前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 平成 9年版 犯罪白書 第1編/第2章/第2節/1 

第2節 特別法

1 交通関係法令

(1) 道路交通法
 終戦時における交通関係取締法規としては,道路取締令(大正9年内務省令第45号),自動車取締令(大正8年内務省令第1号),警視庁令及びその他の府県警察令が施行されていた。
 戦後間もなく,自動車の増加とあいまって交通事故も増加し,道路における危険防止及びその他の交通の安全を図ることが特に緊要であったこと,並びに,前記各交通取締法規が,日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律(昭和22年法律第72号)によって昭和22年末をもって失効すると解されたことなどから,これらに代わって,道路における危険防止その他の交通安全のための規制を定め,一定の違反者を処罰する規定等を設けた道路交通取締法(昭和22年法律第130号)(以下,本項において「取締法」という。)が昭和22年11月に公布され,23年1月から施行された。
 取締法は,制定以降昭和30年代の前半にかけて,部分的な改正が重ねられたが,この間の我が国の交通事情は,自動車の急激な普及及び増加に伴って著しく変化し,特に大都市の道路交通事情が大きく変ぼうを遂げた。このような交通事情の変化に対処するために,35年6月には,新しい時代に即応した道路交通の基本法としての道路交通法(昭和35年法律第105号)(以下,本項において「道交法」という。)が公布(同年12月施行)され,取締法は廃止された。この道交法においては,過失犯処罰規定及び両罰規定が整備されるとともに,取締法と比べて,法定刑の引上げがなされている。
 道交法は,昭和35年の制定以降,交通事情の変化等に対処するため,多数回にわたる一部改正がなされているが,刑事司法手続との関係で特筆すべき改正としては,交通反則通告制度の導入がなされた42年の一部改正(同年8月から43年9月にかけて施行),及び,罰則全般にわたって罰金額の上限がそれまでの2倍程度に引き上げられた61年の一部改正(62年4月施行)がある。
 交通反則通告制度の採用に先駆け,昭和38年1月からは,取締件数が激増する状況の下,取締りの迅速処理のために,運用面での施策として,「道路交通法違反事件迅速処理のための共用書式」,いわゆる「交通切符制度」が導入された。この交通切符は,違反取締りに当たる警察官の書類作成を簡略化するとともに,検察庁や裁判所においても共用できるものとし,略式手続や交通事件即決裁判手続をより迅速に処理できるようにしたものである。
 しかし,その後も同法違反の取締件数は増加し,交通切符制度をもってしても事件の処理にはかなりの時間と労力を要することとなり,また,大量の違反者が,その違反の軽重を問わず,すべて刑罰を科されることは,刑罰の感銘力を乏しくする結果となりかねなかった。そこで,昭和42年の道交法の一部改正によって「交通反則通告制度」が導入された。この制度は,当時大量に発生していた同法違反事件について,事案の軽重に応じた合理的な処理方法を採るとともに,その処理の迅速化を図ることを目的として導入されたものであり,[1]車両等の運転者等が行った一定の同法違反を反則行為とし,[2]反則行為をした者のうち,悪質でなく,かつ,危険性の低い行為に係る者(例えば,無免許運転,酒酔い運転等をした者以外の者)を反則者として,[3]警視総監又は警察本部長が反則者に対して行う通告に対し,反則者が反則金を期日までに納付することによって,反則者は公訴を提起されないというものである。この制度の導入により,反則者による反則行為に対しては,それまでの交通切符(通称「赤切符」)に代わって,反則切符(通称「青切符」)が使用されることとなった。反則切符は,交通反則告知書,免許証保管証,交通事件原票,交通反則通告書等から構成され,複写式で迅速な作成と処理が可能となった。
 交通反則通告制度は,導入当初は成人に対してのみ適用されていたが,昭和45年5月の道交法の一部改正(同年8月施行)により,少年にも適用されることとなり,反則金を納付した少年は家庭裁判所の審判に付されないこととなった。また,61年の同法の一部改正(62年4月施行)により,同制度の反則者と反則行為の範囲がそれぞれ拡大された。
(2) 自動車の保管場所の確保等に関する法律
 大都市における道路交通量の増加に伴う交通渋滞に加えて,車庫等の保管場所を有しない自動車が多数道路上に放置されるなどの新しい道路交通事情にかんがみ,自動車の保有者等に自動車の保管場所を確保し,道路を自動車の保管場所として使用しないよう義務づけるとともに,自動車の駐車に関する規制を強化することによって道路使用の適正化,道路における危険の防止及び道路交通の円滑化を図ることを目的として,昭和37年6月に自動車の保管場所の確保等に関する法律(昭和37年法律第145号)が公布され,一部を除いて同年9月から施行された。
 同法は,路上駐車に伴う交通の渋滞や事故を防止するための対策の一環として,しばしば改正が行われており,特に,平成2年の一部改正(3年7月施行)は,自動車の保管場所の継続的確保を図る制度を設け,保管場所の確保されていない自動車の保有者に対して,自動車の運行を制限する措置を設けるなど,同時に公布(3年1月施行)された,いわゆる放置行為に係る罰金の額及び反則金の限度額を引き上げた道交法の一部改正とあいまって,いわゆる放置車両に対する規制の強化を図った。
(3) 道路運送法及び道路運送車両法
 昭和22年に制定された(旧)道路運送法(昭和22年法律第191号)の不備を是正し,道路運送事業の適正な運営と,公正な競争を確保するとともに,道路運送の秩序を確立することなどを目的として,26年6月,現行の道路運送法(昭和26年法律第183号)が公布(同年7月施行)され,(旧)道路運送法は廃止された。現行道路運送法は,無免許・無許可・無届出により自動車運送事業を経営した者に対する罰則規定のほか,自動車道又はその標識を損壊するなどの方法で自動車道における自動車の往来の危険を生じさせる行為,人の現在する一般乗合旅客自動車運送事業者の事業用自動車を転覆させ又は破壊する行為等を処罰する規定を設けている。
 また,(旧)道路運送法に規定され,かつ,詳細を省令にゆだねていた道路運送車両の保安・整備に関する事項について,単行法を設けてこれを法律に規定することとし,昭和26年6月,現行の道路運送法とともに道路運送車両法(昭和26年法律第185号)が公布(一部を除き同年7月施行)された。
 同法は,自動車登録番号標等の偽造・変造等,同法に違反する一定の行為に対する罰則規定を設けている。
(4) 自動車損害賠償保障法
 自動車事故の急激な増加に伴う被害者の保護の万全を期し,自動車損害賠償保障制度を確立するため,昭和30年7月,自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号)が制定(同年8月から31年2月にかけて施行)された(同法の概要については,本編第7章第3節参照。)。
 同法には,同法で定める自動車損害賠償責任保険等の契約が締結されていない自動車を運行の用に供する行為,行使の目的をもってする保険標章等の偽造等,同法に違反する一定の行為に対する罰則規定が設けられている。