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 平成12年版 犯罪白書  

はしがき

 戦後,我が国の経済は,景気循環を繰り返しつつも,全般に順調な成長を遂げてきた。その中で,企業を中心とする経済活動も,その規模を飛躍的に拡大するとともに,質的にも,多様化,高度化,国際化を加速度的に進めてきた。こうした経済成長の段階に即して,経済活動を規制するため,処罰規定の新設及び改正並びにその執行等を含めて,法制と法運用の両面における施策が講じられてきた。しかし,近年においては,いわゆるバブルの崩壊に伴い,大規模な企業倒産や不良債権の回収等をめぐって,我が国の経済及び国民生活全体に重大な影響を生じさせている事例も少なからず見受けられる。さらに,今後の経済情勢の推移には,予断を許さないものがあり,経済犯罪,すなわち経済活動を規制する各種法令等に違反して敢行される犯罪その他経済活動に関連してじゃっ起される犯罪の動向にも,なお不確定な要素が多く含まれている。
 こうした経済情勢の中で,安定した日常生活の基盤となるべき経済活動の健全性を損なう各種の経済犯罪に対する国民の関心が高まっており,刑事司法機関においても,経済犯罪への対応の在り方が緊要な課題の一つになっている。
 一方,諸外国の状況を見ると,諸外国においても,近年,経済犯罪の抑止を目的として,罰金その他の経済的制裁の在り方の再構築,捜査等への協力者に対する訴追免除や刑罰の減免制度の採用,あるいは専門的捜査機関の新設等,法制と法運用の両面にわたる施策が講じられており,その中には我が国にとっても参考になるものが少なからず含まれていると思われる。
 こうした状況を踏まえ,本白書では,平成11年を中心とした最近の犯罪動向と犯罪者処遇の実情を概観するとともに,特集として「経済犯罪の現状と対策」を取り上げ,戦後の我が国における経済犯罪の動向,企業活動や企業倒産をめぐる経済犯罪の実態と科刑状況,諸外国における経済犯罪の動向等について,必要な分析を加えることにより,経済犯罪への有効適切な対策を講ずる上で参考となる資料を提供しようと試みた。本白書が,経済犯罪に対する施策の推進を含め,犯罪の防止と犯罪者処遇の進展にいささかでも寄与することができれば幸いである。
 終わりに,本白書作成に当たり,最高裁判所事務総局,警察庁,外務省,厚生省その他の関係機関から多大の御協力をいただいたことに対して,改めて謝意を表する次第である。
平成12年10月
頃安 健司 法務総合研究所長