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 平成 8年版 犯罪白書 第3編/第5章/第2節/1 

第2節 長期刑受刑者等の処遇

1 長期刑受刑者の処遇

 平成7年12月31日現在,殺人又は強盗の罪名により自由刑を執行されている受刑者は,それぞれ3,354人,2,718人である。刑務所においては,交通事犯受刑者を除き,罪名別に異なる処遇を行うことはないが,殺人・強盗等の凶悪犯罪の受刑者の多くはおおむね長期の刑を執行されているので,ここでは,長期刑受刑者を収容する施設において,どのような配慮の下に実際の処遇が行われているかを概観することとする。
 受刑者のうち執行刑期が8年以上の者(無期刑の者を含む。)はL級と分類され,犯罪傾向が進んでいない者はLA級,進んでいる者はLB級と細分化されている。平成7年12月31日現在のLA級の受刑者は1,326人,LB級の受刑者は1,756人である。平成7年の新受刑者中L級と分類された者のうち,殺人・強盗の罪名の者は87.0%を占める。全受刑者中に占める長期刑受刑者の構成比は近年低下しており,実人員に,些いても漸減傾向にある。L級受刑者の全受刑者中に占める比率は,平成7年12月31日現在8.0%である。
 L級受刑者の収容施設として,LA級受刑煮については千葉刑務所,岡山刑務所が,LB級受刑者については岐阜刑務所ほか4か所が指定されている。
 なお,女子,外国人(日本人と異なる処遇を必要とするもの。),少年等の受刑者については,刑期に関係なく収容施設が指定されている。
 長期刑受刑者の中には,殺人・強盗等の凶悪犯罪による受刑者が多く,処遇について大切なことは,受刑者の特性を十分に知ることである。また,暴力団と関係がある者については,粗暴的性格に加え,他の受刑者に対する影響力等も考慮し,処遇上,警備上の厳格な注意を要するところである。
 L級施設の受刑者は長期間刑務所内で生活するため,長期的展望に立った計画により処遇を行い,あらゆる改善の機会をとらえて集団生活に適応させ,社会復帰の目標を持たせ乞ように努めている。長期刑受刑者の心情を理解し,感情・情緒・態度等の起伏を把握し,将来の希望を失わないよう柔軟に,かつ,厳格に接することが処遇の基本となっている。また,暴力団加入者に対しては,分離・分散を原則として争論等の防止を図るとともに,暴力団からの離脱指導を行っている。
 受刑生活の中心を占める刑務作業において,長期刑受刑者が,長期間継続して就業する関係から,例えば,高級剣道防具,手織の絹織物,鎌倉彫を施したタンス等技術の習熟に数年を要する質の高い製品を製作している施設もある。また,長期刑受刑者のうちには,総合職業訓練施設に移送され,社会復帰に必要な各種の職業訓練を受講しているほか,それぞれの施設において実施されている木工,建築,左官,美容師養成等の職業訓練に参加している者もいる。
 長期刑受刑者の中には,殺人等により人の生命を奪った者が多いこともあり,被害者に対するしょく罪の気持ちから,宗教行事.には関心が高く,宗教教誨は活発に実施されている。長期刑受刑者は所内で高齢化し,成人病等の疾患にかかり,しかも精神的な問題も生じてくることが多い。これら心身の症状を示す長期刑受刑者を収容する医療刑務所等においては,保安上の事故防止に配慮しつつ,適切な医療を実施している。
 長期刑受刑者の釈放に当たっては,社会復帰の意欲をhたせ,体力を増強し,社会生活に必要な知識を与えるための講義等,釈放前や指導を実施するほか,市内の交通機関や買い物の体験,公共職業安定所,保護観察所への訪問などを実施している。
 なお,長期刑受刑者については,釈放後の一定期間更生保護施設において生活させ,円滑な社会復帰ができるよう援助する中間処遇の制度がある(本編第7章第3節参照)。