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 平成11年版 犯罪白書 第4編/第7章/第3節/1 

第3節 財政経済犯罪

1 脱税事犯

 (1)検察庁における受理状況等
 IV-32図は,最近10年間における,所得税法違反,相続税法違反,法人税法違反及び消費税法違反の検察庁新規受理人員の推移を見たものである。
 平成10年は,前年と比べ,所得税法違反が80人(前年230人),相続税法違反が2人(同27人)と,共に減少したが,法人税法違反は,268人(同183人)と増加している。消費税法違反は,6年までは,受理がなかったが,7年に3人,8年に2人,9年に23人,10年は21人となっている。

IV-32図 所得税法違反・相続税法違反・法人税法違反・消費税法違反の検察庁新規受理人員の推移

 IV-20表は,最近10年間の各会計年度に,国税庁から検察庁に告発された所得税法・相続税法違反及び法人税法違反事件について,告発件数及び1件当たりの脱税額の推移を見たものである。平成10年度(会計年度)においては,総告発件数は合計160件で,その内訳は,所得税法・相続税法違反が50件,法人税法違反が110件となっている。1件当たりの平均脱税額(加算税額を含む。以下同じ。)は,所得税法・相続税法違反では約2億6,900万円(前年度比51.6%増),法人税法違反では約1億8,800万円(同14.0%減)となっている。10年度(会計年度)における消費税法違反による告発はない。なお,脱税額が31億円以上の事件は32件,5億円以上の事件は15件となっている。

IV-20表 所得税法・相続税法違反及び法人税法違反事件の告発件数並びに1件当たりの脱税額

 平成10年度(会計年度)の告発件数を業種別に見ると,卸売業26件(16.3%)が最も多く,以下,建設業22件(13.8%),小売業19件(11.9%),製造業14件(8.8%)の順となっている。また,脱税の手段・方法については,売上げ除外や架空経費の計上が主体となっている。脱税によって得た利益の留保形態は,大半が預貯金,割引債券又は不動産となっている(国税庁の資料による。)。
 (2)検察庁における処理状況
 IV-21表は,最近10年間の検察庁における所得税法違反,相続税法違反及び法人税法違反の起訴・不起訴人員の推移を見たものである。
 所得税法違反,相続税法違反及び法人税法違反の各起訴率は,近年,おおむね80%台から90%台で推移している。なお,所得税法違反の起訴率が,平成5年が26.2%,6年が50.3%,7年が62.8%と低くなっているが,これは,5年及び7年については,一般市民により告発がなされた国会議員や地方議会議員に対する所得税法違反事件多数が不起訴処分に付されたことによるものであり,6年については,寄付金控除を利用し,国会議員等が多数の納税義務者と共に,不正に所得税の還付を受けたという所得税法違反事件につき,多数の納税義務者が不起訴処分に付されたことによるものである。また,消費税法違反の起訴人員は,7年が3人,9年が17人,10年が23人であり,起訴率は,7年及び9年は100%で,10年は88.5%である。

IV-21表 所得税法違反・相続税法違反・法人税法違反の起訴・不起訴人員

 (3)裁判所における処理状況
 司法統計年報及び最高裁判所事務総局の資料によれば,平成10年の通常第一審における終局処理人員は,所得税法違反が97人で,有期懲役94人,罰金3人,相続税法違反が22人で,すべて有期懲役であり,法人税法違反が159人で,有期懲役76人,罰金82人,公訴棄却1人,消費税法違反が5人で,有期懲役2人,罰金3人となっている。
 また,最近10年間の通常第一審における所得税法違反,相続税法違反又は法人税法違反により懲役の言渡しを受けた者の科刑状況を見たものが,IV-22表である。

IV-22表 通常第一審における所得税法・相続税法・法人税法違反の懲役の科刑状況