平成１０年版　犯罪白書第3編/第5章/第5節/1

①　男女とも否定的な自己意識はやや軽減されてきたが,現実の自分の在り方に対する満足度は低下している。　男女とも「世の中から取り残されている」,「自分だけが悪く思われて、る」といった疎外感,被害感等自分に対する否定的な意識を抱いている者の比率は,前回をかなり下回っており,この点では,非行少年の特質として前回調査で指摘された強い不適応感は,今回の調査で見るとやや軽減されてきたといえる。
　他方,今の自分の生き方に対する満足度は,男女とも前回より低下している。これは,「何をやってもダメな人間だ」とか「世の中から取り残されている」といった否定的な自己意識を強く感じることは少なくなったものの,努力が具体的な成果になるとか,周囲の人々から頼りにされるといった,現実の自分の在り方を積極的に肯定し得るような達成感や,成就感,あるいは対人関係における満足感を得ることが少ないためではないかと考えられる。
②　家族についての受け止め方が好転し,非行少年を取り巻く身近な人間関係における家族のもつ意味が大きくなっている。
　家庭生活に対する満足度は,男女とも前回調査時より高くなっている。
　また,家庭生活に不満であるとする者についても,その理由として家族間の人面関係を挙げる者の比率は,おおむね前回を下回り,代わって,経済的な理由を挙迂る者の比率が上昇している。家族との関係についても,家族と話をしたり,自分の将来について話しかけることが「ある」とする者の比率が上昇し,少年と家族との交流や心理的な結び付きが強くなっていることがうかがわれる。
　これら家族に対する受け止め方の好転を反映してか,前回調査時に比べて「気楽に話ができる人」,「悩みを打ち明けられる人」,「注意されたら言うことを聞く人」として,父親,母親兄弟姉妹を挙げる者が増え,さらに,女子においては,父親や母親のようになりたいと感じている者の比率が上昇しており,非行少年の身近な人間関係の中で家族のもつ意味が大きくなっていると思われる。
③　身近な人間関係の中で,友人等が依然として大きな意味をもっていることは変わらないが,交友関係における情緒的親密感が薄まっている。
　友人との関係について,男女とも「悲しいことがあったら話を聞いてもらう」,「お互いに悪いところは悪いと言い合える」仲だととらえている者が多い傾向は変わらず,今回女子で選択した者の比率が目立って上昇した「けんかをし合える」を含め,「話を聞いてもらう」,「言い合える」など,行動面においては相変わらず親密さが見られる。他方,「お互いの性格は裏の裏まで知っている」を選択する者の比率が低下し,交友関係において「自分のすべてをさらけ出すわけではない」と感じ,「相手にけっこう気をつかっている」とする者が増えている。
　大事だと思う友達のタイプとして,「困ったときに助けてくれる」友達に対する評価が高まったのに対し,「他の人にはいえないことを聞いてくれる」友達に対する評価は低下しており,精神的な支えよりは,実際的な助力を重視する傾向が強くなっている。また,少年が非行にはしる主な原因を尋ねた質問に対し,「友達・仲間」を挙げる者の比率が,男女とも前回より上昇している。
　これらのことから,非行少年の交友関係について,行動面では親密であるが,心理的にはやや距離を置き,自分のより内面的なところは余り見せないままに関係をもっている様子がうかがえる。
④　気軽さを好み,あえて自己主張せず,努力より目先の楽しみを追う傾向は薄らいできており,伝統的価値観に対する賛成率も下がっている。
　前回調査では非行少年の特質の一つとして,あえて自己主張をしないという点が指摘されたが,今回の調査を見ると,「自分の意見とちがっていても多数の意見には従うべきだ」,「まわりから何か言われないように,目立たないようにする方がよい」といった,周囲の大勢や成り行きにまかせて,あえて自己主張はしないとする意見に賛成する者の比率は低下し,他方,「世の中全体のことを考えるよりも,自分のしたいことをする方がよい」と,自分の願望や欲求を重視して行動しようとする傾向がうかがわれる。
　「まじめな人よりも,ひょうきんにふるまう人の方が好きだ」とする者の比率は相変わらず高いが,前回と比べ男女共に賛成率は下がっている。また,地道な努力より目先の楽しさや要領のよさを選ぶ者の比率が低下しており,ひょうきんさや気軽さに対する評価が下がり,努力に対する肯定的な評価が高まっている。
　男女の役割について,前回調査では,非行少年は,「男は外で働き,女は家庭を守るべきだ」とする伝統的,保守的な考えを持っていることが指摘されたが,今回の調査では,これに対する賛成率は大幅に低下している。
　前回調査では,非行少年の特質の一つとして,男女の役割について伝統的,保守的な意見をもっており,気軽さを好み,あえて自己主張せず,努力よりは目先の楽しみを追う傾向があることが指摘されたが,このような傾向は薄らいできているといえよう。