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 平成11年版 犯罪白書 第5編/第2章/第2節/1 

1 捜査及び事件処理

 (1)被害申告及び告訴
 犯罪により害を被った者,すなわち被害者は,捜査機関に対して被害届を提出するなどして被害を申告することができるほか,検察官又は司法警察員に対して,犯罪事実を申告し犯人の処罰を求めて告訴をすることができる。
 被害届及び告訴は,いずれも捜査機関にとって捜査の端緒となるものであるが,強姦,強制わいせつ,名誉毀損,器物損壊等の親告罪については,告訴が訴訟条件とされており,告訴がなされない場合又は告訴がなされた後に告訴が取り消された場合は,公訴を提起することができない。
 さらに,検察官は,告訴がなされた事件について処分したときは,速やかに告訴人に通知しなければならず(本節5(1)参照),また,不起訴となった場合の救済制度も設けられている(本節2参照)。
 V-6表は,最近3年間の告訴を捜査の端緒とする事件(以下「告訴事件」という。)について,検察庁における処理人員及びその処理人員総数に占める比率を罪名別に見たものである。告訴事件の処理人員は,強姦,強制わいせつ,名誉毀損,器物損壊等の親告罪と,詐欺,横領,文書偽造・有価証券偽造及び職権濫用において多くなっている。一方,処理人員総数に占める比率は,親告罪である強姦,強制わいせつ,器物損壊,名誉毀損において高いほか,背任,職権濫用,虚偽告訴及び信用毀損・業務妨害において高くなっている。
 V-7表は,平成10年に検察庁で処理された刑法犯の告訴事件について,罪名ごとに処分理由別人員と起訴率及び起訴猶予率を見たものである。

V-6表 告訴事件の罪名別処理人員

 告訴事件の起訴率は29.8%となっており,検察庁で処理された全刑法犯事件(交通関係業過を除く。以下,本節において同じ。)の起訴率58.2%と比べると低くなっている。これを罪名別に見ると,親告罪である強姦及び強制わいせつについては,起訴率が全刑法犯事件についての起訴率より高くなっている。一方,財産犯については,起訴率はおおむね20%台から30%台と低く,起訴猶予率がおおむね40%台となっており,不起訴理由の中では嫌疑不十分が多くなっている。また,偽証,虚偽告訴,職権濫用については,起訴率が極端に低くなっているが,いずれも不起訴理由のほとんどが,罪とならず,嫌疑なし又は嫌疑不十分である。

V-7表 刑法犯の告訴事件の罪名別処分理由

 (2)事件の捜査処理
 捜査機関が,被害者から,参考人として被害状況等について事情聴取等を行う際には,名誉等を害しないよう注意するほか,その立場・心情には十分配慮するよう努めている。また,事情聴取等の際には,被害感情についても併せて聴取し,供述調書に録取することが多い。検察官は,起訴便宜主義の下で訴追について裁量権を有しているが,被害感情は,検察官が訴追の要否を判断する上での考慮要素となり得る。