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 平成11年版 犯罪白書 第4編/第7章/第3節/2 

2 経済事犯

 (1)証券取引法違反及び独占禁止法違反
 平成10年6月に行われた金融システム改革のための関係法律の整備により,証券取引法が一部改正(一部を除き同年12月施行)され,内部者取引に関する規制の適用範囲の拡大並びに相場操縦の罪の加重類型及び不公正取引により得た財産等の没収・追徴規定の新設等が行われた。なお,同年6月の金融監督庁の設置に伴い,証券取引等監視委員会は大蔵省から金融監督庁に移管され,さらに,同年12月の金融再生委員会の発足に伴い,金融監督庁及び証券取引等監視委員会は金融再生委員会に移管された。
 IV-33図は,最近10年間における,証券取引法違反及び独占禁止法違反の検察庁新規受理人員の推移を見たものである。
 証券取引法違反の新規受理人員は,平成10年には34人と,前年の89人と比べて大幅な減少となっている。なお,4年に設置された証券取引等監視委員会から検察庁に告発された証券取引法違反事件について見ると,10年12月末現在,告発件数は合計21件で,その内訳は,損失補てんが7件,風説の流布が2件,相場操縦が1件,内部者取引が9件,有価証券報告書虚偽記載が2件となっている。
 平成10年の証券取引法違反の検察庁終局処理人員は38人で,公判請求が18人(47.4%),略式命令請求が2人(5.3%),不起訴が18人(47.4%)となっている。また,同年の通常第一審における同法違反の終局処理人員は19人で,有期懲役16人,罰金3人であり,懲役刑の刑期は,1年以上2年未満が4人,6月以上1年未満が12人で,いずれも執行猶予が付されている。

IV-33図 証券取引法違反・独占禁止法違反の検察庁新規受理人員の推移

IV-34図 商法違反の検察庁新規受理人員の推移

 独占禁止法違反については,平成10年は,検察庁における新規受理・終局処理人員及び通常第一審における終局処理人員共になかった。
 (2)商法違反
 IV-34図は,最近10年間における商法違反の検察庁新規受理人員の推移を見たものである。商法違反は,平成8年以降増加して,10年には162人となっている。
 平成10年の商法違反の検察庁終局処理人員は154人で,公判請求が79人(51.3%),略式命令請求が1人(0.6%),不起訴が74人(48.1%)となっている。
 また,平成10年の通常第一審における商法違反の終局処理人員は29人で,すべて有期懲役となっている。その刑期を見ると,3年を超え5年以下が1人(3.4%),3年が1人(3.4%),2年以上3年未満が1人(3.4%),6月以上1年未満が14人(48.3%),6月未満が12人(41.4%)となっており,執行猶予率は79.3%となっている。
 (3)不良債権の回収等に関連する犯罪
 特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法(平成8年法律第93号,以下「住専法」という。)により,平成8年7月,住宅金融専門会社の債権回収等を目的とする株式会社住宅金融債権管理機構(以下「住管機構」という。)が設立され,また,同年6月の預金保険法の一部改正を受けて,同年9月,株式会社東京共同銀行が改組され,破綻した信用協同組合の整理回収業務(同業務は,10年2月の預金保険法の一部改正により,信用協同組合以外の破綻金融機関に拡大された。)を主たる目的とする株式会社整理回収銀行(以下「整理回収銀行」という。)が発足した。さらに,10年10月の預金保険法及び住専法の一部改正を受け,11年4月,住管機構が整理回収銀行を吸収合併して,株式会社整理回収機構(以下「整理回収機構」という。)が発足し,整理回収機構は,金融機能の再生のための緊急措置に関する法律(平成10年法律第132号)により,破綻の前後を問わず,金融機関全般から買い取った不良債権の回収等を行い得るものとされた。
 不良債権の回収等に関連する犯罪に関しては,刑事責任追及を厳格に行うため,住管機構,整理回収銀行,整理回収機構等の役職員に,告発に向けて所要の措置をとる義務が課されているが,平成11年3月末現在の告発件数及び人員は,住管機構が77件,150人,整理回収銀行が23件,37人であり,そのうち検挙件数及び人員は,それぞれ,69件,135人及び19件,29人となっている。告発事案の内容を見ると,「借り手」に関する事案が92件,172人で,その内訳は,競売妨害が30件,56人,詐欺が21件,49人,強制執行妨害が19件,41人,公正証書原本不実記載等が4件,7人,脅迫・強要が3件,3人,詐欺破産が2件,2人などとなっており,「貸し手」に関する事案が8件,15人で,その内訳は,背任・特別背任が4件,11人などとなっている(預金保険機構の資料による。)。