第2節 アメリカ
1 犯罪被害者施策の沿革 アメリカでは,1960年代後半以降犯罪の多発傾向や犯罪被害の問題が最も深刻な社会問題の一つとして認識されるようになり,まず,犯罪被害者に対する経済的援助を行う被害者補償法の制定の動きが起こり,これが全米各州に広がり,1970年代に入ると,民間の被害者援助団体による被害者支援プログラムが,一部の都市から全米に拡大していった。 一方,1960年代半ばころから実施された種々の犯罪被害実態調査により,犯罪被害率の高さとこれとの比較における被害申告率の低さが明らかになるにつれて,一部の被害者が,被害通報による加害者からの報復へのおそれや無神経な取扱いを受けたために法執行機関に対する不信感を抱いている実態の指摘がなされるようになり,これを除去するための被害者施策が刑事司法の効果的な運営のために重要であるとの認識が生まれた。1982年に,レーガン大統領が任命した「犯罪被害者に関する大統領特別委員会」(President′s Task Forceon Victimsof Crime)は,犯罪被害者の実態調査を行い,上記のような犯罪被害の実態や被害者のニ-ズが無視されているという調査結果を基に,刑事司法機関だけでなく被害者に関係するすべての機関に対し,被害者の保護及び法的地位の向上等に関する68項目の勧告を行う最終報告書(以下,本節において「1982年の委員会報告書」という。)を発表した。この後,連邦政府は,これらの勧告を実現するため,司法省に犯罪被害者対策室(Office for Victimsof Crime)を設置し,また,被害者及び証人保護法(1982年),犯罪被害者法(1984年)等の立法を順次行って,連邦犯罪の被害者の保護について規定するとともに,各種の被害者支援プログラムに対する財政的基盤の整備等を図っている。なお,アメリカの刑事司法においては,連邦,50州,コロンビア特別区等の各法域ごとに被害者施策が行われているが,本節では,連邦及び州における主要なものを紹介する。
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