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 平成11年版 犯罪白書 第3編/第2章/第4節/4 

4 少年院の処遇

 (1)処遇の基本
 処遇課程は,一般短期処遇では,教科教育,職業指導及び進路指導の3課程,長期処遇では,生活訓練,職業能力開発,教科教育,特殊教育及び医療措置の5課程が,それぞれ設けられており,各処遇を担当する少年院は,全国を八つのブロックに分けて設けられた矯正管区ごとに指定されている。
 少年院の処遇は,入院から出院に至る時間経過に沿って見ると,新入時教育,中間期教育及び出院準備教育の三つの過程に分けられる。また,各少年の処遇段階で見ると,入院時の2級下から,改善,進歩等に応じて,順次,2級上,1級下,1級上と進級する四つの処遇段階に分けられる。
 (2)処遇の流れ
 少年院における処遇の流れを示したものがIII-29図である。

III-29図 少年院処遇の流れ

 ア 新入時教育過程における教育
 入院直後の新入時教育過程においては,新入少年の特質及び教育上の必要性を把握し,矯正教育への円滑な導入を図るため,健康診断や院内生活を理解させる指導を行うとともに,境遇,経歴,教育程度,技能等の身上に関する各種の調査を行い,少年院長及び関係職員によって構成する処遇審査会での審議を経て,一人一人の少年ごとに個別的処遇計画が作成される。
 この個別的処遇計画は,当該少年の処遇上の問題点,出院までに達成させるべき個人別教育目標,各教育過程ごとに設定する段階別到達目標,具体的な教育内容及び方法等を記載の上作成されるが,固定化したものではなく,必要に応じて修正・変更される。
 1か月程度の新入時教育過程を経た後,中間期教育過程に移行する。
 イ 中間期教育過程における教育
 中間期教育過程においては,新入時教育過程における教育の成果を踏まえ,少年の特質及び教育上の必要性に応じた矯正教育が実施される。
 (ア) 生活指導
 在院者の個別的な問題の改善並びに健全なものの見方,考え方及び行動の仕方の育成を図るための生活指導の主なものには,[1]問題行動指導,[2]治療的教育,[3]情操教育,[4]基本的生活訓練,[5]保護関係調整指導,[6]進路指導がある。このうち,非行にかかわる意識,態度及び行動面の問題を中心に指導する[1]においては,問題群別指導として,薬物,交通,家族,不良交友等の各問題を取り上げて,集団討議や視聴覚教材を利用した授業等が行われている。また,保護環境上の問題を有する者も多いことから,面会・保護者会等の保護者を含めた指導や家族参加行事等を通して,家族関係の調整が行われている。
 (イ)職業補導
 勤労意欲の喚起並びに職業に関する知識及び技能の習得を目的とする職業補導には,[1]生産実習,技能実習等を中心とする職業指導,[2]職業能力開発促進法等関係法令に基づいて行う職業訓練,[3]施設外の事業所等に委嘱して行う院外委嘱職業補導がある。
 少年院で実施している職業補導の主な種目は,平成10年12月31日現在,男子では木工,溶接,農園芸等,女子では応接サービス,事務・ワープロ,介護サービス等の合計22種目である(法務省矯正局の資料による。)。
 平成10年の出院者が,在院期間中に受けた職業補導の種目に関連して取得した資格・免許の取得人員総数は1,881人であり,その種類別人員の構成比は,III-30図のとおりである。また,出院者中に占める,在院中の職業補導に関連した資格・免許取得者の比率は,10年では,男子36.8%,女子47.7%となっている。

III-30図 出院者の資格・免許取得人員の種類別構成比

 院外委嘱職業補導の委嘱内容は,老人介護補助,スーパーマーケット店員等多岐にわたっており,平成10年中に出院した者のうち,597人(12.0%)が院外委嘱職業補導を受けている。
 (ウ)教科教育
 義務教育未修了者に対しては,教科教育課程に編入し,中学校学習指導要領に準拠した教科教育を実施しており,さらに,進路に応じて受験指導等も行うなど,出院時の円滑な復学や進路選択に配慮している。また,短期間の院内教育の後,保護者の下から出身中学校又は高等学校に通学させ,週末だけ帰院させる方法が,主に特修短期処遇において実施されている。
 平成10年中に出院した者のうち,出院後に中学校又は高等学校に復学した者はそれぞれ67人,87人であり,在院中に中学校又は高等学校の卒業証書若しくは修了証明書を授与された者は,それぞれ310人,2人である。
 高等学校教育を必要とする者には,通信制の課程を置く高等学校に,学校長の許可を得て編入させるほか,大学等への進学を希望する者に対しては,それに応じた補習教育を実施して,文部省の行う大学入学資格検定を受検する機会を与えている。平成10年に出院した者のうち,大学入学資格取得者は5人,一部科目の合格者は20人である(矯正統計年報及び法務省矯正局の資料による。)。
 なお,学校教育以外の知識を必要とする者に対しては,自動車整備士,電気工事士,書道・ペン習字等の文部省認定の社会通信教育を受講させている。
 (エ) 保健・体育
 少年院においては,心身の健康の回復・増進が強調され,保健・体育の重要性が認識されている。保健では,健康管理,疾病予防等に関する指導を行い,体育では,バレーボール,水泳,剣道等のスポーツによる健康維持及び基礎体力の向上を図っている。
 (オ)特別活動
 特別活動は,在院者に共通する一般的な教育上の必要性により,主として集団で行われるもので,[1]自主活動,[2]院外教育活動,[3]クラブ活動,[4]レクリエーション,[5]行事がある。生活に潤いを与え,余暇時間を活用し,多種多様な経験をさせるため,特別活動の役割は大きい。
 なお,平成10年の出院者のうち,在院中に院外活動等で外出したことのある人員及び外泊したことのある人員は,それぞれ4,421人(89.1%),334人(6.7%)である(矯正統計年報による。)。
 ウ 出院準備教育過程における教育
 1級上に進級した少年については,中間期教育過程から出院準備教育過程に移行するとともに,少年院長から地方更生保護委員会に対して,仮退院の申請がなされる。出院準備教育過程においては,社会生活への円滑な移行を図るため,対象者の必要性に応じた進路指導が徹底され,就職希望者に対する求職方法等の具体的指導,進学希望者に対する受験指導・受験外出,進路未定者に対する情報提供など,少年の必要性に応じたきめ細かな進路指導が行われる。特に,出院後に予想される危機場面への対処方法を習得させるため,ロールプレイングや集団討議等を用いた社会適応訓練が活発に実施されている。
 (3)医療及び食事等
 専門的又は長期の医療を必要とする者は,医療少年院に収容されるが,その他の医療を必要とする者は,各少年院の医師の診療を受ける。しかし,少年院内で適当な医療を施すことができないときには,施設外の病院に通院又は入院をさせるなど適当な場所で医療を受けさせている。
 平成10年の出院者のうち,在院中に病室等で治療を受けた者は,医療少年院で長期にわたる医療を受けた者を含め1,433人(28.9%)であり,その大半は短期間に治癒している。
 食事については,最近の国民一般の食生活水準と栄養学的知見を考慮して,平成11年4月1日から,一人1日当たりの総給与熱量は男子2,870kcal,女子2,450kcal,副食費は一人1日490.75円となっている。
 衣類,寝具,その他日常生活に必要な物品は,少年院において貸与し,又は給与しているが,規律や衛生に害がないと認められる場合には,自己の物品の使用も許可している。
 (4)民間協力
 少年院の教育は,生活指導,職業補導,教科教育,保健・体育及び特別活動の各領域における多くの場面で民間篤志家の協力を得て行われており,その一つとして,篤志面接委員と教誨師による面接活動等がある。
 平成10年12月31日現在の少年院の篤志面接委員数は790人,10年における面接実施総回数は1万5,200回であり,その内容は,精神的悩みに対する助言,教養指導等多岐にわたっている。一方,同日現在の少年院の教海誨数は373人,同年における宗教教海実施総回数は3,987回であり,その内容は,在院者の希望に応じて行う個別面接等である(法務省矯正局の資料による。)。