2 検察庁における事件処理 (1) 起訴及び起訴猶予の状況 「犯人の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは,公訴を提起しないことができる」と定める起訴便宜主義の下,検察官が行う訴追の要否の判断は,検察の場面における処遇の中核をなしている。この起訴猶予の制度は(旧)刑事訴訟法当時から存在し,現行の刑事訴訟法に引き継がれたものである。 昭和21年以降の検察庁終局処理人員によって,起訴及び起訴猶予の状況を見ると,全事件についての起訴率及び起訴猶予率は,20年代の半ばには,起訴率が30%台から40%台で,起訴猶予率が50%台で,それぞれ推移していたが,起訴率は,30年代後半から62年までおおむね80%台の高い数値を維持し続け,平成3年以降は60%台となっている。一方,起訴猶予率は,昭和20年代後半から長期的には低下傾向を示し,56年から60年までの間は10%未満を記録していたが,その後は上昇傾向を示し,平成4年以降は30%台となっている。この変動は,業過(昭和50年以降は交通関係業過)及び道交違反についての起訴及び起訴猶予の動向に影響されるところが大きい。昭和43年には,一時的に起訴率が低下したが,同年には,交通反則通告制度が導入されており,道交違反による起訴人員が減少している。 また,昭和62年から,交通関係業過の起訴猶予率が上昇し,起訴率が下降しているが,その背景には,「国民皆免許時代」,「くるま社会」において,軽微な事件について国民の多数が刑事罰の対象となることは適当ではないことなどの事情を考慮した,検察庁における交通関係業過事件の処理の在り方等についての見直しがなされたことがあるものと考えられる。 近年の起訴・不起訴の運用面における特記すべき事項として,昭和62年以降の10年間を見ると,覚せい剤取締法違反の起訴率は一貫して80%台以上を示し,暴力団関係者による事犯についての起訴率も70%台から80%台の高い数値で推移していることを挙げることができる。同じ期間,交通関係業過を除く刑法犯の起訴率は50%台を,道交違反を除く特別法犯の起訴率は60%台から70%台を推移していることと比較しても,覚せい剤取締法違反や暴力団関係者による事犯に対する検察の厳正な姿勢がうかがわれる。 (2) 逮捕・勾留の状況 次に,検察における捜査,特に逮捕及び勾留の状況について見ることとする。昭和36年以降の35年間について,業過(50年以降は交通関係業過)及び道交違反を除く検察庁既済事件の身柄率を見ると,例年,身柄事件はおおむね20%台にとどまり,70%以上の事件がいわゆる在宅事件として処理されている。一方,同じ期間,身柄事件中で勾留請求された事件の比率は,40年代前半には60%台であったものが,その後は上京し,平成5年以降は90%を超えている。さらに,勾留請求された事件のうち,裁判官によって勾留が認容された事件の比率(認容率)は,この35年間,96%以上を維持しており,3年以降は,いずれの年次においても99.9%という高い比率を示している。 従前から重大・悪質な事犯については,逮捕・勾留の上,捜査がなされることが多く,平成8年における被疑者の逮捕・勾留の状況を見ると,身柄率では,強姦及び殺人は70%を,強盗及び覚せい剤取締法違反は60%を,それぞれ超えている。勾留請求率では,殺人及び覚せい剤取締法違反は99%を,強姦は98%を,強盗は95%を,それぞれ超えている。
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