第2節 薬物犯罪
1 概 説 薬物の濫用は,日本のみならず諸外国においても従来から深刻な社会問題となっており,各国独自の国内的対策がとられてきたほか,その地球的規模に立った効果的な抑制が世界共通の緊急課題であるとの認識が醸成されてきた。現在,薬物濫用防止対策に関する国際的な規範は,国連で採択された多国間条約が中心となっているが,最近では,1988年に「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」が採択されたほか,1990年には国連の麻薬統制に関する役割を強化するため,国連総会において「国連薬物統制計画」(UNDCP)の設置が決定された。また,主要先進国首脳会議(サミット)も,しばしば麻薬問題を取り上げ,この問題に関しての国際協力強化の必要性を述べている。我が国においても,平成2年,「麻薬取締法等の一部を改正する法律」により,「麻薬取締法」を「麻薬及び向精神薬取締法」と名称変更し,向精神薬に係る規制を新たに行うとともに,麻薬についての罰則を強化した。また,4年に前記国連条約を批准し,その国内担保措置として「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(以下「麻薬特例法」という。)等を制定し,麻薬等の原材料に関する規制を強化したほか,国際的なコントロールド・デリバリー(監視付き移転)を可能とする規定,不法収益の必要的没収・追徴規定,マネー・ローンダリング(不法収益等隠匿)の処罰に関する規定等を設け,4年7月1日から施行し,実務上その運用が定着しつつある。 警察庁生活安全局の資料によると,平成7年における薬物事犯(覚せい剤取締法違反,麻薬取締法違反,あへん法違反,大麻取締法違反及び毒劇法違反をいう。以下,本節において同じ。)の検挙状況から見て特に注目される事犯の動向は,[1]覚せい剤事犯の検挙件数・検挙人員が前年と比べ急増するとともに,密輸入の現場である水際以外の各地で大量押収事例(一度に1キログラム以上を押収した事例)が相次いだこと,[2]大麻事犯については,押収量が増加したこと,[3]来日外国人による薬物事犯の検挙が依然として顕著であることの3点である。
|