第3節 成熟と再構築の時代(昭和60年代から平成の時代)
1 概 況 昭和60年代に入ると,刑法犯の認知件数の増加傾向が認められ,63年には,交通関係業過を含む刑法犯の認知件数は昭和時代の最高値を記録するに至った。件数の増大自体は交通事犯や比較的軽微な窃盗,遺失物等横領等の増加によるものであり,凶悪犯・粗暴犯等は減少傾向にあるので,欧米諸国と比べれば,全体として安定した犯罪情勢といえ,「世界で最も安全な国の一つ」との評価がなされたのも昭和の終わりから平成の初めにかけてのことである。 平成に入り,少年による凶悪な事犯が発生し,少年非行が社会の耳目を集める一方で,急速な人口の高齢化とともに昭和40年代から始まったとされる犯罪者の高齢化が認められるようになった。また,人的国際交流の活発化に伴い日本人の国外における犯罪・犯罪被害の多発,来日外国人による犯罪・犯罪被害の増加も問題となってくる。さらに,薬物犯罪は依然として高い水準を続け,暴力団の有力な資金源として組織の維持・拡大に供されていると目されているとともに,来日外国人による事犯が増加傾向にあり,薬物濫用の影響による副次的な犯罪や事故も後を絶たない。 近年に至っては,現在,関係者の裁判の多くが係属中でもあるオウム真理教関係者によるとされる一連の無差別大量殺人事件等に加え,銃器を使用し,一般市民を被害者とする強盗殺人事件や,要人を標的にしたテロ型の発砲事件等,市民に危機感を与える各種重大凶悪事犯の頻発などが,一般社会に多大な衝撃を与えており,そこには,凶悪犯罪を生み出す社会の側にも新たな質的変化が生じているとも考えられる。 昭和60年代から平成にかけての刑法改正としては,人質による強要行為等の処罰に関する法律及び暴力行為等処罰ニ関スル法律の一部改正と併せて公布された昭和62年の一部改正,罰金額等の引上げがなされた平成3年の一部改正,表記の平易化等がなされた7年の一部改正がある。
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