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 平成 9年版 犯罪白書 第2編/第7章/第2節/1 

第2節 少年矯正

1 少年鑑別所

(1) 概  説
ア 少年鑑別所の機能
 少年鑑別所は,家庭裁判所によって観護の措置として送致された少年を収容するとともに,家庭裁判所の行う少年に対する調査及び審判並びにその後の保護処分の執行に役立てるため,医学,心理学,教育学,社会学等の専門的知識に基づいて,少年の資質の鑑別を行う施設である。
 少年鑑別所における鑑別業務は,家庭裁判所関係,法務省関係及び一般少年鑑別の三つに区分される。
 家庭裁判所関係の鑑別には,少年法17条2項による観護の措置の決定(少年鑑別所送致)によって身柄を収容した少年に対して行う収容鑑別と,身柄を収容しないで家庭裁判所の請求により行う在宅鑑別とがある。
 収容鑑別に関しては,家庭裁判所の決定をもって少年の身柄を,原則として2週間以内の期間に限って収容することができ,特に必要があるときは,決定により更に1回に限って2週間以内の期間の延長をし,最長4週間以内の期間に限って収容することができる。また,検察官は,少年の被疑事件において,裁判官に対して勾留の請求に代え観護の措置を請求することができ,裁判官の発する「勾留に代わる観護の措置」の命令によって,少年が少年鑑別所に収容されることもある。さらには,勾留状は,やむを得ない場合でなければ,少年に対して発することはできないが,少年を勾留する場合には,少年鑑別所に拘禁することができるとされている。
 収容鑑別の対象とされる少年は,非行傾向,資質及び環境の面で問題の大きい者が比較的多い。その鑑別の際には,少年を明るく静かな環境に置いて,安んじて審判を受けられるようにするとともに,そのありのままの姿をとらえて,資質の鑑別に資するため,処遇場面を通じて得られる行動観察を記録するなどの観護処遇も,少年鑑別所の大切な機能である。
 収容鑑別のほかには,法務省関係の機関である検察庁,少年院,地方更生保護委員会及び保護観察所の長からの依頼による鑑別(法務省関係の鑑別)と,その他の一般市民,公私の団体等から少年の鑑別を求められたときに応ずる一般少年鑑別とがある。
イ 少年鑑別所組織の変遷
 少年鑑別所は,昭和24年に法務府(現在の法務省)所管の施設として設置された少年観護所に付置された。その後,25年には両者が統合されて少年保護鑑別所となり,さらに,27年には少年鑑別所と名称が改められて現在に至っている(本編第2章第3節2参照)。少年鑑別所は,原則として,家庭裁判所に対応して設置されており,その数は,平成9年3月31日現在,本所52,支所1となっている。
 少年鑑別所の内部組織は,所長の下に庶務,観護,鑑別及び医務(ただし,医務課を欠く施設もある。)の4課が置かれ,施設の規模に応じて次長が置かれていたが,63年4月に「少年院及び少年鑑別所組織規程」の一部が改正され,観護課及び鑑別課は統合されて鑑別部門となり,首席専門官1人が置かれ,その下に複数の統括専門官,専門官等を配した専門官制が導入された。
ウ 少年鑑別所における処遇の変遷
 少年鑑別所は,第二次世界大戦終結後新たに発足した施設として,非行少年の処遇に科学主義を導入する使命を担い,鑑別に携わる行動科学の専門家や医師が集められ,昭和25年には広く少年の健全育成に貢献するため,前記の一般少年鑑別制度が設けられた。そして,少年鑑別所発足から30年代にかけて,施設建物,人材の整備が着実に進み,特に鑑別技術上では,欧米から臨床的諸知見・技術の紹介・導入が積極的に図られ,鑑別担当職員の体系的研修も開始された。
 しかし,全国的には,なお施設運営上の不均衡,観護処遇や鑑別手続等における施設間格差もあり,この課題に対応するため,昭和40年代に,鑑別業務の標準化作業が始められた。そして,42年から人格診断に活用するための法務省式心理検査の開発,49年から鑑別担当者の研修教材としての「鑑別事例集」の刊行が実施された。また,この時期は,交通事犯少年に対する固有の鑑別が要請されたため,48年には交通鑑別の実施要領をまとめた「交通鑑別ハンドブック」が刊行された。
 昭和50年前後からの非行少年の質的変化・多様化に対応し,鑑別精度の向上が促進され,52年から少年院の運営改善の実施に伴い,少年鑑別所においても少年院をはじめとする処遇関係機関との連携の強化が要請された。また,61年には,鑑別対象少年の行動傾向の変化,少年院処遇の多様化,鑑別技術の進歩等に対応するため,鑑別結果通知書の様式及び記載要領の全面的改正がなされた。さらに,平成3年には,収容鑑別の判定及び調査の内容について一定の水準を担保することを図るため,収容鑑別の実施方法等が通達によって定められた。収容鑑別のための調査においては,鑑別面接,心理検査等のほかに,収容中の通常の生活場面における行動及び意図的に一定の条件を設定した場面における行動を綿密に観察し,行動面から少年の特質及び問題点を把握するなど,少年を収容することの利点を活用するよう配意された。さらに,鑑別水準の向上に資するため,「収容鑑別のためのオリエンテーション」をはじめとした執務手引及び執務資料が順次刊行された。
(2) 入・退所状況の推移
ア 入所状況
 II-61図は,昭和24年以降の少年鑑別所新収容人員の推移を見たものである。

II-61図 少年鑑別所新収容人員の推移(昭和24年〜平成8年)

 新収容人員は,昭和24年には1万6,094人であったものが,少年法の適用年齢が20歳未満に引き上げられた26年には4万820人と最高に達した。その後いったんは減少したものの,32年には3万人を超えて増加に転じ,35年に3万8,661人と第二のピークを迎え,41年まで3万5,000人前後で推移した。
 その後は急減し,49年には最低の1万410人を記録したが,50年から増加に転じ,さらに,59年に2万2,593人と第三のピークとなった。60年以降平成7年まで減少傾向を示していたが,8年における新収容人員は1万5,569人(男子1万3,657人,女子1,912人)と前年より1,304人(9.1%)増加している。また,8年の一日平均収容人員は993人であり,前年より78人(8,5%)増加している。(巻末資料II-39参照)
 司法統計年報によると,平成8年に観護の措置として少年鑑別所送致決定のなされた少年は,一般保護事件では1万3,613人,道路交通保護事件では1,957人で,家庭裁判所が受理した少年のそれぞれ7.1%,1.8%を占めている。少年鑑別所への収容には,観護の措置としての少年鑑別所送致のほか,勾留に代わる観護の措置,勾留等があるが,平成8年における少年鑑別所新収容人員1万5,569人の入所事由を見ると,観護の措置が84.4%で最も多く,次いで,勾留に代わる観護の措置が12.4%となっている。
イ 退所状況
 最近10年間の少年鑑別所退所事由別人員の推移を見ると,II-37表のとおりである。この期間における保護観察の構成比はおよそ39%から42%で,少年院送致の構成比はおよそ25%から28%で推移している。
 平成8年における退所事由別人員は,保護観察(42.1%)が最も多く,以下,少年院送致(27.3%),試験観察(14.7%),観護措置の取消し(6.7%)等の順となっている。

II-37表 少年鑑別所退所事由別人員(昭和62年〜平成8年)

(3) 新収容者の特徴
ア 非行名
 II-62図は,昭和53年以降の少年鑑別所新収容者の非行名別構成比を見たものである。この間における窃盗及び虞犯の比率の低下と道路交通法違反及び傷害の比率の上昇が認められる。

II-62図 少年鑑別所新収容者の非行名別構成比(昭和53年〜平成8年)

 平成8年における男女別及び年齢層別非行名については,男子は,すべての年齢層で窃盗が最も多く,次いで,年少少年では傷害,中間少年及び年長少年では道路交通法違反となっている。女子は,年少少年では虞犯,窃盗の順,中間少年では覚せい剤取締法違反,虞犯の順,年長少年では覚せい剤取締法違反,窃盗の順となっている。
イ 年  齢
 II-63図は,昭和29年以降について,新収容者の年齢層別構成比の推移を見たものである。
 新収容者の年齢層別構成比は,昭和29年には,年長少年が57.7%,中間少年が31.5%,年少少年が10.9%であったが,年長少年は44年の62.4%を最高に,その後低下し,平成8年には42.9%となっている。一方,中間少年は起伏を示しながらおおむね上昇し,8年には42.2%となっている。さらに,年少少年は昭和44年の6.9%を最低に,その後上昇し,58年の20.1%をピークとして,以降平成5年まで低下したが,最近3年間は上昇傾向にあり,8年は14.9%となっている。

II-63図 少年鑑別所新収容者の年齢層別構成比(昭和29年〜平成8年)

 平成8年の新収容者の男女別年齢は,男子は17歳(24.7%)が最も多く,以下,18歳(22.3%),19歳(21.4%)の順となっており,女子は17歳(22.0%)が最も多く,以下,16歳(18.3%),19歳(18.2%)の順となっている。
ウ 収容鑑別対象少年の特性
 II-64図は,昭和62年以降の少年鑑別所入所者のうち,収容鑑別を終了した少年の入所前の問題行動について,「経験あり」の占める比率を男女別に見たものである。性経験,家出,万引き,覚せい剤使用及び有機溶剤使用については,女子の比率の方が,一方,無免許運転及び暴走行為については,男子の比率の方が,それぞれ上回っている。また,覚せい剤使用の比率が平成7年,8年と上昇しており,女子の上昇の程度が著しい。反面,有機溶剤使用の比率は,男子は4年以降,女子は2年以降,それぞれ低下している。

II-64図 収容鑑別終了少年の入所前の問題行動の比率(昭和62年〜平成8年)

 なお,平成8年の収容鑑別対象者について,喫煙・飲酒経験を男女別及び年齢層別に見ると,喫煙は男女共に,どの年齢層でも90%を超えている。飲酒は,男子では,年長少年が89.6%,中間少年が85.4%,年少少年が72.1%となっており,女子では,年長少年が88.7%,中間少年が86.4%,年少少年が81.0%となっている(法務省矯正局の資料による。)。
(4) 少年鑑別所の鑑別・観護
ア 鑑別業務
 II-65図は,少年鑑別所における収容鑑別の対象少年に対する標準的な鑑別の流れを示したものである。

II-65図 少年鑑別所における収容鑑別対象少年の鑑別の流れ

 収容鑑別においては,収容鑑別の基準に従い,鑑別のための面接,身体状況の調査,心理検査,精神医学的検査・診察,行動観察及び関係機関,家族等からの資料(外部資料)の収集が行われる。これらの結果から得られた情報は,判定会議において総合され,当該少年の資質の特質及びその問題点並びに少年を非行に走らせた要因及び再非行の危険性の程度が明確にされる。
 そして,改善更生のための最適の処遇方針等が鑑別判定意見として決定され,審判の前には,鑑別結果通知書としてまとめられ,家庭裁判所に提出される。
 鑑別の結果は,他の記録とともに少年簿に記録され,保護処分の決定がなされた場合,その処分の執行に資するため,少年院,保護観察所等へ送付される。また,少年院送致の決定があった場合には,少年鑑別所は,少年院における処遇の参考に供するため,処遇指針票を作成し,少年の身柄と共に少年院に送付している。
 在宅鑑別は,少年を家庭裁判所,少年鑑別所等に出頭させて行うもので,鑑別のための調査は,時間的な制約から,面接及び心理検査による場合がほとんどである。鑑別の結果は,鑑別結果通知書にまとめられ,家庭裁判所に提出される。
 法務省関係の鑑別は,関係機関からの依頼によるもので,[1]検察庁から,主として捜査段階における少年に対する簡易鑑定,[2]少年院から,主として処遇の過程において,問題等を改めて見直し,処遇計画の変更を考慮する必要がある少年に対する再鑑別,[3]地方更生保護委員会・保護観察所から,主として仮釈放の審理又は保護観察の実施のため必要がある少年に対する鑑別がある。
 一般少年鑑別は,主として社会一般の少年の教育,職業指導その他育成補導に関する方針の決定に資するため,一般市民,公私の団体等から依頼されて資質の鑑別を行うものである。こうした業務を通じ,少年鑑別所は,地域社会の青少年相談センターの役割を果たし,広く一般市民の要望にこたえ,青少年の健全育成,非行防止等に寄与している。
イ 鑑別状況等
 II-66図は,昭和37年以降の鑑別受付人員の推移を見たものである。法務省関係の鑑別のうち,保護観察所等からの依頼鑑別は増加し,最近5年間は1万人前後に達しており,この対象者のほとんどが交通事犯である。一般少年鑑別は,最近5年間,2万8,000人前後で推移している。

II-66図 鑑別受付人員の推移(昭和37年〜平成8年)

 平成8年の鑑別受付人員総数は,前年と比べ1,959人(3.5%)増加して5万8,185人となっている。鑑別受付人員の内訳は,一般少年鑑別が2万7,225人(総数の46.8%,前年比1.2%減)で最も多く,家庭裁判所の収容鑑別が1万6,405人(同28.2%)でこれに次いでいる。
 II-38表は,平成8年における家庭裁判所関係の収容鑑別のうち,鑑別判定を終了した少年について,少年鑑別所における鑑別判定と家庭裁判所における審判決定等との関係を見たものである。鑑別判定において在宅保護が相当とされた者では,77.6%が保護観察に,13.0%が決定保留のまま家庭裁判所調査官の試験観察に,それぞれ付されている。また,鑑別判定において少年院送致が相当とされた者では,53.6%が少年院に送致されているが,23.4%が保護観察に,18.4%が試験観察に,それぞれ付されている。

II-38表鑑別判定と審判決定等との関係(平成8年)