平成１０年版　犯罪白書第3編/第7章/第4節/2

　フランスにおいては,1945年2月2日オルドナンス(Ordonnance)が少年法制の基本法として,犯罪少年に対する処分や手続等について規定しており,これが,その後数次の改正を経て運用されてきた。
　フランスでは,犯罪が法定刑により,重罪(無期の懲役又は禁錮,30年以下ないし10年以上の懲役又は禁錮などが科される罪で,故殺や強姦などがこれに当たる。),軽罪(10年以下の拘禁刑,罰金などが科される罪で,窃盗や麻薬の違法所持などがこれに当たる。),違警罪(第1級から第5級まであり,拘禁刑はなく罰金が科される罪で,駐車違反等の交通事犯や軽微な暴行などがこれに当たる。)に区分されているが,少年事件についても,この区分に応じて,異なった取り扱いが定められている。
　①18歳未満の少年が軽罪又は第5級違警罪を犯した場合は,予審を経て少年係判事(juge des enfants)又は少年裁判所(tribunalpourenfants)が,②16歳未満の少年が重罪を犯した場合は,予審を経て少年裁判所が,③16歳以上18歳未満の少年が重罪を犯した場合は,予審を経て少年重罪法院(courd'assisesdes mineurs)が,④18歳未満の少年が第1級ないし第4級の違警罪を犯した場合は,違警罪裁判所(tribunal de police)が,それぞれ事件を管轄する。
　予審は,少年事件を専門とする少年係判事又は予審判事が担当し,そこでは,少年の家庭状況や生育歴等の社会調査や医学的・心理学的検査が行われ,犯罪が証明されない場合の免訴の決定や少年裁判所等への移送命令のほか,少年に対する訓戒(admonestation)や両親・後見人への引渡しなど一定の教育的措置をこの段階で言い渡すことができる。また,言い渡した措置はいつでも取消し・変更することができる。
　裁判には,少年の保護者,法定代理人のほか,少年保護機関や保護観察担当者などの関係者は出席できるが,公開は制限されている。
　検察官は,少年事件につき,起訴・不起訴の決定権を有しており,予審を請求し,少年裁判所等の審理に立ち会うほか,上訴権も有している。
　刑事責任年齢は犯行時13歳であり,13歳未満の少年には刑事処分を科することはできず,教育的措置のみを言い渡すことができる。13歳以上18歳未満の犯罪少年には,刑事処分又は教育的措置が爾い渡される。教育的措置としては,①両親・後見人等への引渡し,②資格を有する公立・私立の教育施設又は職業教育施設への収容,③資格を有する医療施設又は治療教育施設への収容,④教護又は矯正教育のための公立施設等への収容などがある。この処分は,少年が18歳に達すると終了するが,同様の内容をもつ司法的保護処分(protectionjudiciaire)を,18歳未満の少年に対して5年を超えない期間で言い渡すこともできる(1996年7月改正)。
　また,13歳以上18歳未満の少年に対しては,法定刑の2分の1を超える自由刑を言い渡すことができず,法定刑が無期懲役の場合は,20年を超える懲役刑を言い渡すことができない。さらに,16歳以上18歳未満の少年については,特に理由を明示した上で刑の減軽を認めない決定ができる一方で,自由刑に代わり,あるいは執行猶予に伴って公益奉仕労働(travaild'interet general)を奮い渡すこともできる。
　なお,死刑は,成人を含め1981年に廃止されている。
　保護観察は,教育的措置及び刑事処分に併用されるほか,予審期間中や判決前の社会調査・試験的観察として,少年係判事の監督の下で,国家公務員及び篤志の委員(delegues)により実施される。その報告等に基づき,少年係判事は,少年に言い渡されたすべての教育的措置及び刑事処分の取消し・変更について審理することができる。
　また,フランスでほ,被害者が,犯罪者に損害賠償を求める私訴(action cilile)を少年係判事等に提起することができるが,これにより予審等が開始される。さらに,予審請求以前の段階では検察官が,予審や裁判段階では少年係判事が,被害者の同意を得て,被害者への援助や賠償の措置を行うことなどを少年に対し提案することができる。