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 平成11年版 犯罪白書 第5編/第2章/第2節/2 

2 不起訴処分に対する救済制度

 我が国では国家訴追主義が採られており,付審判請求に係るいわゆる準起訴手続を例外として,公訴権は検察官のみに付与されており,また,検察官には公訴の提起について広い裁量権がある。しかし,検察官が判断を誤り,起訴すべき事件を起訴しないという可能性もあり得ることから,告訴人・被害者等に,検察官の不起訴処分に対する救済の制度が法律上整備されている。これが,検察審査会に対する審査申立て及び管轄地方裁判所に対する付審判請求である。
 検察審査会に対する審査申立ての制度は,検察審査会法(昭和23年法律第147号)に基づくものであるが,同法は,日本国憲法の精神にかんがみ,公訴権の行使に関しても,できる限り民意を反映させ,その適正を図るという趣旨から,昭和23年7月,刑事訴訟法と同時期に制定・公布された(同年7月施行)。また,付審判請求は,公務員による各種の職権濫用等の罪についての告訴人又は告発人による請求を認める制度であり,刑事訴訟法に定められている。
 なお,法律上の救済制度ではないが,検察官が行った不起訴処分については,実務上,上級検察庁の長に対する不服を申し立てて監督権の発動を促すことがあり,上級検察庁がこれを受理した場合には,処分を再検討し,処理結果を不服申立人に通知している。
 (1)検察審査会
 検察審査会は,全国に201か所設置されており,選挙人名簿を基にくじで選ばれた者11人(任期6か月)の検察審査員をもって組織される。告訴人,告発人,請求人若しくは被害者の申立てにより又は職権で,検察官の不起訴処分の審査を行い,「起訴相当」,「不起訴不当」又は「不起訴相当」の議決を行う。この議決に法的拘束力はないが,起訴相当又は不起訴不当の議決があった場合,検事正は,議決を参考にし,公訴を提起すべきものと考えるときには,起訴の手続をしなければならない。
 V-8表は,昭和63年から平成9年までの10年間における検察審査会の事件の受理・処理状況を見たものである。5年に新受・処理人員が多かったのは,多数の市民により告発がなされた国会議員の寄付金に係る政治資金規正法(量的制限)違反事件関係の申立て(4万305人)が含まれていたことによる。9年の新受入員のうち,刑法犯は1,130人であり,罪名別に見ると,業務上過失致死傷が334人で最も多く,以下,職権濫用(特別公務員暴行陵虐・同致死傷を含む。)122人,傷害・同致死94人,詐欺92人,文書偽造72人の順となっており,特別法犯は70人で,公職選挙法違反の14人が最も多く,次いで,労働基準法違反の12人となっている。

V-8表 検察審査会事件受理・処理人員

 さらに,起訴相当又は不起訴不当の議決がなされた事件について,検察庁 がとった原不起訴理由別事後措置は,V-9表のとおりである。なお,検察 審査会法の施行後の昭和24年から平成9年までの間の累計では,12万9,372 件の処理がなされ,1万5,960件の起訴相当又は不起訴不当の議決がなされモいる。このうち1,031件が起訴されて,892人(自由刑323人,罰金569人)が有罪になっており,無罪(免訴及び公訴棄却を含む。)を言い渡された人員は75人である(最高裁判所事務総局刑事局の資料による。)。

V-9表 起訴相当・不起訴不当議決事件の原不起訴理由別事後措置

 (2)付審判請求
 地方裁判所は,各種の職権濫用の罪について,告訴人又は告発人から,検察官の不起訴処分に不服があるとして付審判の請求があった場合,その請求に理由があるときは,事件を裁判所の審判に付する旨の決定を行う。この決定により,その事件について公訴の提起があったものとみなされ,裁判所は公訴の維持に当たる弁護士を指定し,検察官の職務を行わせる。
 昭和63年から平成9年までの10年間における付審判請求事件の受理・処理人員はV-10表のとおりである。

V-10表 付審判請求受理・処理人員