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 昭和38年版 犯罪白書 第三編/第四章/一/3 

3 刑務所処遇上における特例

 このような少年を収容する少年刑務所においては,成人刑務所におけるよりも,いっそう本人の更生復帰のための矯生教育が重要視されるのは当然であって,このことは監獄法その他の法令上にもあらわれている。
 まず組織規定に定められた一般の刑務所および少年刑務所の内部組織を比較すると,少年刑務所では一般の刑務所における管理部,保安課,作業課の代りに補導部(補導課,職業課,教育課)を置き,特に職業教育や生活指導などの矯正教育に主眼をおくとともに,一般刑務所にくらべ教官の配置定員を多くしている。
 次に刑務作業の賦課については衛生,経済および在監者の刑期,健康,技能,職業,将来の生計を考慮することは成人受刑者と同様であるが,一八才未満の少年に対しては,この外に特に教養に関する事項を考慮することが定められ(監獄法第二四条二項),作業の科程についても成人受刑者の場合,普通一般人の仕上高および定められた作業時間を標準とした科程によるのに対し,一八才未満の少年受刑者については各就業者に相応する作業科程を定めることができることになっている(監獄法施行規則第六一条三項)。
 また刑務所内で在監者を独居拘禁する場合,一般成人に対してはその最長期間は二年を越えることができないという原則にたっているが,一八才未満の少年については特別の場合を除いて,六か月以上継続して独居拘禁することができないことになっており(監獄法施行規則第二七条),独居拘禁に付された一八才未満の少年に対しては少なくとも三〇日ごとに一回(その他の者は少なくとも三月ごとに一回)健康診断を受けさせることになっている(監獄法施行規則第一〇七条)。
 在監者が規律に反した時には懲罰に処することができ,その懲罰の一つとして七日以内の減食という方法が監獄法(第六〇条)によって定められているが,とくに一八歳未満の少年に対してはこの適用を除外することが同法(第六一条)に明記されている。
 また一八才未滿の少年受刑者の護送にあたっては,他の在監者と区分して行なうこと(同法施行規則第五五条二項),医療を施す場合に,一八才未満の少年受刑者については治療の時間や居室を他の者とことにすること(同第一〇八条)などが定められている。
 なお一八才未満の少年受刑者に対する特例としては,接見度数の制限緩和(同施行規則第一二三条但書),発信数の制限緩和(同上第一二九条一項但晝)があり,一般受刑者では家族等との面会ならびに通信発信は,いずれも月一回と定められているのに対し,一八才未満の少年受刑者に対しては,刑務所長が教化上必要を認めた場合は,この制限を緩和し,回数を増加することができることになっている。
 また行刑累進処遇令において,受刑者の階級の累進については(1)作業の勉否と成績(2)操行の良否(3)責任観念および意志の強弱を考査して累進審査を行なうことになっているが,少年受刑者については上記三項のほかに,学業の勉否と成績という一項を加えて審査すべきことが定められている(行刑累進処遇令第二一条二項)。
 さらに少年受刑者には,集会の制限緩和(同上第五五条二項)および競技等の制限緩和(同上第五八条二項)が考慮されている。すなわち一般受刑者では集会ならびに競技等は,それぞれ一級者は毎月二回以下,二級者は毎月一回以下の制限内で認められているが,少年受刑者はこの制限によらず,集会や競技等をもつことができるたてまえである。
 給養の面についても,少年受刑者に対しては,その心身の発達のおう盛な年齢期にあることに対して特段の配慮がなされている。すなわち収容者食料給与規定によって,収容者に給与する主食の等級と給与量は一等食(一日ひとり三,〇〇〇カロリー),二等食(二,七〇〇カロリー),三等食(二,四〇〇カロリー),四等食(二,〇〇〇カロリー),五等食(一,六〇〇カロリー)と定められ,刑務作業の労作の軽重別,性別ならびに年齢別によって,食等級の標準が定められているが,少年受刑者には成人に比して,だいたい一等級だけ上級が給与されることになっている。
 これらの主食は,米麦またはその他の適当な代替品をもってすることになっているが,その予算上の標準は,成人一日ひとりにつき四二円九一銭であるのに対し少年は四六円二銭(いずれも昭和三七年末現在)である。
 次に副食の栄養量についても,少年刑務所に対しては特段の考慮が払われている。これらの副食費の予算上の標準は,成人一日ひとり二四円五〇銭(昭和三七年度,昭和三八年度は一円四〇銭増額)に対し,少年では二八円(同上一円六〇銭増額)になっている。
 最後に収容者の衣服についても,一般成人受刑者などに着用させる衣類,臥具の色があさぎ色に定められているのに対し,一八才未満の少年受刑者には「別に定める衣類を着用させることができる」ことになっており(監獄法施行規則第九一条),以上各種の点で成人受刑者と違った配慮が払われている。