第4節 処遇上の問題点と対策 我が国の行刑施設には,常時約1万人の覚せい剤事犯受刑者が収容され,そのほとんどの者は覚せい剤を自ら使用した経験をもっている。このことから,行刑施設は,薬物濫用者処遇に関し,極めて重要な役割を担っているといえよう。 覚せい剤事犯受刑者を処遇することにより,行刑施設では,薬物濫用の実態,薬物依存者の心理,覚せい剤濫用防止教育の内容と効果等,様々な情報を集積することが可能である。行刑施設においては,これらの知識を外部関係機関と一部共有し,関係機関からは最新資料を入手し,総合的な情報を活用して,より有効な覚せい剤濫用防止教育を推進する努力が続けられている。 覚せい剤事犯受刑者を指導し,覚せい剤と決別した生活へと導くには,指導者の特別の技能と経験が必要である。覚せい剤使用経験者による集団討議に際し,誤った指導をすれば,覚せい剤に対する好奇心を逆に刺激することにもなる。また,覚せい剤濫用を通じた知り合い同士や,反社会性の強い受刑者については,覚せい剤濫用防止指導のための集団を編成する上で困難が生じている。 このため,各地において指導技術を高めるため職員研修が計画され,研究会において処遇の実践に関する報告が行われ,処遇事例集も発刊されている。さらには,近い将来,覚せい剤濫用防止指導に関する基本教材の作成が予定されている。 また,覚せい剤濫用防止指導の効果を期待できる者に対しては,作業の種類や居室の指定を工夫して指導時間を確保し,教材や教育設備等を整備するなどの配慮がなされている。現在,覚せい剤防止指導を作業時間中に実施している矯正施設は約半数である。 処遇の効果を判定することは,今後の改善にとって重要であるが,覚せい剤乱用防止指導の効果を評価する方法として,矯正施設では,受講者から感想文・アンケートを提出させ,日記指導を行い,座談会で意見発表を行わせるなどして,その内容を検討している。 覚せい剤事犯受刑者の再犯防止のためには,暴力団からの離脱,家族との関係改善等を含めて,社会内処遇との連携が重要であり,特に,平成6年10月から矯正施設における出所時教育の内容が強化され,社会内処遇との連携を図り,釈放前の受刑者が社会復帰の具体的計画を立てられるよう指導と援助が行われている。 本章において述べてきた状況から,今後,法律を無視して長期間覚せい剤の使用を継続し,受刑を繰り返す覚せい剤事犯受刑者に対する適切な処遇を更に充実してゆく必要がある。また,好奇心から覚せい剤の使用を始める者の比率が高くなっていることから,より効果的な啓発活動を実施し,新たな濫用者の出現を防止する対策も望まれる。
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