前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 平成 9年版 犯罪白書 第2編/第7章/第1節/1 

第7章 非行少年の処遇

第1節 少年事件の検察及び裁判

1 少年検察

(1) 少年検察の変遷
 少年検察とは,検察官による少年事件に関する捜査・処理等をいうものであるが,その機能は,第二次世界大戦終結前と終結後とでは大きく異なったものとなっている((旧)少年法と現行の少年法の概要については,本編第2章第2節参照。)。(旧)少年法の下では,18歳未満を少年とし,犯罪少年又は虞犯少年に対して保護処分を行うことができることとされていたが,軍人軍属である少年,大逆罪等大審院の特別権限に属する罪を犯した少年及び刑事手続により審理中の少年は,少年審判所の審判に付することかできず,保護処分の対象から除外されていた。また,死刑,無期又は短期3年以上の懲役若しくは禁錮に相当する罪を犯した少年及び処分時16歳以上の罪を犯した少年の事件については,まず,検察官が起訴・不起訴を決定し,起訴せずに保護処分相当と認めて少年審判所に送致した場合と,起訴した後に裁判所の審理の結果により保護処分相当として少年審判所に送致した場合に限り,少年審判所はその少年を審判に付することかできるものとされていた。
 したがって,警察に検挙された少年事件については,そのうち違警罪即決例等により警察で処理された軽微な事件を除いて,検事局に送致され,検察官は,起訴すべきものについては公訴を提起し,情状等により訴追を必要としないときは起訴猶予にし,また,保護処分が相当と認めたものについては事件を少年審判所に送致することとなっていた。さらに,検察官は,起訴後,裁判所が保護処分を相当として少年審判所へ事件を送致する決定に対して,抗告することができた。
 一方,現行の少年法では,20歳未満(ただし,暫定措置として昭和25年までは18歳未満。)を少年とし,少年事件は,まず家庭裁判所に送致され,保護処分に付するか,あるいは,刑事処分を科するのが相当であるかの選択を家庭裁判所にゆだねることに改められた。すなわち,現行法制では,少年事件のうち,罰金以下の刑に当たる罪の事件は,警察から直接家庭裁判所に送られ,禁錮以上の刑に当たる罪の事件は,まず検察官に送致され,検察官は,捜査の結果,犯罪の嫌疑があると思料するとき又は嫌疑がなくても将来罪を犯すおそれがあって家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは,事件を家庭裁判所に送致しなければならないこととなっている。家庭裁判所が,審理の結果,その罪質・情状を考慮して刑事処分を相当と認めて検察官に送致(いわゆる逆送)した場合に限って,検察官は公訴提起の措置を採ることができることとされている。ただし,罰金以下の刑に当たる罪の事件又は送致のとき16歳に満たない少年の事件は,家庭裁判所から検察官に送致することはできないこととされている。このほか,現行法制では,家庭裁判所が刑事処分を相当と認めて検察官に送致した事件について,検察官は,公訴するに足りる犯罪の嫌疑があると思料するときは原則として起訴の義務があり,また,家庭裁判所の決定に対して,検察官からの抗告が認められていないことなど,少年事件に対する検察官の権限は,(旧)少年法の場合と比較して縮小されたものとなっている。(本編第2章第2節参照)
(2) 検察庁受理事件の推移
 II-53図は,昭和25年以降の検察庁新規受理人員総数及び総数に占める少年の比率(以下,本項においては,「少年比」という。)を見たものである。少年の新規受理人員総数は,40年に79万3,318人と最高に達した。さらに,58年に60万1,572人のピークに達し,その後減少している。この変動の主な理由は,道交違反の受理人員の増減によるものである。少年比は,44年に24.1%と最高に達し,その後平成元年に20.5%となった後は減少している。
 平成8年における犯罪少年の検察庁新規受理人員総数は,28万58人(少年比13.6%)であり,うち刑法犯が17万5,202人(総数の62.6%),特別法犯が10万4,856人(同37.4%)である。また,交通関係業過を除く刑法犯は13万2,524人(同47.3%),道交違反を除く特別法犯は8,383人(同3.0%)となっている。

II-53図 少年・成人別検察庁新規受理人員の推移

II-54図 年齢層別犯罪少年の検察庁新規受理人員の推移

 II-54図は,昭和52年以降の検察庁における犯罪少年の新規受理人員(交通関係業過及び道交違反を除く。)について,年齢層別にその推移を見たものである。最近における年少少年の減少が認められる。
 II-55図は,平成8年の新規受理人員に占める少年比を罪名別に見たものである。横領(その大部分が遺失物等横領),窃盗,恐喝及び毒劇法違反において少年比が高くなっている。(巻末資料II-35参照)
 検察官は,少年被疑事件を家庭裁判所に送致するときに,少年の処遇に関して意見を付すことができる。平成8年の交通関係業過及び道路交通法違反事件を除く家庭裁判所終局処理人員について,検察官が付した刑事処分相当,少年院送致相当,保護観察相当の各意見の比率と,家庭裁判所の終局処理結果における,これら三種の処分との比率を比べると,殺人・強盗の凶悪事犯及び年長少年による特別法犯について,検察官が保護観察相当の意見を付した比率よりも,家庭裁判所が保護処分に付した比率が高いことを除けば,刑法犯,特別法犯共に,各年齢層において,家庭裁判所の終局処理結果の各比率は,検察官の付した各意見の比率を下回っている。(巻末資料II-36参照)
 家庭裁判所が検察官に送致したいわゆる逆送事件について,平成8年における検察庁処理状況を見ると,起訴人員総数9,478人のうち,97.9%が交通関係業過及び道交違反である。起訴された少年のうち公判請求された者の割合は,総数では3.2%(刑法犯では37.3%,特別法犯では0.6%)にとどまり,その他は略式手続により処理されている。(巻末資料II-37参照)
 なお,昭和62年以降の10年間についての逆送状況を見るために,刑法犯(交通関係業過を除く。以下,本項において同じ。),殺人,強盗及び交通関係業過の新規受理人員に対する家庭裁判所からの逆送による受理人員の比率を示したのが,II-56図である。
 刑法犯は0.2%前後を,殺人はおおむね10%から20%前半の間を,強盗は1%から5%の間を,それぞれ推移しているが,一方,交通関係業過は,昭和62年が7.9%であったものの,その後年々低下し,平成8年は1.9%となっている。

II-55図 検察庁新規受理人員の罪名別少年・成人構成比

II-56図 検察庁新規受理人員に占める逆送少年の比率