件)までの2年間では,その増加率は16.7%(認知指数年平均8.3増)となっている。
 習癖化する傾向が強いとされる万引きは,昭和期における漸増傾向から転じて,平成4年までは大幅な減少を示し,その後は昭和期を上回る割合で増加に転じている。11年以降は足踏み状態にあるものの,4年(6万6,852件)から12年(11万2,559件)までの8年間では,その増加率が68.4%(認知指数年平均8.5増)に達している(巻末資料IV-3参照)。