平成１０年版　犯罪白書第3編/第5章/第5節/2

①非行性の進んでいる者の方が,家庭,交友,今の自分の生き方について満足とする者の比率が低く,自分に対する否定的意識が強い。
　少年院在院少年の方が,短期保護観察少年よりも,家庭等に対し満足とする者の比率が低く,特に,少年院女子は,いずれについても満足とする者の比率が他の3つのグループより低く,他と比べて強い不適応感をもっていることがうかがわれる。
　また,否定的な自己意識を感じる者の比率は,少年院在院少年の方が高く,特に,少年院女子は,「世の中から取り残されている」,「自分だけが悪く思われている」といった,疎外感,被害感を強く感じている。他方,少年院在院少年は,男女とも「物事に打ち込んでいる」,「努力が実ってきている」と感じる者が多く,自らの課題達成への努力を評価し,成就感を得ており,短期保護観察少年は,社会生活の人間関係の中で「自分が頼りにされている」という手応えを感じている様子がうかがえる。
②非行性の進んでいる者の方が,家族との交流が希薄になり,自分の親の養育態度に問題を感じる者の比率が高くなっている。
　家族と話をすることや自分の将来について話しかけることが「ある」とする者の比率は,ひずれも少年院在院少年の方がかなり低くなっており,家族との交流が希薄になっている様子がうかがえる。また,自分の親の養育態度について,「親が厳しすぎる」と感じることがある者の比率は,少年院在院少年と短期保護観察少年でほとんど差がないが,「親が自分のことを気にしない」,「親が自分のいいなりになりすぎる」については,そう感じることがある者の比率が,男女とも少年院在院少年の方が高く,親の養育態度に,放任,いいなりなど,何らかの問題を感じている者が多い。
③非行性の深度により,同世代の者についての見方がかなり相違しており,非行性の進んでいる者の方が,同世代の少年の中に,付和雷同的で群れたがる傾向,せつな的で情緒的にも不安定な傾向等をかなり強く感じている。
　「悪いことだと思っても,仲間と一緒になるとやってしまう人」等批判的な人物評価を挙げ,非行少年が自分たちと同世代の者をどのように見ているかを非行性の深度で比較してみると,1項目を除きいずれの評価項目についても,身近にそのような者が「多い」又は「やや多い」と回答する者の比率は,少年院在院少年の方がはるかに高い。特に比率の高い評価項目を見ると,「悪いことだと思っても,仲間と一緒になるとやってしまう人」,「今,この場が楽しければそれでよいと思っている人」などであり,彼らが,同世代の少年の中に,付和雷同的で群れたがる傾向,せつな的で情緒的にも不安定な傾向などをかなり強く感じていることが認められる。
④非行性の進んでいる者,いない者のいずれも,非行の抑止要因として家族を挙げる者の比率が高いが,その他の抑止要因として,家族以外に身近な人物や自分自身を挙げる者の比率が,非行性の進んでいない者において高くなっている。
　悪いことをしょうと思ったとき,それを抑止する「心のブレーキ」となっているものを尋ねたのに対し,「家族」とした者の比率が,少年院在院少年,短期保護観察少年いずれにおいても最も高く,家族が反社会的行動の抑止要因として,大きな比重を占めることがうかがわれる。その他の抑止要因を非行性の深度別に比較してみると,短期保護観察少年は少年院在院少年と比べ,家族以外の身近な人物や自分自身を挙げる者の比率が高い。また,「特に心のブレーキとなるものはない」とする者の比率が,少年院在院少年で高くなっている。